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主夫が提言するこれからの父親支援 〜『イクメン』世代のジェンダー観と男性問題〜 5

5 父親グループの希望


 平成22年(2010年)当時に多くの行政や民間が取組み始めた父親支援事業の中には、父親のグループを作ることを目標の一つとしているものが多かった。ファザーリング・ジャパン関西が兵庫県の委託を受けて実施した『お父さん応援講座』では、講座の最後にかならずワークショップを実施し参加した父親同士の交流を図った。トヨタ財団の助成を受けて『子どものしあわせプロジェクト』と協同した『未来に続くお父さんリーダー育成支援』は当初から父親グループの活動を支援することが目的だった。
 ファザーリング・ジャパン関西のメーリングリストにあるパパが投稿した。メンバー同士の連絡用に開設してから半年後の平成22年(2010年)秋だ。「自分では子育てをがんばっているつもりだけど、妻が認めてくれなくてつらい」。その投稿にはたくさんの返信が入った。アドバイスするもの、共感するもの、そして自分も書きたかったけど書けなかった、よく書いてくれた、というもの。
 育児に前向きに取り組んでいる『イクメン』は少数派だし、周囲に公言している父親はさらに少数派だ。前項で書いたような家庭での育児の悩みを共有できる相手は極めて少ない。自分はイクメンでもご近所にイクメンはいない。職場の同僚や上司では仕事での利害関係があるために、家庭や子育ての悩みを打ち明けたり共感したりしにくい。ファザーリング・ジャパン関西のメンバーもそうだった。だから『父親』というキーワードだけで集ったそのメーリングリストで、一人のパパが打ち明けた悩みに共感が広がり話題が盛り上がったのだ。
 こういった様々な形の父親グループができることが父親たちの情報交換の場になり、育児の知識やスキルをアップすることにつながる。でもこれに一般の父親が参加するのには課題もある。それらのグループが参加できる場所や時間に活動しているかどうかということ。そしてグループを続けていけるかどうかということだ。私は2人の娘がお世話になっていた保育園で『パパ会』という取り組みをしていた。同じ保育園に通う父親たちに声をかけて、飲み会をしたり保育園の行事で子供たちを楽しませる出し物をしたりしていた。しかし、その取り組みは私の下の子が保育園を卒園すると、引き継いでくれるリーダーがいなくなり自然消滅した。
 小学校ではおやじの会というものがある。形態は様々だけれど、保護者の父親たちがPTAや学校と協同して子供たちを楽しませる様々な取り組みをしている。そこでも重要な課題の一つが後継者不足だ。おやじの会を始めたメンバーの子供の多くが小学校を卒業していて、ほとんどがOBというおやじの会もあると聞く。それらを乗り越えて、これからはご近所同士で身近に気軽に父親同士が交流できる地域が増えればいいと思う。隣のイクメンだ。
この10年で変わったことがある。育児に前向きに取り組んでいる父親が少数派から多数派に変わりつつあるということだ。それは各種意識調査のデータをわざわざ確認しなくても、街の風景を見ているだけでも推察できる。第2章で書いた乳幼児の夫婦の外出風景だ。
 子育て講座の風景も変わった。性別を限定しない普通の子育て講座に母親だけじゃなくご夫婦で、あるいは父親だけで参加されることが増えた。令和元年(2019年)に茨木市で開催した子育て講座。親子で遊んだ後に父親と母親に分かれてグループを作ってもらいワークショップをした。その際、子供は父親でも母親でもどちらでも好きな方で過ごしてもらった。なんと15組の夫婦の子供は全員が父親を選び、ワークショップの間ずっと父親のそばで過ごした。
 元祖イクメン世代が直面している問題がある。それは思春期の子供との関わり方だ。思春期の子供との関わりは乳幼児期の関わりとはまた全然違う難しいもの。元祖イクメン世代には先輩のロールモデルがいないし、ご近所にすぐ相談できるパパ友もほとんどいない。しかし、これからの父親は子供が乳幼児期からご近所にパパ友がいて、子供が思春期になっても情報交換しあえる関係性を作っていけるかもしれない。明らかに父親の意識は変わったし、子育ての風景も変わった。これからはそんな父親たちがご近所でも自身の子育てを自然に共有し、パパ友関係を作っていってくださることを願う。

2019年度 吹田市立男女共同参画センター調査研究報告
男性問題から見る男女共同参画〜ジェンダー平等の実現と暴力・DVの根絶に向けて〜
に寄稿した記事の再録です。

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