記憶

転院翌日。コロナ影響で面会禁止の為、今日は少しゆっくりしようと思った矢先、電話が鳴る。

「昨晩10時頃、ご主人が点滴を抜こうとされたので、やむを得ず身体抑制を・・・」「同意書にサインをお願いいたします」「できれば午後5時までに」

ほかにも印鑑やワクチン接種券、服用中の薬など持参してほしいとのこと。

到着すると看護師さんから説明を受けた。

「手首あたりだと抜きやすくなるので、肩につけていたのですが」「気づいたときは抜きかけ状態でした」

「だれかが傍に来るとかなり暴れるんです」

「なんでここにいるんだって様子で」

緊急センターから転院して、急激な変化に戸惑っているのだろう。それにしてもなんちゅう力だ。右半身動かせないと言うのに。「その力、リハビリに活かそうね」ですよね。

片目が見えない状態だし、本人にはわからないかもしれないけれど。素直になれますようにと、可愛い猫ちゃんの写真立てを差し入れた。枕元に置いてもらえるそうだ。

少し食欲も戻ってきた。

無理に食べて力をつけなきゃ、から、お腹すいてきたから食べようへ。

春が近づいてきている。

今日も良い天気だった。

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点滴を抜こうとしたこと、身体抑制されたことを覚えているのか?
本人に訊いてみたけど「覚えてない」らしい。

自分が倒れて緊急搬送されたこと、転院してからの記憶はすっぽり抜けているようです。
4月頃に介護認定審査を受けているはずだけど、これも記憶がないし。
「わけわからん間に終わってた」
「ワクチン打ったのも覚えてない」

4月のアタマからスカイプ面会を始めた。
10分ほどの短い会話。舌が麻痺しているため、
最初は「なんて言ってるの?」状態。
こちらの質問にも「わからん」を連発。

大丈夫か?相当記憶が抜け落ちてるんじゃないか?
わたしのことはわかるけれど。

少しずつ会話ができるようになり、
記憶も戻ってきた。
持ち込んだ携帯(ちなみにガラケー)の使い方も
看護師さんに教えてもらって、頻繁に電話をかけてくるように。

退院の翌朝、開口一番が「くるま!」
自宅に戻ってきて日常が徐々に寄せてきた様子。
「あれはどこにやった」「あれはどうなってる」
忘れている部分が少しずつ削られていった。

「ここにおいてあった(はず)のアレはどこにやった?」
家事と介護の合間に繰り出される過去の質問には
正直参った。

就寝の準備がすっかりできて、さあ寝ましょうという時に
「アレはどこにある?」
ふいと頭に浮かんでくるんだろう。
それはもうクリアに。

こっちはそんなアレのことなんて知らない。
知らないのに在りかを求めて家探ししなければいけない。

「こんなことやってたら、またからだ壊して入院してしまうっ!」
脅し文句を遠慮なく浴びせる。

介護のキーパーソンが倒れたら・・・彼は質問を引っ込める。

最近は珍問答も減ってきました。
1年以上前の記憶はほとんど役に立たなくなり、
この1年間の記憶のほうが大事になったのですから。

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