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『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』に込めた思い

10月26日に発売した新刊『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』(文藝春秋)。同書の「はじめに」の一部を掲載します。

私が起業を決断した日

私自身、まさに起業準備をしながら、『起業のすすめ』を書きました。

私が起業を志すようになったのは、2020年の夏のことです。それまで自分が起業するなど、夢にも思っていませんでした。

別に起業に憧れているわけでも、上場(IPO)して大金持ちになりたいわけでも、それまでの仕事に大きな不満があったわけでもありません。

それなのに、なぜ起業という道を選んだのか?

きっかけは、何気ない会話からでした。

当時、私はNewsPicksという新興経済メディアで働いていたのですが、参画から6 年が経ち、編集部の立ち上げ、動画プロデュース会社の創設・黒字化など、メディアの土台はある程度でき上がったタイミングでした。

次にどんな挑戦をしようかと、ニューヨークで働く創業者の梅田優祐さんとZoomで話していた時に、「佐々木さんは、起業した方がいいのではないか」とアドバイスされたのです。

「ああ、そういえば、起業という選択肢もあった!」。

まさに、灯台下暗し。私自身、メディア人として、数えきれないくらいの起業家に取材してきたのですが、なぜか自分が起業することを真剣に考えたことがありませんでした。

それから1カ月間。ほぼ10年ぶりに、仕事から距離を置いて、自分とじっくり向き合ってみました。

散歩したり、泳いだり、旅行したり、映画を観たり、本を読んだり、家族と語ったり、友人と酒を飲んだり。そんな思索を経て、「人生を楽しみ、生きた証をこの世に残し、日本に貢献するには起業しかない」と達観していったのです。

サラリーマンというアヘン

私は2014年にNewsPicksという経済ニュースメディアに初代編集長として参画し、コンテンツ管轄の取締役、傘下の動画プロデュース会社のCEOなどを務めてきました。

メディアは順調に成長し、プチ成功することはできたのですが、どうも物足りなさを感じていました。

「NewsPicksは大成功していますね」「佐々木さんはイノベーターですね」と社交辞令で言われるたびに、「これを大成功なんて言っていたら笑いモノ。この程度で自分をイノベーターだと思ったら人生終わりだ」と戒めていました。

でも、知らず知らずのうちに、私自身が狭い世界の中でぬるま湯に浸かり切っていたのです。

日本には、自己満足に陥る〝罠〟が随所に張り巡らされています。

ひととき、ハングリー精神を持っていた人や企業でも、あっという間に初心を忘れてしまいます。メディアにちやほやされたり、SNSがバズったり、泡銭を手にしたり、西麻布を飲み歩いたり、一見さんお断りの高級レストランに行ったり、芸能人と友人になったり、ファンに甘い言葉をかけられたり、「気持ちよく」なるためのアヘンが充満しています。

サラリーマンも誘惑だらけです。

大企業であれば、雇用は保障されていて福利厚生も充実している。年齢を重ねるごとに給料が上がり、地位を得れば周りが忖度してくれる。仕事のスケールも一見大きくて、社会的なステータスも高く家族親族も安心してくれる。

サラリーマンも別種のアヘンです。いつの間にやら、心身に忍び込むのがアヘンの怖いところです。

「中毒になる前にアヘンを断たなければならない。起業して全てを自ら背負う覚悟で40歳以降の人生を歩まないと、〝見せかけの幸せ〟に安住してしまう。世の中にインパクトがあることを成し遂げるためにも、サラリーマンを卒業しよう」

そう決意して、18年に及ぶサラリーマン生活に「さよなら」を告げたのです。

人生の「独裁者」になれる

起業してはや半年。これは人生最高の決断だったと言い切れます。なぜもっと早く起業しなかったのかと悔いているくらいです。

起業とは〝現代の元服〟です。この感覚は何かに似ているなと感じていたのですが、18歳の時に福岡県の小倉から上京してきた時と似ています。

東京の大学で学べるワクワクと、新しい土地で暮らすソワソワでいっぱい。恐る恐る親元から旅立つことで、やっと大人への一歩を踏み出した気がしたのです。

それと同じように、サラリーマンから卒業することで、大人の階段を駆け上ることができるのだと思います。

起業家になる醍醐味とは何か?

それは、自分の人生の「独裁者」になれることです。

自分の責任で、自分で決断して、自分の大義のために生きることができる。

普通に働いていると、人は、自分、会社、社会の矛盾に迷い、戸惑いながら生きることになります。確固たる価値観、ビジョンのある人ほど、その軋轢は大きくなりがちです。

「これは面白いし、社会に役立つだろうな」と思うことでも、上司に「そんなのは儲からないし、前例がないよ」と反論されて、泣く泣く諦めた人も多いでしょう。

しかし、起業すると、資本家として会社のオーナーになります。自分のやりたいことを貫いて、成功しても失敗しても、「自分のせい!」と言える。「他人や環境や時代のせいにする」という逃げ道を失う。「自分=会社」です。

愚痴を言っても何も起きません。自分が動かないと会社が死にます。その分、「自分=会社」が 社会のためになることをすれば、社会インパクトを肌でビンビン感じることができます。

つまり、起業すると、個人と会社と社会がシームレスにつながるのです。

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それこそが、起業することの最大の喜びであり、恐れの源泉でもあるのです。

サラリーマン教による洗脳

みなさん、仕事で理不尽な指示をされたり、上司や同僚と意見が合わなかったりしても、渋々、持論を飲み込んで、会社に合わせていることが多くないですか?

私のような自分勝手な人間でさえ、40歳も超えてくると、さすがに「これは組織の決定だから、飲まざるを得ないなあ」と、自分の欲望と折り合いをつけるようになってきます。

社内外のステークホルダーにもっともらしい説明をして、利害を調整することにも慣れてきます。「私の100倍くらい大変な調整を、大企業の人たちは日々行っているんだなあ」と妙に感心するようになりました。

でも、ふと思うのです。

これって進歩なのでしょうか?本当の意味で「大人になる」ということなのでしょうか? 

もちろん大人として成熟するのは美しい。実力もないのに、自分の意見ばかりにこだわる人は迷惑以外の何ものでもありません。妥協は人生の知恵です。

しかし日本の場合、実力や魅力や公共心があって、やりたいこともある人が、「組織で生きていくしかない」「我慢しないとしょうがない」「周りに迷惑をかけられない」と言い聞かせて、はなから諦めていることが多すぎます。常識に蝕まれています。サラリーマン教による洗脳といってもいいかもしれません。

でも、それは自分に対する裏切りであるとともに、組織に対する、日本という社会に対する、そして、未来の世代に対する裏切りではないでしょうか。

40代以下が主役になる

まさにその思い込みから自分と皆さんを解き放つために、『起業のすすめ』を書きました。

「なぜ今、起業なのか」「起業するメリットとは何か」「起業の誤解とは何か」「社内外で起業家として生きるにはどんなキャリアがあるか」「起業に成功するポイントは何か」。

起業が皆さんにとって身近なものであることを知ってもらうべく、起業の過程で私が学んだこと、感じたこと、100人以上のプロや先人に教えてもらったことを本書に詰め込みました(自分だけで独り占めするのはあまりにもったいないですので)。

「自分が起業する時に、こんな本があったらよかったな」と感じた本を、自ら創ってみました。

特にこの本を読んで欲しいのは、40代以下の人たちです。

この世代は、今のシステムに乗っかっていては、幸せな人生を送れません。就職氷河期世代を筆頭に、既存のシステムから疎外されている人たちも多くいます。自分たちで〝新たな時代〟を創っていかないと、自分自身も、自分たちの子ども世代も、孫世代も、100年後、200年後を生きる世代も、幸せにできないのです。

「でも、自分たちの世代には力がないからなあ」と後退りする人も多いかもしれません。

しかし、それは誤解です。すでに仕事の世界では、40代以下が主役になりつつあります。

2021年4月時点で、日本の労働力人口(15歳以上の労働の意思と労働が可能な能力を持った人)の6866万人のうち、44歳以下は3098万人に上ります。全体の約45%を占めるマジョリティーなのです。

このアフターインターネットの世代が、起業して新たな事業を産んだり、社内起業家として新事業を起こしたり、既存事業を変革したりすれば、日本の未来を明るくすることができます。未来は我らの手にあり。上の世代を批判して溜飲を下げる時間があれば、自ら動くべきなのです。

この本は、起業のリアルをできるだけわかりやすく伝えることで、起業を民主化するためのものです。起業はよくわからない、起業はハードルが高い、起業は胡散臭い。

そう感じている方々にこそ、起業についてもっと深く、正確に知ってもらいたいと思っています(ちなみに、起業にも向き不向きがありますので、皆が起業家を目指す必要は全くありません。その見極め方も本書で紹介します)。

多くの人が、「起業家=怪しい、危ない」ではなく、「あの人たちが汗水流して働いて、 いいサービスを作ってくれたおかげで、われわれの生活が豊かになったなあ、楽しくなったなあ」と思ってくれるようになる。

起業家が尊敬や憧れの対象となり、起業家を目指す人がどんどん増える。日本が起業家精神に満ちた国になり、世界で必要とされて、尊敬される国になる。それが現実となれば、きっと日本の未来は安泰です。


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