「シリコンバレー」は地名ではなく「ブランド」か?
【インターネットが普及する前の話だけど】
インターネットが普及する前、私はシリコンバレー周辺によく仕事で行った。日本に持ってくるものはないか?日本でできる仕事はないか?あるいは、展示会に行ったり、日本に持ってきて翻訳して使える書籍はないか?。展示会はシリコンバレーと言われる米国・西海岸のベイエリアにあるSunnyville周辺などでは、展示会場はなく、SanFranciscoのMoscone Convention Centerか、あるいはSunnyvilleから南に行ってSan Joseに行くことになる。あとは大学だ。Stanford Universityの門前街のあるPalo Altoや、University of California,Berkeley(U.C.B.)のある、対岸のBerkrleyなどを回って、書籍を探したりしたし、そこの先生方と面会をして、情報を仕入れたり。。。なにせ、インターネットは無かった時代だから、UNIX(現在はLinuxが主流になったけど)などのOSの最新の情報は「現地に行く」のは必須だったからだ。「シリコンバレー」は「俗称」で、実際に行くところの地名は、Sunnyvilleを中心にした地域だったのだが。しかし「Sunny(日差し)」「Ville(村)」ですよ。日本で言えば「どこでもない感じの地名」ってあるでしょ。「自由が丘」とか。そういう感じの地名ですよね。
【インターネット前のベイエリアでPCを買う】
インターネットが普及する前のベイエリアでは、例えばPCを買いに行くのには、東京の秋葉原のようなところはないので、まず、街の通りにある無料のタブロイドのパソコン系の週刊誌(MICRO TIMESとか、3種類くらいあったかな?)を持ってきて、そこにあるお店の広告を探す。「お、この広告のがほしい!」となったら、そのお店に在庫があるか確認の電話をする。で、OKとなると、クルマを飛ばしてお店に行き、実際のものを見てから、買う。そんな感じだった。
【でも今はインターネットが普及した】
しかし、2000年以降、インターネットがどんどん普及すると、当然、ネットで探してそのままインターネットで買って送られてくるのを待つ、ということになった。しかも最近はeBayとかAmazonとか、大手ネット通販サイトを使うのが普通だ。というか、最近はAmazon一人勝ち、という感じがあるけれども。そうなると、システム開発なども「客先に行って開発する」なんてことも最近は少なくなった。インターネットさえつながっていれば、地球上のどこにいても、ホワイトカラーの仕事、ソフトウエア開発の仕事ができる。だから「シリコンバレー」という「場所」にしても、そこに社屋があるにしても、そこに出勤をいつもする必要はなくなった。ちなみに、現在米国でPCのサポートに電話をすると、電話は(たとえば)インドで取っていて、インド人がサポートを英語でしている。それが普通だ。
【インターネットでなにが動いているか?】
実はインターネットは見えるところではSNSとか、メールとか、Webとか、それだけでもいっぱい、いろいろなものが動いていると思うだろう。これはソフトウエア開発をする人間には当たり前のことだが、その他に、膨大なデータがやり取りされている。なにかというと、最近の高機能なソフトウエアは、「Repository - リポジトリ(ソフトウエアの部品の倉庫のようなもの)」から、有料無料の様々なソフトウエアの「部品」をインターネットで持ってきて、それを組み合わせてソフトウエア製品を作るのが普通だ。このソフトウエアの作り方の仕組みを「オープンソースソフトウエア(OSS)と」言う。つまりソフトウエア製品の開発者は「部品」と「部品」を組み合わせる部分のソフトウエアを作れば良いことになり、それでできたソフトウエア製品を作るのにかかる時間も手間も昔に比べて非常に少なくて済むようになった。場合によっては、そうやって作ったソフトウエア製品も、またリポジトリに登録されて、便利に他のソフトウエア開発者が使えたりする。今、銀行のATMのソフトウエアがまるごとあるし、自動運転車のソフトウエアも全部ある。そして、ソフトウエアにはバグもあるし、改変もある。だから、その部品が独自に部品の開発元と通信をしていて、バグのあるソフトウエアを自動で改変したりする。そして、大きなシステムでは、どこでなにをやっているのか?がさっぱりわからない、ということも多く起きる。インターネットを止めてしまうと「ええ?こんなところが!」というところが突然止まる、ということが当たり前にある。ソフトウエアの部品も製品も、開発は世界中に散らばった個人や組織が、どこでどこがつながっているのか、完全にわかっていなくても、なんとかなってしまう。そういう仕組みが出来上がっている。決して極端な話ではなく、インターネットの回線が止まったら、クリーニング屋のレジが止まるとか、水道が止まる、なんてこともありえるのだ。なにせソフトウエアの開発は「人件費」だから、開発の時間をいかに減らせるか?が製品の価格や利益率に跳ね返る。OSSの仕組み、インターネットをバンバン使って、開発費用や保守費用の削減を図って、競争力を付ける。それが当たり前になった。
【既にシリコンバレーは「無い」かもしれない】
しかも、私たちが普段見ることのできる電子技術の最近の発展は主にソフトウエアに依っている。大雑把に言えば、コンピュータが極小のものまで出来ているから、壁の掛け時計でも、裏側の機械部分はすでに小さなコンピュータとその上に乗るソフトウエアである。すでに「デジタル」でないものを探すほうが難しい世の中になった。新しいものの開発は、ソフトウエアが主になるのは必然的な流れだ。そして、ソフトウエアの開発はオンラインでできる。製品を作る現地でやる必要はない。であれば、製品を作るときに必要なお金を集めやすい場所で会社を作り、技術者はそれぞれが世界中の自分たちが仕事がやりやすいところでやれば良い。結果を出せばいいのだから。つまり「シリコンバレー」という「場所」の価値はどんどん下がっている。
【これはチャンスである】
その代わりと言ってはなんだが、シリコンバレーと同じ「イノベーション」は、シリコンバレー以外でもできる。「シリコンバレー」はおそらくあなたの頭の中にある。そういう時代になったのではないかと思う。既に「音声SNS」で有名になった「Clubhouse」というサービスの開発会社「Alpha Exploration Co.,(サンフランシスコの会社)」が使っている「音声プログラム」の部分は、中国の会社が作っている、という事実もあります。製造業も、ソフトウエアも、既に「グローバル化」の時代です。ましてや、インターネットを通して動かせるものは、既に完全にグローバルになっていると思って良い。逆に言えば、シリコンバレーと関係ない人には「チャンス」なのだ。
●「シリコンバレー」。やがてそれは場所の名前ではなく、世界中に散らばったソフトウエア開発のコミュニティの名前になるだろう。