Mリーグ。今後生き残るのは誰か。来シーズン、目を凝らしたいポイント
前回に続いて、プロ麻雀・Mリーグに関する話。
前回この欄でMリーグに関する記事を書いたのは6月9日だった。そこで僕は(昨シーズン)レギュラーシーズン敗退に終わった3チームに、来季は特に目を凝らしたいと述べた。
昨シーズン新規参入したBEAST Japanext(7位)、そしてTEAM RAIDEN/雷電(8位)とセガサミーフェニックス (9位)。同じ選手構成で来季レギュラーを突破できなければ、シーズン終了後にメンバー変更を余儀なくされるこの3チームの頑張りに期待したい。そう思っていた矢先、ニュースが入ったのは前回の記事を書いた翌日(6月10日)のことだった。
セガサミーフェニックスが魚谷侑未選手、東城りお選手との契約満了を発表。(結果的に)全9チームの中では唯一、来シーズンの選手入れ替えを決定した。
昨シーズンからMリーグに目を向け始めた筆者にとって、この両選手の印象は決してそこまで強いというわけではないが、それでも少なからず人気が高そうな選手には映っていた。それだけに契約満了の知らせを目にした時は少々意外だった。強制的なメンバー変更ではないだけに、その驚きは余計に大きかった。
もっとも、フェニックスにメンバー変更の大義名分はあった。2シーズン連続レギュラーシーズン最下位。この成績ではさすがに来季も同じメンバーで臨むわけにはいかなかったものと推察する(おそらくそれ以外にも理由はあるのだろうが)。
昨シーズン加入したばかりの醍醐大選手をさすがに僅か1年でクビにはできない。となれば、対象は他の3人からしかない。理由なく1人だけを外せば角が立つので、やむなく2人を選ばざるを得ない。そう考えれば2人の契約満了にもある程度納得はいく。魚谷選手、東城選手の姿を来季見られなくなるのは残念だが、これもプロの世界と割り切りたくなる気持ちも多少は湧いてくる。
今回のフェニックスのメンバー変更に対しては、驚きと納得がほぼ半々くらい。これが率直な感想になるが、こうしたメンバーの入れ替えはフェニックスに限らず来季以降も当然起こるわけで、どのチームのファンも決して他人事ではない話だ。来季その可能性がどこよりも高いのは、先述したBEAST JapanextとTEAM RAIDEN/雷電。この2チームに限り、来季の成績次第では強制的にメンバーを変えざるを得なくなる。仮にそうなった場合、現在それなりに人気の高そうな両チームの選手の顔ぶれははたしてどうなるか。誰を切り、誰を残すのか。1年後を早送りして見てみたい気もする。
麻雀は実力もさることながら、基本的には勝敗に運が占める割合がそれこそかなり大きい競技だ。1,2年成績が出なかったからといって、何かを判断することは難しい。先述のフェニックスと契約満了となった魚谷選手で言えば、個人スコアでシーズンMVPに輝いた年もあれば、一方で最下位に沈んだ年もある。そうした浮き沈みの激しい性質を含む競技で、結果だけを拠り所にする考え方ははたして正しい向き合い方と言えるのだろうか。
当たり前の話だが、シーズンで個人スコアをプラスで終えられる選手は全体の半分だけだ。そのプラスの選手も、翌シーズンもまたプラスで終えられるとは限らない。プラスを永遠に続けることは至難の業なのだ。結果が出ている時はいい。心配することは特にないかもしれない。だが、思うような結果が出ない日はどんな選手やチームにも必ずやってくる。そうなった時、打ち方や雀風など、その選手やチームの全てを否定的に捉えなければならないのか。
少なくとも僕はそうは思わない。たとえ試合には敗れても、見る者に好印象を与えることはできる。麻雀にはそうした魅力が少なからずあると僕は思っている。前回のこの欄でも述べたが、昨シーズンの本田朋広選手(TEAM RAIDEN/雷電)の四暗刻単騎の聴牌や、堀慎吾選手(KADOKAWAサクラナイツ)のダブル役満(小四喜・字一色)の聴牌などを目にした試合がまさにそれ。両者ともその試合においては勝てなかったが、少なくとも僕の脳裏には勝者(トップ)以上に強く印象に残っている。それぞれの対局を見たことで、この両選手への印象はそれこそ大きく変わった。何かやってくれそうだという、ある種の期待感を持ってその後の対局にも目を凝らすようになった。まさに麻雀ファンを増やす対局だったと言えるだろう。
「来季必ず、シャーレ(優勝)に手が届くようにーー」。シーズン最終戦後の表彰式のスピーチで、フェニックスを代表した魚谷選手は涙ながらにこう述べた(この時契約満了の話が出ていたのかはわからないが)。
成績は出したいからと言ってそう簡単に出せるものではない。運の要素が大きい麻雀の場合はなおさらに、だ。成績が出せるのは上位のチームだけ。本当の意味での勝者は優勝チームのみだ。結果を求めるのもいいが、もし出なければ後には何も残らないことになる。成績よりも僕が望むもの、それは見ていて面白い試合だ。「この選手(このチーム)の麻雀って面白いよね」。そうした声の方が成績よりもむしろ重要だとは筆者の考えになる。
岡田紗佳選手(KADOKAWAサクラナイツ)、萩原聖人選手(TEAM RAIDEN/雷電)、中田花奈選手、鈴木大介選手(ともにBEAST Japanext)など、Mリーガー以外の顔も併せ持つ彼らのような選手は、そう簡単にチームから外れることはないだろう。彼らは言ってみればMリーグの宣伝役、広告塔の役目も兼ね備える貴重な存在だ。だが、その他の純粋な麻雀プロは違う。成績はもちろん大事だが、それ以外の「色」もなければ、タレントや将棋棋士といった異彩を放つ選手たちと比べて、少なくとも存在感では際立たない。その他大勢のプロの1人に埋もれかねないのだ。
「色」とはすなわち個性だ。プロ雀士としていかに個性を発揮するか。そうした多くのMリーガーたちの中でも個人的にとりわけ強烈な「色」を発しているように見えるのは、TEAM RAIDEN/雷電所属の黒沢咲選手になる。昨年放送されたアメトーークの「Mリーグ芸人」でも取り上げられていた四暗刻単騎の和了をはじめ、セレブ打法とも呼ばれる副露率の低いその雀風は、36人のMリーガーたちの中でもとりわけ異彩を放っている。
昨シーズン(レギュラーシーズン)の黒沢選手の副露率は全36人中36位の0.09(平均は約0.22)。その上の中田選手が0.15(トップは本田選手の0.32)なので、この黒沢選手のこだわりは数字を見れば一目瞭然になる。
可能な限り門前で高い役を目指す。仕掛けるのは余程の高い手の場合のみ。したがって黒沢選手が序盤で鳴き仕掛けをしようものなら、周りの警戒心は通常よりも遥かに高くなるというわけだ。そうしたある種の縛りを自ら設けて打つスタイルは、他の雀士とはそれこそ一線を画していた。昨シーズンはチームも含め成績こそ振るわなかった(個人スコアは33位)が、その存在感は成績以上に筆者の目には光って見えたものだ。
もし先述の魚谷選手や東城選手に黒沢選手のような強い個性やこだわりなどがあれば、もしかしたら契約満了になることはなかったのではないか。そんな気がする。あるいは岡田選手の国士無双十三面待ちのような伝説的な一局があっても、そう簡単にクビを切られることはなかっただろう。先述の黒沢選手が内川幸太郎選手(KADOKAWAサクラナイツ)から四暗刻単騎(上がり牌は「西」)を上がった例の試合も、そのカリスマ性を高める大きな一局になっている。こうしたファンを魅了する試合(麻雀)をいくつ披露できるか。今後Mリーガーとして活躍するためには必要な要素だと僕は信じて疑わない。
最近見た試合で一番印象に残っているのは、現在行われているMトーナメント(個人戦)の予選1st F卓での試合(6月10日放送)における、松本吉弘選手(渋谷ABEMAS)の大逆転勝ちだ。麻雀は最後まで何が起こるかわからない。敗退寸前からのラスト3局、その怒涛の上がりラッシュには思わず震えが来たほどだった。こうした試合を演じた選手への期待感は否が上にも高くなる。注目したい選手として少なくともこちらの記憶にはしばらく止まることになるだろう。
「勝利と娯楽性をクルマの両輪のような関係で目指す」。「つまらなく勝つくらいなら、美しく負ける方がいい」。サッカー界の偉人、ヨハン・クライフが語った名言になるが、このMリーグでもこうしたサッカー的な要素が少なからずあると僕は思っている。いかに勝つか。そしていかに負けるか。そうしたこだわりのある選手には、成績云々に関わらず自然とファンは増えるはず。結果以外に何を残すことができるか。それこそが今後Mリーガーとして生き残るためのカギだとは筆者の見立てになる。
来シーズン、BEASTとTEAM RAIDEN/雷電にとってはまさに絶対に負けられない戦いになる。もちろん好成績を出せればそれに越したことはないが、たとえ結果が出なくても、最後まで視聴者を楽しませる麻雀を打ってほしい。それは他のチームも同様。麻雀の面白さを最も伝えられるのははたしてどのチーム(選手)か。僕が来季のMリーグで最も目を凝らしたいポイントなのである。
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