働き方、社会貢献、富の還流。スタートアップが尊敬されるために必要なこと
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働き方、社会貢献、富の還流。スタートアップが尊敬されるために必要なこと

佐々木紀彦

40代だからといってスタートアップへの転職や、起業への挑戦を諦めることはない。アラフォー世代は今、自分の人生を左右する転換点に立っている――。

NewsPicksの初代編集長で2021年にPIVOTを創業し、『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』を出版した42歳の佐々木紀彦氏と、リンクアンドモチベーションの取締役を退任し、2020年にナレッジワークを創業した同じく42歳の麻野耕司氏が、アラフォー起業について語り合う。連載全3話の最終話。

(文:田村朋美、写真:小池大介)

創業1年半で3人の男性が育休

麻野 前回、大企業は“外を見せず内に閉じ込める”のではなく、すべてを知ってもらった上で選ばれる会社にシフトすべきというお話をしましたが、大企業だけでなくスタートアップも変わる必要がありますよね。

10年前に比べると、スタートアップの労働環境はかなり良くなったとはいえ、長時間労働がデフォルトで育児休暇も有給も取得できないイメージはまだ払拭できていません。

だから、結婚や出産、育児、介護などライフステージの変化を控えた人はスタートアップを選べない。

佐々木 スタートアップ=若く不安定のイメージがあるからでしょうね。

麻野 でもナレッジワークでは、創業からの1年半の間に3名の男性メンバーが育休を取りました。

佐々木 創業1年半で3人!15人の会社だからインパクトが大きいですね。

麻野 それができたのは、僕がアラフォーの起業家だからだと思うんです。

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もし、20代で起業していたら、きっと20代のやる気に溢れたメンバーを集めて、みんなで夜遅くまで働くような仕事の仕方をしていたはずだし、福利厚生は二の次だったと思います。

でも40歳を過ぎた今、無茶な働き方はできないですよね。

佐々木 徹夜は無理です。

麻野 長時間働かなくてもパフォーマンスを出せるのは、経験を積んで成熟したアラフォー世代。彼ら彼女らを創業期から仲間にしようと思ったら、働きやすく子育てもしやすい環境を作るのは必然でした。

大事なことは労働時間ではなく、成果やスピード感。経験やキャリアを積んだメンバーを集めれば、長時間労働を強いなくても成果やスピード感を高い水準に保つことは可能だと思います。

働きやすいスタートアップの黄金時代が来る

佐々木 たしかに、私も20代で起業していたら、働きやすさはそこまで考えなかったかもしれません。

それに、シードやアーリーステージで育休などの働きやすい文化をインストールしておくのは大事ですよね。ある程度組織が大きくなってから文化を変えようとしても、根っこにある文化はなかなか変わりませんので。

麻野 そうなんです。

多くの人に最初から働きやすい文化をインストールしているスタートアップがあることを知ってほしいし、同じ考えの起業家を増やしたい。

私の取り組んでいるBtoBのSaaSなどは成長させるのに一定期間が必要になるので、長時間働くことよりも長期間働いてもらうことが大切です。事業モデルの視点からも合理的な考えだと思います。

佐々木 それを広めていくのは、アラフォー起業家である私たちの責任ですね。我々が子育て世代も働きやすいスタートアップを作れば、“スタートアップ不安定説”を払拭できて、アラフォーのスタートアップ転職や起業家が増えるはずです。

働きやすいスタートアップの黄金時代は必ずやって来ると思います。

メルカリ山田さんに学んだこと

佐々木 スタートアップが多くの人から尊敬される存在になるために、何が大事だと思いますか?

麻野 いかに社会に貢献するか、だと思います。

「一発当てて稼ぐぞ」ではなく、社会に貢献するための起業じゃないと、尊敬される存在にはなれないのではないでしょうか。

佐々木 社会貢献で言うと、メルカリ創業者の山田進太郎さんは、社会に富を還流させていますよね。

30億円の私財を投じて理系志望の女子高生に給付型の奨学金を支給する財団を立ち上げていますし、ストックオプションも手厚く配っています。お金の稼ぎ方以上に、お金の使い方に人の本質が現れます。

麻野 山田さんのパブリック意識は本当に素晴らしいと思います。

以前、数百人の従業員にストックオプションを配布すると、ストックオプションの意味や価値をわかっていない人にまで配ることになるのではないかと聞いたら、わかってなくてもいいと言われたんです。

得たお金でエンジェル投資をする人が1人でも増えたら、スタートアップエコシステムに貢献できるから、と。

佐々木 起業家が真似すべきロールモデルですね。

成功の果実を独り占めするのではなく、成長と分配のバランスを考える。スタートアップは創業期にしっかり考える必要がありますね。

麻野さんは創業時にこだわったことはありますか?

「株式の比率が大きい=リーダー」ではない

麻野 自分に対する意識の強いオーナー経営者にならないことです。

僕はあくまで掲げたビジョンを実現するための一人だから、ビジョンよりも自分の存在が上回ったオーナー経営者にはなりたくないと思いました。

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佐々木 ビジョンより自分の存在が上回っている経営者はたくさんいますね。

麻野 僕は社会のための会社を作りたいし、そのリソースの一つが僕であるという意識が強かった。「株式の比率が大きい=リーダー」ではなく、たとえ比率が1%だったとしても、みんなから「麻野がリーダーをやった方がいい」と言われる存在になりたいですね。

それに保有株式の比率を大いことに、経営者が甘えてはならないと思うんです。

佐々木 甘え、ですか。

麻野 「5割以上の株式を持っているのは自分。だから言うことを聞け」みたいなことになったら、リーダーとしての目線も能力も下がります。

日本の経営者は5割以上の株式比率を持つ人が多く、比率が高いから大胆な経営ができていると思われがちですが、スティーブ・ジョブズがAppleを倒産の危機から救ったとき、高い株式比率を持っていたとは到底思えないですよね。

だから僕は、株式の比率に関係ないリーダーになりたいと思っています。

日本のマーク・ベニオフを目指す

佐々木 麻野さんが起業時に参考にした経営者はいますか?

麻野 大好きな起業家はセールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフです。彼は創業間もない頃から、「1-1-1モデル」というビジネスと社会貢献を統合した活動を始めました。

これは、商品価値の1%、従業員の時間の1%、株主価値の1%を非営利団体等に寄付する活動で、創業時から企業の成長は社会を豊かにするという考えの経営スタイルを貫いています。

それから、カスタマーサクセスという言語を作ったのも、彼。作ったパッケージを売ることがゴールだった世界から、顧客が継続してサービスを活用することで、顧客のビジネスを成功させることがゴールの世界に変えました。

僕も「1-1-1モデル」のような経営モデルや、カスタマーサクセスのような新しい概念を生み出す経営者になりたいと思っています。

佐々木 ぜひ日本のマーク・ベニオフになってほしいです。今後、1年ごとに対談をしてお互いを見つめ合って、採点しましょう(笑)。

麻野 5年後、燦々たる結果になっているかもですが(笑)、誠実に向き合っていたら必ずチャンスはくるはず。失敗しても死なない時代に、挑戦しないと損ですからね。

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佐々木 そうですね。

挑戦しやすくなった今の時代に、挑戦する選択肢を選ばないのは、本当にもったいないと思います。転職でもいいし、スタートアップのCXOになるのでも、起業するのもいいし、企業の中で新規事業を起こすのもいい。

もちろん、スタートアップが絶対に良いというわけではなくて、大企業に勤めている人がスタートアップを知ることに価値がありますから、副業で関わるのもいいと思うんです。

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大企業の人はスタートアップにない経験やスキルを持っているし、スタートアップの人は大企業の人とは異なるマインドセットや技術などを持っている。それぞれのいいところがあります。

外の世界を知れば知るほど、仕事は楽しいものであり、自分らしく生きていくための手段であることがわかります。それを多くの人に伝えていくためにも、必ずビジネスを成功させたいと思っています。


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佐々木紀彦
1979年生まれ。東洋経済オンライン編集長、NewsPicks創刊編集長などを経て、2021年にPIVOTを創業。現在、経済コンテンツサービスを準備中。著書に『日本3.0』『米国製エリートは本当にすごいのか?』『編集思考』など。最新刊に『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』