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ソフトウエアが主導する「センサー技術」の時代

【LiDARでは世界市場を取れなかった日本企業】
「LiDAR」という技術をご存知だろうか?LiDARは、最近のiPhoneにも搭載された技術だが、要するに画像系の複数のセンサーを内蔵して、更に小さなコンピュータも内蔵したデバイスで、例えば自動運転車などでの前方や後方の障害物等の認知などに使う(Wikipediaの日本語解説はセンサーの種類が偏った説明がされているが、現実のLiDARは複数の異なるセンシングシステムをローカルのコンピュータで統合したものだ)。LiDARは自動運転車に搭載されるなどして、大活躍が期待されているデバイスだ。「デバイス」とは言うけれども、「画像を取り込むデジタルカメラ」「極超短波のレーダー」「レーザー光線照射の反射光受信」「画像データなどの統合を行って、障害物を発見するコンピュータとソフトウェア」「認識した障害物などのデータをメインのコンピュータに送るデータ通信機能」などが詰まった「複合デバイス」である。そして、このデバイスの「主役」は、明らかに「複数のセンサーのデータを処理してメインのコンピュータに伝えるAI等のソフトウエア」であることは言うまでもない。しかしながらLiDARの市場には日本メーカーの名前はない。日本はソフトウエアの技術に世界から大きく遅れているからだ。

【日本(の企業)が世界一の時代は終わった】
現在の電子機器の市場の殆どは米国、中国、欧州のメーカーが占めており、現在は日本のメーカーが「世界一」と言われるものはほとんどなくなった。日本に世界一の技術がないわけではないが、その分野は非常に狭くなった。「日本の技術が世界一」の時代は終わり「日本にも良い技術がある」という時代に変わった。

【ソフトウェアが主導しないと価値のあるものができない】
今や、ロボットやAIのデータの入り口となるセンサー技術なども、最終的にはソフトウエアで受け取り、処理し、プログラマーなどがわかる形にしてから処理がされることが普通になった。つまり、現代のセンサー技術は「一つのセンサー」だけに焦点を絞ると、世界に置いて行かれる、という時代になったのだ。

【例として:雪面の高さを測る】
例えば、豪雪地帯での雪面の高さを測ることを考えて見よう。一言で「雪」と言っても、踏み固められた「重い」水分を多く含んだ雪もあれば、さらさらの吹けば飛んでいく雪もある。であれば、雪面の高さを測るにも、様々な方法で、様々な答えを出し、それをソフトウエアで統合して、正しい答えを出す、ということも必要なのではないか?雪面の高さを測る方法としては、レーザー光線を当てて反射波を得るもの、超音波で測るもの、など、様々な方式がある。これらのどれか一つを使うのではなく、全ての方式を使い、ソフトウエアでそれ等のデータを統合して答えを出す、というほうが正確なのは論を待たないだろう。

【センサ研究者の話】
実際、これらの技術を様々触っている現場にいるとわかるのだが、これらのセンサーの「専門家」たる「先生方」には、もちろん、人間だから「プライド」がある。だから「これを測るにはこの方法が最適です」と、自分が研究している1つの方法だけを提示してくることが多い。しかし、そういう時代は終わったのが現代という時代だ。その方法は多くあるセンサーのデータ取得方法の1つに過ぎず、他の方法もまとめてデータを取り、ITが(コンピュータが)それらのデータを統合し本当の正解を出す、という時代に変わった。今の時代はいくら実績がある「偉い先生」の「作品」であるセンサーでも「数ある成果のうちの一つ」として、ソフトウエアで他の先生が作ったセンサーのデータと併せて統計処理され、よりデータの信頼性を上げる。それが主流だ。

【「精度」と「コスト」】
「各種センサーのデータをソフトウエアの統計でまとめる」と、他にも以下の良いことがある。

1.1つのセンサーの測定精度を上げる(高コストになる)より低い精度のセンサーを多数使って(低コストになる)精度を上げるほうが全体として安くなる。センサー1つの精度をより高いものにするのは、多くのコストがかかるからだ。

2.センサーも壊れることがあるが、多数のセンサーの多数決をソフトウエアで取れば、たいていは壊れたセンサーを特定できて、そのデータを外すことができる。全体として安いものでも信頼性が高く壊れにくくなる。一つのセンサーだけを使った場合は、それが壊れるとデータが取れなくなってしまう。

【新しい時代のセンサー技術の要は「ソフトウエア」】
つまり、新しい時代のセンサー技術の要は「複合センサー統合」であり、それを行うソフトウエアエンジニアに、主導が移ったのだ。それが世界の流れだ。アナログの時代で、システムそのものが単純な時代には、センサーの先っちょだけの技術でもなんとかなった。今は技術の価値は「システムでなにが提供できるか」に移ったのだ。

【複数種類のセンサーをまとめるときは「現象」と「事象」を意識して分けよう】
センサーのデータの利用について考えよう。温度センサーの取得できるデータは、例えば、温度であれば、36.5℃です、というものだ。例えば、現在温度センサーには大きく分けて「サーミスター」「熱電対」などの方式があり、これらの方式の中でも、さらに種類が分かれる。温度センサーAでは36.5℃、温度センサーBでは36.7℃となったとしよう(この種のセンサーでは測定結果の多少のばらつきはよくある)。しかし、必要な「データ」はこの測った温度が「なんの温度か?」であり「なにが起きているか?」を知ることが必要だ。この温度が人体の脇の下を閉じたその場所の温度だとすると、実際に知りたい情報は「その人に熱があるか、無いか」だ。そこで、単体センサーであれば、その数値を人間が目で見て「熱があるかないかを判断」する。しかし、IT化された完全自動のシステムであれば、この2つのセンサーの値を見て「この人は発熱している」「発熱していない」(熱があるかもしれない、という中間の判断もあるだろう)という判断までシステムとしての「センサー」が行う。更に病院内ですべての患者に体温計測が常時されているとすると、ネットワークを経由して、この人は発熱が長く続いているからアラームを出す、などを多くの入院者をナースステーションで一括管理できる、ということになる。もともとは「温度」という「現象」だったものを多数扱い、人が必要なデータとして表示するから、既にアラームの段階では「何度」という数値ではなく「その人が危険な状態であるかどうか?」という「事象」になる。そして、測定をIT化する、ということは、この「現象」と「事象」を分けて物事を考え、システム化によって、確実性、正確性、コストダウンなどをトータルで実現する、ということだ。センサーのシステム化のキーは「現象」と「事象」を分けて考えることだ。

【コロナのときの実例】
実は、筆者が以前、コロナで入院した(note記事)大病院では、院内にネットワークが張り巡らされていて、入院患者すべてに「パルスオキシメーター(血中酸素飽和濃度測定器)」が装着され、それがネットワークに接続され、全ての入院患者の血中酸素飽和濃度がナースステーションで一括管理されていた。そして、この値が下がると、ナースステーションでアラームが鳴って、その患者をすぐに検査・治療に持っていく、ということができるシステムが動いていた。私はコロナで陽性になり、軽症で病院に入院隔離されたのだが、この測定器が24時間指についていた。そして、入院して4日めにこのシステムによってコロナで重症化したことがわかった。ナースステーションのアラームが鳴ったのだ(当然、私は入院患者だから、ナースステーションを実際に見たわけではない)。今回のコロナでの多くの重症化のときの症状の特徴に「ハッピー・ハイポキシア」というのがあるのだが、これは、それこそ死ぬ直前まで自覚症状が無く非常に元気、という症状だ。つまり、血中酸素飽和濃度を常に測っていなければ重症化がわからない。重症化は自覚症状が出たときは手遅れになることが多くパルスオキシメーターで測っていなければわからないのだ。そして、私のアラームが鳴ったのだろう。私はすぐに肺のレントゲンと肺のCTを取られ、確かにコロナによる肺炎の重症化であると診断が下り(コロナによる肺炎の重症化であると言う診断はPCR検査結果+血中酸素飽和濃度+肺レントゲン画像+CT画像など複数の検査を医師が見て診断が下される。単一のデータのみでは診断は疑いと言うに留まる)、その後、緊急でICUに運ばれた。自覚症状は無く、測定器でのみ、重症化がわかったので、直ぐに検査からの処置が始まった。ICUでの治療の前、ICUの先生に言われた。「なぜあなたがここに来たかわかっていますか?」それくらい「元気」だったのだ。しかし、肺はめちゃめちゃになっていた。

【センサー技術はソフトウエア技術】
既にネットワーク化などを前提とし、かつ、専門の人間が常にいなくてもなんとか社会を維持できてしまう仕組みとしての「センサーネットワーク」は、専門家の関与をできるだけ少なくし、人という非常に有能だが高価な「資源」を、できるだけ使わずに社会を回す、人間社会の一部となっている。そして、それを可能にするのは、インフラとしてのネットワークと頭脳としてのソフトウエアである。

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