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専門誌掲載コラム「人間のチカラ」

台風21号は1961年(昭36)の大阪直撃での第2室戸台風以来、最大の台風との事で、弊社もかなりの影響を受けました。この台風は9月4日12時頃に徳島に上陸、14時頃に神戸に再上陸しました。強烈な風でニュースなどでも報道されましたが、街では看板どころか車まで飛ばされる有様でした。また満潮の時刻とも合致する時間帯とのことで高潮にも注意という状況でした。海沿いにある知り合いの社さんへの高潮も心配しましたが、その社の担当者から「も~びちゃびちゃや~。でも設備や運用は大丈夫!」との電話があり安心しました。この頃、本社から大阪の街を見渡すと、鳥のようにコンビニ袋や傘、発泡スチロールが舞っていました。本社では、瞬停が多発しましたがUPSのおかげで運用に支障はありませんでした。が、少し遠方の山頂にある設備では大変な事態となっていました。
弊社の設備は●●山という***m級の山頂にあります。この設備は、弊社と他社様が共同で建設した所で土地から建物、受電系から様々な設備を共同運営しており、独自で運用する設備が各社のモノという完全共同運営となっています。
電源系設備としては、6,600Vの2系統受電(常用・予備)と自家発電機(燃料は約3日分)を持っています。この2系統受電化は1972年(昭47)~73(昭48)年頃に大雨により停電が頻発したことと、この頃電力会社が新たな変電所を建設するということから、新変電所からの受電ルートを作ろうということになり、2系統化を行ったと記録にあります。
さて台風21号が神戸に再上陸してから、以下のような状況と対応になりました。

【9月4日(火)】

台風21号14時頃の再上陸前より自家発電機の待機運転実施。13時~運用継続のための予備のデータ伝送線接続。14時05分:電力会社からの受電予備線停電(~9月12日復旧)。16時30分06秒 電力会社受電常用線停電 →自家発系統に切替り。→受電常用線復帰。しかし受電不
安定と判断し、自家発系統で運用継続。


【9月5日(水)】

4時29分35秒 常用線停電発生後、復帰。自家発運用を継続。
※現地調査のため作業員派遣 →出向道は倒木多数・土砂崩れありのため通行不能(=給油不能)→受電常用線(送電あり)は電柱1箇所倒壊。電線が”たら~ん”となっている状況。
※この時点で電力会社より報告 →受電予備線は電柱倒壊多数。復旧予定立たず。

【9月6日(木)】

朝~ 自家発燃料不足の懸念。保守メンテナンス会社数社に人力燃料補給の検討依頼。→停電域が広く他社への対応などで人員不足の状態で困難。→共同運営社と受電常用線に切戻しを模索。今後の大雨予想もあり受電に切戻して燃料を温存する方向性を確認。→15時58分 受電常用線に切替。 ※電力会社より報告 →常用線の送電は止めないが、地絡送電事故(=停電)の可能性はあり。→共同運営社より人海戦術による給油実施の相談(対応可能会社を見つけた!)。→緊急時判断で実施決定。

【9月8日(土)】

燃料給油実施。人員10名で18Lポリタンを背負子で5往復。この後、市による道路復旧工事完了。車両通行可能に。これで「峠は越えた」と安心。


背負子での燃料補給は上述した1972年大雨時に実施以来、2度目の出来事でした。まさに50年に一度と言われた台風です。違いと言えば、当時は「石油缶」(昔のコントで上から落ちてくるやつですよね)、現在は「ポリタンク」という点ぐらいのようです。今回、1972年には(おそらく)なかっただろう“不整地運搬車(キャタピラ)”の投入も検討しましたが、倒木を越えての搬送は出来ず、やはり最後は人間の力。有史以前からの先祖代々、人間が2本の足で倒木・土砂崩れをモノともせずにモノを運ぶ。この人間の力には車両などはとても敵いません。近年、AIで判断して飛んだり歩いたりするドローンや4足歩行ロボットなども出てきていますが、やはりヒトには敵わないと思います。最近はAIに抜かれるのではないか、機械に征服される世の中が来るのではないか?など言われていますが、やはりヒトの力には勝てないのではないかと思いました。
ヒトの力、それは、諸先輩方が整備してきた設備やその考え方、受電2系統化や自家発による電源系の信頼性向上、運用を止めない・継続するという意思とそれを実現する力、また人力輸送などを手配できるある意味”豪腕”な力。皆さんのチカラを結集し、運用継続することができました。
以上“2018台風21号災害レポート”をお届けしました。

(2018年11月専門誌掲載)


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