Mリーグと将棋界。それぞれの違いと今後の注目点諸々

 9月18日に始まるMリーグの新シーズン(2024-2025)。全9チームのなかで筆者が最も気になるチーム、頑張って欲しいチームをあえてひとつ挙げよと言われれば、先日、チーム名の変更を発表したBEAST X(呼称:ビースト テン)になる。

 昨シーズンの成績(7位:レギュラーシーズン敗退)により、今季セミファイナル(6位以上)に進めなければチームはメンバーの入れ替えを迫られる。まさに絶対に負けられない戦いだ。そこも当然注目なのだが、個人的には活躍に目を凝らしたい選手がいることが、このチームを推したくなる1番の理由になる。元乃木坂46の中田花奈選手も気になる存在だが、それ以上に筆者が注目するのは、将棋のプロ棋士兼プロ雀士の二刀流、鈴木大介選手だ。

 筆者がMリーグに関心を抱いたきっかけはアメトーークの「Mリーグ芸人」(2023年1月12日放送)を見たことにあるが、実際に試合に目を向けるようになったのはそれから少し後のこと。正確には昨シーズン(2023-2024シーズン)からだ。従来の8チームに新たな9チーム目としてBEASTが新規参入。その新チームに将棋界の大物、鈴木大介九段が指名されたというニュースは、将棋好きでもある筆者の関心を惹きつけるには十分なものだった。「Mリーガーとして麻雀を打つ鈴木九段の姿を見てみたい」。これがMリーグを見始めた当初の動機だった。

 将棋と麻雀。この2つの競技、娯楽(ゲーム)には、なにか共通した匂いというか、以前からどこかしら似たようなムードを僕は感じていた。

 実際、将棋界には麻雀好きを公言する人が割と多く目についていた。鈴木九段はまさにその筆頭だ。その他の有名どころでは広瀬章人九段や香川愛生女流四段など。また最近で言えば井出隼平五段という、鈴木九段に次いで新たにプロ雀士となった棋士も現れている。井出五段の棋士としての実績は鈴木九段には及ばないが、この先の活躍次第ではもしかしたらその名を高める可能性は否めない。覚えておいて損はない存在だ。

 プロ棋士に麻雀好きが多いことは以前から知っていたが、その“逆”もまた当てはまることにも最近気付かされた。プロ雀士、Mリーガーのなかにも実は将棋好きが多いということだ。鈴木たろう選手、堀慎吾選手、猿川真寿選手……。パッと名前が出るのはこの3人だが、もしかしたら他にもたくさんいるかもしれない。
 上記の将棋好きの選手たちにとっては、同じMリーガーのプロ棋士・鈴木大介九段はある種の憧れを抱く存在ではないか。少なくとも他の選手より鈴木九段に抱くリスペクトは大きいだろう。

 言ってみれば、鈴木九段は将棋界と麻雀界を繋ぐ架け橋のような存在。少なくとも僕にはそう見える。応援したい人とはまさにこのような人。そんな鈴木九段が先日、出演したあるYouTube配信のなかで発した以下の台詞がとりわけ印象に残る。

 「将棋界のなかでは麻雀界に流れた半端者だから(笑)。だから(今期の王座戦でベスト4に入ったことは)とても気持ちよかった」

 王座戦ベスト4。現在六冠でもある藤井聡太王座への挑戦者を決めるタイトル戦の予選だ。その準決勝、挑戦者になるまであと2勝というところまで鈴木九段は迫っていた。プロ雀士としても活動しながら、将棋界でもタイトルの挑戦者を争うハイレベルな舞台に立っていたわけだ。その準決勝の相手は前王座でもある永瀬拓矢九段、言わずと知れた現役トップ棋士の一人である。この時ばかりは筆者も鈴木九段を目一杯応援した。Mリーガーでもある鈴木九段と藤井聡太竜王・名人とのタイトル戦を見てみたかった。残念ながらそれは叶わなかったが、この大舞台で永瀬九段と相対する鈴木九段の姿が僕にはかなり格好良く見えた。まさに「二刀流」の理想を見た気がした。鈴木九段が自画自賛したくなる気持ちはとてもよくわかった。

 だが、そんな鈴木九段への世間的な評価というか、その功績がイマイチ伝わっていないというのが、この1年将棋界と麻雀界を見てきた筆者の率直な感想になる。

 そもそもの話になるが、将棋のプロ(四段以上)になることが、東大に入ることはおろか、プロ野球選手やサッカー日本代表になることより遥かに狭き門なのだ。そのプロ棋士で最高段位の九段まで到達しているのは現役では32人のみ。現役のMリーガー(36人)よりも少ない。順位戦A級という、将棋界のトップリーグに在籍した経験を持つ九段の棋士に対して、他の人と同じような接し方、報じ方でよいのか。この鈴木九段への話題性が低いことに、世間の将棋界への関心の程が窺い知れる。彼は本来ならば中田選手や岡田紗佳選手よりも騒がれるべき選手。少なくとも僕はそう思う。

 藤井聡太竜王・名人という、圧倒的なスーパースターが存在する現在の将棋界。その登場、活躍により、将棋界は以前より盛り上がっている気はする。だが、その活躍や結果はわかっても、対局の内容をキチンと把握できる人はそれほど多くないと思う。AIの登場によって勝負の形勢は素人目にもわかりやすくなったが、たとえば解説の棋士が述べる話を理解することは、それ相応の棋力がなければ難しい。これは対局を見ていていつも思うことだ。基本的にはライトなファン向けではない。専門性が高い、いわゆる上級者向け。こちらがわかるのもせいぜい4、5手先くらいだ。少なくとも初心者に優しく寄り添うという感じはあまりしない。NHKでもABEMAでもそうした傾向にある。

 麻雀プロより将棋のプロになるほうがはるかに厳しい、狭き門であることは言うまでもない。逆に言えば、麻雀の方が初心者にとっては理解しやすい。棋士の凄さ、鈴木九段の凄さがいまひとつ世間に浸透しないのも、「盤上の宇宙」ともいわれる将棋の奥深さやその複雑さにも理由があると見る。凄いことはわかるが、(レベルが高すぎて)内容がよくわからないので関心を抱ききづらい。たぶんそんな感じだと思う。

 一方、麻雀はどうかと言えば、実況者や解説者の話が比較的スムーズに入ってくるとは率直な感想だ。将棋の解説と比べると圧倒的に理解しやすい。Mリーグを見ればそれはよくわかる。難しすぎず、気軽に視聴することができる。「ながら見」にも合っている。視聴者であるこちらとの距離が近く感じられるので、親近感を抱きやすいのだ。

 これこそ将棋と麻雀の大きな違いかもしれない。言ってみれば、アマチュアとプロの差。どちらの差が大きいかと言えば、圧倒的に将棋だ。将棋でアマチュアがプロに勝つことはまず不可能。それなりの勝負を成立させるには駒落ちというハンデが必須になる。だが、それに対して麻雀にハンデはいらない。アマチュアでもプロに勝つ可能性はある。運の要素がほぼゼロの将棋に対し麻雀は約7割とも言われるが、それこそがアマチュアでも勝負ができる、ライトなファンを獲得しやすい重要なポイントに他ならない。何が起こるかわからない、まさかの出来事が起こりやすいのが麻雀という競技の特性になる。

 そんな麻雀の魅力に対して、以前印象に残る台詞を発したのがMリーグ公式実況を担当する日吉辰哉プロだ。

 「麻雀は誰がやっても勝手に面白くなる」。

 プロアマ関係なく、誰がやっても自然と面白くなる。ポイントはこの“勝手に”というところ。別に面白くしようとしなくても、自分の意図に反して面白い展開になってしまう。そういったことが麻雀では多々起こる。麻雀の普及と発展に努める日吉さんらしい言葉、いいこと言うなと思った。

 将棋界が100年を越える歴史があるのに対し、(麻雀そのものはともかく)Mリーグは発足から今季でまだ7年目。今後の発展や成長の余地が多そうなのは、歴史の浅いMリーグの方だろう。Mリーグはチーム数の増加も含め、今後も肥大化していくであろうことが予想される。人気面的にも、タレント的な魅力を持つ選手もさらにまた現れるはずだ。
 最近ではMリーグの影響で小学生にも麻雀をする子も増えていると聞く。それが数年後にどう反映されるかはわからないが、さらに魅力溢れるMリーグの将来に期待したい。

 そして将棋界。芸能人的な人がプロ棋士になることはおそらくありえないだろうが、藤井聡太竜王・名人にかわるスターはおそらくいつかまた現れる日はくるだろう。それが10年後なのか、はたまた20年後なのかはわからないが、近いうちに誕生するかもしれないのは、史上初の女性プロ棋士(四段)だ。挑むのは西山朋佳女流三冠。9月から始まるその戦い(棋士編入試験)にも目を凝らしたい。

 麻雀界と将棋界。この先、より発展していくのはどちらか。ABEMAを見ながら思う今日この頃である。

 
 

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