キングオブコント2023ファイナリスト予想。準決勝で王者級のネタを見せた3組を含む、理想のファイナリスト10組を挙げてみた

 お笑い賞レースの準決勝は面白い。先日行われたキングオブコント2023準決勝、34組によって争われたその内容は、あらためてそう言いたくなる戦いだった。

 筆者がこの戦いを視聴したのは、昨年に続きFANYでの有料配信によるものだった。チケット代は2日あわせておよそ1万円にも及んだが、購入したことに後悔は全くない。その代金に見合うだけの充分な満足感を今回も味わうことができたからだ。もちろん実際に現場でこの戦いを見たかった気持ちもあるが、それはまた今後のお楽しみとして、いまはこのハイレベルな準決勝の配信を見終わった幸福感に浸っている最中だ。

 とはいえ、この文章を書いている2日後(9月27日)にはもうファイナリストの発表が控えている。おそらくはそこで決勝の日程や審査員の顔ぶれなども発表されると推測するが、その前にここでは今回視聴した準決勝の内容ついて少し触れてみたい。
 今回準決勝でネタを披露したのは、体調不良により直前で欠場となったロングコートダディを除く34組。そのなかで配信でネタを視聴することができたのは、1日目の32組(クロコップ、シティホテル3号室を除く)と、2日目の31組(ザ・ギース、サスペンダーズ、ザ・マミィを除く)になる。また、配信では所々で音声が無音になったネタもいくつかあり、いまから述べる内容はこうした配信で視聴した筆者の事情を加味した上での見解になる。

 まず真っ先に述べたくなるのは、準決勝の2日間を通して最も印象に残るネタだ。すなわち筆者が最も面白いと思ったネタ。それは誰のどのネタかといえば、ジグザグジギーの2日目のネタだと答えるつもりだ。現在マセキ芸能社所属、過去2回のファイナリスト(2013年、2016年)経験を持つ、知る人ぞ知る実力派コンビである。

 前回のこの欄で述べた準決勝で活躍が気になるグループのなかに、僕は彼らの名前を挙げてはいなかった。早い話、特段注目してはいなかったのだが、その見る目のなさにいま、恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。
 ジグザグジギーはそれくらい面白かった。特に2日目のネタ。こう言ってはなんだ、ひとりのお笑い好きとして、筆者はこのネタが決勝の舞台で披露されることを何よりも望む。多くのお笑い好きに見て欲しいネタ。決勝の審査員、特に松本人志さんの目の前で絶対に披露して欲しいネタだ。決勝前のいま言えるのはこのくらいだが、ジグザグジギーは1日目にもかなり面白いネタを見せている。決勝進出はほぼ確実。この2本のネタで彼らを落とすことはまずあり得ないとはこちは見立てだ。

 いわゆる優勝候補。決勝での順番次第ではあるが、ジグザグジギーに対してその言葉を使うことに、思いの外勇気はいらない。そんなジグザグジギーに次ぐインパクトを与えたのも、こちらがノーマークのコンビだった。相席スタート・山添、ネルソンズらと同期(東京NSC14期)の15年目、カゲヤマの決勝進出もおそらく濃厚だと思われる。2本とも下ネタ系ではあるが、あれくらいなら大丈夫だろう。それよりも面白さ、パワフルさのほうが大きく上回る。どちらのネタも決勝で見てみたい、審査員たちの反応が見てみたいネタだ。
 なによりシンプルで分かりやすい。1本目のネタはまさにそれ。設定がわかりにくい、変にごちゃごちゃしたネタが多いなかであのネタが登場すれば、空気は大きく変わるはず。そんなカゲヤマの1本目のネタを見て思い出すのは、2015年の決勝でロッチが披露した試着室(1本目)のネタだ。お笑い的に単純ではあるが、爆発力、面白さのほうが圧倒的に勝る。意外と勝ち目はありそうに見えるのだ。
 カゲヤマも先述のジグザグジギー同様、2本ともにネタは上々。技術系というよりはいわゆるパワー系のタイプだが、前回優勝したビスケットブラザーズもどちらかといえばパワー系のタイプだった。その流れが続いているとすれば、カゲヤマにもよい風が吹くのではないかと僕は思う。準決勝を見終えた直後に当確◎を付けたくなった1組。少なくとも決勝進出は間違いないだろう。

 ジグザグジギー、カゲヤマ。そしてあともう1組、筆者が当確◎を付けたくなったグループがいる。準決勝1日目にX(旧Twitter)のトレンドワードにもあがっていたコンビ、4年連続の決勝進出を狙う言わずと知れた実力派、ニッポンの社長である。
 その名前を偶然Xで目にしたときはいったい彼らに何があったのかと少し不安に駆られたものだが、その理由は1日目のネタを目にすればすぐにわかった。「これは確かにトレンドに入るのも無理はない」。そう思わずにはいられないくらい滅茶苦茶というか、凄いというか、いい意味でとてもニッポンの社長らしいネタだった。
 そんなニッポンの社長のネタを作っている長身の男、辻。あの飄々とした感じでよくこんな突飛なネタを作るものだといつも感心させられるが、前回の決勝戦最下位が相当悔しかったのか、今回はかなり本気で優勝を狙いにきたという印象を受ける。それを感じたのは2日目のニッポンの社長のネタが始まった瞬間だった。筆者の記憶が確かであれば、それは前回も彼らがこの準決勝2日目に披露したものと全く同じネタ。タイトルはおそらく「手術」というネタだと思われるが、少々強引とも言えるこの作戦に、辻の今大会に対する欲を感じたのは確かだ。

 ニッポンの社長が2日目に披露した「手術」のネタは何を隠そう、ちょうど1年前、前回の準決勝の配信で筆者が目にしたネタの中で最も面白いと感じたネタだった。このネタを決勝で見たかったとは大会後にこの欄でも述べているが、ニッポンの社長が決勝の1本目に選んだのはヱヴァンゲリヲンをオマージュした「人類再生計画」というネタで、結果はご承知の通り10組中10位に終わった。彼らの直前に登場したビスケットブラザーズ(後に優勝)がファーストステージトップに躍り出る高得点を叩き出したことも不運だったが、いずれにせよ消化不良に終わったことに変わりはない。今回こそはと雪辱に燃えているに違いない。

 例の「手術」のネタを見るのは筆者は2回目だったため、準決勝でそこまでのインパクトはなかった。だが仮にもし今回決勝に進出して披露できるとすれば、審査員を含む多くの人がおそらく初見のものと思われる。現場の空気にもよるが、間とムードさえ悪くなければ、あのネタが外れる可能性は低い。そして先ほど述べたように、1日目のネタもXでトレンド入りするほどのインパクト充分なものである。となれば、今回は決勝でコケる心配は少ない。前回に続いて優勝候補に挙げたくなるが、問題は2年続けて同じネタを披露したことを(準決勝の)審査員がどう思っているかだ。準決勝でのウケ具合は悪くなかったので決勝進出は堅いと思うが、その答えはいかに。

 この3組が僕的には決勝進出間違いない、優勝候補にも推したくなったグループになるが、その次に控える有力候補も決してそこまで大きく劣っているわけではもちろんない。上記の3組に続く次点に挙げたくなるのは、ワタナベエンターテインメント所属のファイヤーサンダー。ネタは2本とも着眼点の良さが光る上質で面白いネタだった。決勝進出が濃厚だと僕は見る。

 2本とも面白いネタを見ることができたグループは文句なくファイナリスト候補に推せるが、ネタを1本しか見ていなくても推したくなるグループもいた。サスペンダーズの1日目のネタは、個人的には決勝でも充分通用すると思う。2日目のネタは配信ではカットされていたが、前回も準決勝を戦ったこの実力派コンビにそろそろ陽が当たる頃ではないかと僕は読む。そしてもう一つは有名どころの2021年準優勝コンビ、ザ・マミィの1本目も決勝に進出してもおかしくない、それ相応の面白いネタだった。2本目のネタはわからないが、このコンビのポテンシャルはもはや言わずもがなだろう。いま脂の乗っているこの人力舎の若手ホープに、再び大きなチャンスが来る気配が漂っている。

 ザ・マミィと同率の2021年の準優勝コンビ、いま勢いに乗っている男性ブランコは、昨年に続いて今回も落選と見る。率直に言ってネタは2本ともあまり面白くなかった。この出来で決勝進出はさすがに無理だろう。同じく人気者の蛙亭は、少なくとも男性ブランコより可能性は断然高い。前回王者のビスブラっぽい要素を取り入れたのかはわからないが、観客ウケはかなり良さそうだった。とはいえ、個人的には蛙亭のネタに今回もそれほどハマってはいない。少なくともジグザグジギーやカゲヤマの弾けっぷりに比べるとかなり劣る。決勝進出の可能性はありそうだが、優勝の可能性はおそらく低いだろう。

 人気者ついでに言えば、前回ファイナリストのかが屋もおそらく今回は落選だろう。上位10組に入るような匂いは特段しなかった。過去4回の決勝進出経験を持つジャングルポケットも同様。ネタは悪くなかったが、彼らの存在というか、ジャングルポケットというトリオそのものに観客の多くがすでに飽きてしまったような印象を受けた。悪くないネタの割に笑いが少なかった理由だと僕は思う。

 そうした不調に見える人気者を上げるより、知名度は低くてもそれなりに力を備えるダークホースを上げる方が大会は盛り上がる。そしていまその可能性を最も秘めていると言いたくなるのが、8人組の演劇集団、ダウ90000だ。前回のこの欄でもこちらの期待のグループとしてその名前を挙げているが、準決勝を視聴し終わったいま、その印象は少し変わっている。「あれ、今回(決勝に)行けるんじゃない?」とは率直な感想だ。ファイナリストになる可能性が少なくとも50%は確実にある。思わずそう言いたくなる、2本とも決して悪くない出来のネタだった。もし決勝に進出すれば、グループの価値及びカリスマ性が一気に上昇すること必至。ある意味では今回最も注目すべきグループになるのかもしれない。
 同じく大人数のグループ、5人組即席ユニットの連合稽古はダウ90000より少し可能性は低いか。だが、こればっかりはこちらも蓋を開けてみないことにはわからない。少なくともウケは悪くなさそうだった。男性ブランコ、かが屋よりは可能性は高いと思うが、せいぜい30%といった感じか。はたしてまさかは起こるのか。

 その他で当確ライン上にいるのは、滝音、隣人、ラブレターズ、コットン、や団。個人的にはこの辺りになる。滝音、隣人、ラブレターズの3組のうち、少なくとも1組はファイナリストに選ばれると僕は見る。
 そして前回準優勝のコットン、3位のや団はどうかと言えば、正直あまり自信を持って推すことができない。両者ともネタは決してそれほど悪くはなかった。だがそれでも今回この2組を強く推せない理由はただひとつ。両者ともに前回(1年前)のほうが面白かったからだ。前回2022年の準決勝のほうが、コットンもや団も明らかによかった。それこそすぐに当確◎を付けたくなったものだが、今回はどちらも微妙△といったところだろう。決勝進出確率はせいぜい20%。仮にファイナリストになったとしても、優勝しそうなネタには見えてこない。それでもコットンのほうがやはり少しだけ可能性は高そうに見えるが、今回はあえて落選しておいて次のチャンスに懸けるほうが、より上を目指す彼らにとっては案外いいことなのではないか。余計なお世話かもしれないが。

 最後に今回のファイナリスト10組の顔ぶれを予想してみたい。8割方は決定的なネタを披露した会場ウケのよかった先述のグループを挙げる一方で、ダメ元を承知で筆者の嗜好を2割ほど加えさせてもらった。以下が個人的に決勝で拝みたいラインナップ、審査員に見てもらいたい10組になる。

 コットン、隣人、連合稽古、サスペンダーズ、ザ・マミィ、ダウ90000、ファイヤーサンダー、ニッポンの社長、カゲヤマ、ジグザグジギー。

 異論多数だとは思いますが。はたして2日後に発表される審査結果はいかに。

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