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智子を「ともこ」と読まないSF小説『三体』

久々に面白いSFを読んでいる。『三体』。
これがもう空間的にも時間的にもすごいスケールで展開する物語で。
この作品が中国から産まれたと聞くと納得する話なのです。

中国人作家のSFってケン・リュウをよんだことがあるくらい。
けれどケン・リュウはアメリカに住んでいて英語で作品を書いている。
『三体』の作家、劉慈欣は中国に住む中国人。

とくにすごいのは時間的スケール。人類が宇宙人の侵略に備える話なんだけど、その時期は今から450年の未来。
単に時間的に長いSFはいくつもある。
でもそこには人類が不在だったり、人類が超人類になって時間を超越してしまったりしていることが多い。

けれど三体は普通の人間が普通の現代の生活を営みながら、15世代先に起こるかもしれない宇宙人の侵略を見据えているのだ。
さすが中国4000年のスケール感。
時間と言えばこの作品が中国で発行されたのは2008年。英語に翻訳されてアメリカで話題になったのが2014年。

そして日本語訳をされたのが2019年。この時間のズレも面白い。
とても難解な物語だけれど、翻訳がとてもいい。
日本語への翻訳は、中国語と英語訳とを両方参考にして、読みやすいものにしたんだとか。

アメリカSFならアメリカ人が牽引し、日本SFなら日本人が牽引する地球人の侵略への備え。
中国SFだからもちろん中国人が牽引する訳です。その中で発生する権力争い。
派閥同士の戦争に使われた『古琴作戦』には背筋がゾクっとした。

『古琴』とはその名の通り古代の琴。使われた武器の形が似ているからその作戦名がついたんだけど。
その物理的スケールは僕の貧弱な想像をはるかに超えていた。
中国SFはこういった漢字の言葉を楽しめるのも魅力なんだなぁと。

一方、宇宙人の侵略兵器は漢字で『智子』と書く。
日本のアニメ、ゲーム、ラノベだったらその文字のイメージ通り、女の子の姿をした最終兵器が…
みたいな展開になるんだけれども、中国はそんなにヌルくない。

450年先の侵略の先鋒として送り込んできた最終兵器『智子』はもちろん女の子の姿なんかしてません!
ネタバレはいっさいしませんけれど、その正体を知ったら顎が外れて地面に落ちること請け合いです。

『智子』は「ともこ」じゃないよ。「チシ」って読みます。
だけれども、この文字が出てくるたびにどうしても「ともこ」って読んでしまう!
と悔しがっていたら続編『暗黒密林』の冒頭で登場人物の中国人が、

「『チシ』って日本語では女性の名前で『ともこ』って言うらしいぜ」
「とんでもないな『ともこ』は」
みたいな会話をしていて、ちょっと笑った。

文明批評も、中国の歴史も、現代中国人の思想も読み取れる。
バラク・オバマも熟読した『三体』。
日本人だからこその楽しみも方もたくさんできます。


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