キングオブコント2023決勝で目を凝らすべき、美しき“松本式”採点法

 松本人志(ダウンタウン)、飯塚悟志(東京03)、小峠英二(バイきんぐ)、秋山竜次(ロバート)、山内健司(かまいたち)

 今回で3大会連続同じ顔ぶれとなったキングオブコント2023決勝の審査員。予想通りとはいえ、いまのところはこの5人が現状のベストと思しきメンバーとは個人的な見解だ。少なくともマンネリ感はまだ漂っていない。この顔ぶれで今後の数年も押し通していきそうなムードを感じる。

 審査員が上記のメンバーになったのは2年前の2021年大会からで、その前に審査員を務めていたのは、松本さんプラス、さまぁ〜ず(大竹一樹、三村マサカズ)とバナナマン(日村勇紀、設楽統)だった。期間は2015年から2020年までの5年間で、回数で言えば6回(6大会)分になる。現在の顔ぶれが3回目なので、あと3年、2026年大会まで続ければ前任者たち追いつくわけだが、はたして今後どうなるか。来年以降の見どころのひとつだと思う。

 話を今大会に戻そう。松本さん以外の4人(飯塚、小峠、秋山、山内)も、もはやすっかり審査員が板についてきたという感じだ。彼らが初めて審査員を務めた2021年大会の頃と比べれば一目瞭然。芸人としての貫禄が違うと言えばわかりやすいか。過去2回の審査員を経験したことで、おそらくそれ相当の自信をつけたと思われる。審査員がどれほど自分の眼力に自信があるのか。それは彼らがつける点数を見ればすぐにわかる。その辺りを確認することも、今回の筆者のお楽しみのひとつだ。

 審査員が自分の目に自信を持っているかどうか。自信がない人は大抵無難な点数をつける。そして自信がある人は、可能な限り全員に異なる点数をつけようとする。差を曖昧にしようとせず、自分の物差しに従ってキチンと優劣をつける。そしてなぜその点数をつけたのか、理由をわかりやすくキチンと説明することができる。これまでお笑い賞レースを何度も見てきたが、よい審査員ほどなるほどと頷きたくなるコメントを吐く。そしてその代表格がこれまで数々の賞レースで審査員を務めてきた松本さんになる。

 松本さんは可能な限り全組に異なる点数をつけようとする。むしろあえてそうしている。そう言った方がしっくりくる。全組に異なる点数をつけることを使命として自らに課しているのだと思う。M-1グランプリでもキングオブコントでもそれは変わらない。筆者がそのことになんとなく気付いたのは数年前だが、それ以来、松本さんの審査には特に目を凝らすようになった。

 可能な限り違う点数を用いる。同じ数字(点数)は使わない。そうした松本さんのこだわりに気付かされたというか、そう言われてこちらが思い出すのはM-1グランプリ2019決勝だ。そのファーストラウンド6組目で登場した見取り図に91点をつけた松本さんは、司会の今田耕司さんから「いかがでしたか」とコメントを求められると、次のように答えた。

「はい、面白かったですよ。ーー和牛とからし蓮根の間かなと思ったんですよ。僕ちょっと(点数を)細かく刻んで、91しか僕の場合なかったので、91にしましたーー」

 松本さんが和牛につけた点数は92点で、からし蓮根につけた点数は90点。見取り図の出来はその間くらいだと思ったので、91点をつけた(91点しかつけられる点数がなかった)。これほど万人にわかりやすい説明を、あの一瞬で返すことができる人は決して多くない。大抵の審査員はネタのこの部分がどうこうと言った細部の話をまずしがちだが、僕は断然松本さんのコメントに賛同する。これくらい面白かったから、この点数をつけました。早い話、理由はこれでいいわけだ。わかりにくい専門的な話をグダグダとする必要など全くない。松本さんがコメントを簡潔にスパッと述べることができるのは、自分に自信があるからだ。自分独自の哲学をキチンと持っているからに他ならない。

 M-1グランプリ2019決勝と松本さんの審査に関して言えば、触れておきたいことは他にもある。先述の見取り図の次(7組目)に登場したのはミルクボーイで、語り草になっているコーンフレークのネタでM-1史上最高得点を叩き出したその審査も、語るべき要素はふんだんに詰まっていた。

 松本さんがミルクボーイにつけた点数は97点。他の審査員もほぼ全員が各々の最高得点をつけていたのでそこまで特筆すべき数字には見えないが、今振り返ると松本さんのこだわりを感じる数字に見えてくるのだ。「全員に異なる点数をつける」。その哲学に従えば、例えば7組目のミルクボーイに仮に98点をつけた場合、後に残る3組がミルクボーイのネタを上回るとなると、それぞれに異なる点数をつけることができなくなる。98より上にあるのは、99点と100点の2つのみ。だが97を用いれば、上に残るのは98、99、100の3種類となる。万が一、残る3組がミルクボーイより面白いネタを披露した場合でも、それぞれに異なる点数をつけることが可能となるわけだ。言い換えれば、7組目に与えた「97点」というその数字は、その時点(7組目)で松本さんが使用できる最高の点数であり、事実上の100点と言っても過言ではない数字でもあったのだ。

 ミルクボーイに与えた97点には上記のような思惑があったとは筆者の勝手な推察だが、では、同じ決勝で松本さんがかまいたちにつけた95点という数字にははたしてどのような意図があったのだろうか。
 かまいたちが登場したのはニューヨークの次の2組目。後にはまだ8組も控える、数字通りの早い出番だっだ。だが、95より上で使うことができる数字は96〜100の5つしかない。「全員に異なる点数をつける」というその方法論に従えば、あと8組が控えている状況で使うことができる最高の数字は「92点」となる。にもかかわらず、松本さんはその上限を3点も上回る95点を2組目に使った。それはつまり「かまいたちを上回るコンビがこの後6組以上出てくるわけがない」、早い話がそう判断したということになる。

 これはかまいたちへの最上級の賛辞に他ならない。ミルクボーイにつけた97点よりも、むしろ価値が高い。僕はそう思う。この大会、最終決戦の審査で唯一かまいたちに票を入れたのは松本さんだったが、今振り返ると、その理由に思わず納得したくなる。松本さんはミルクボーイよりもかまいたちにより高い評価を与えていたことが、後にそのファーストラウンドでの審査内容を通して思い知らされた次第だ。

 7組目につけた97点より、2組目につけた95点のほうが実は価値が高い。この松本さんの方法論に従えば、ここ最近で行われた他の賞レースの審査結果も改めて振り返ってみたくなる。

 まずはM-1から。2020年大会で松本さんがつけた最高点数は、5組目に登場したおいでやすこがの95点。5組目への95点は、7組目の97点と同じ、いわゆる上限マックスの点数である。続く2021年大会でつけた最高点数は、6組目に登場したオズワルドへの96点。これも先ほど同じく、いわゆる松本式採点方法のマックス点数となる。そして記憶に新しい昨年の2022年大会で松本さんが最高点数を与えたのは、男性ブランコへの96点だった。松本式に従えば、96点を与えることができるのは全10組中の6組目以降となる。そして男性ブランコの出番は6組目。オズワルド同様、その時点で松本さんが使用できる最高点数であったことは言うまでもない。

 このような点数が偶然つけられているはずがない。過去に行われた大会の審査を調べているうちに偶然気づかされた次第だが、これぞ松本さんのこだわりに他ならない。そのカリスマ性が、この何気ない数字の羅列にこれでもかと凝縮されている。加えて、誰にどのような評価を与えたのかが一目瞭然となる。おいでやすこが(2020年)、オズワルド(2021年)、男性ブランコ(2022年)に与えた評価は、あのミルクボーイ(2019年)に匹敵するくらい実は高かった。その点数を見ると思わずそう言いたくなる。

 キングオブコントでも振り返ってみたい。松本さんのキングオブコントでの有名な審査のひとつに「にゃんこスター 97点」(2017年)があるが、今振り返れば実はこれもキチンとその哲学にのっとった上での採点だったことがわかる。7組目(にゃんこスター)につけた97点という数字は、いわばM-1でのミルクボーイと全く同じだ。7組目までで1番面白かったので、与えられる限り最高の点数をつけた。単純に言えばそうなる。そう考えるとにゃんこスターもまた再度光って見えてくるから不思議なものだ。
 2018年の最高点数は、6組目のチョコレートプラネット(97点)。6組目に与えられる松本式採点法の最高値は96点なので、それよりさらに1点上乗せしたということになる。それだけこの時のチョコレートプラネットへの評価が高かったことが窺い知れる。続く2019年の最高は6組目のどぶろっく(96点)で、こちらは上限と同じ。2020年の最高は5組目のジャルジャル(95点)。これも上限いっぱいの数字だ。その翌年、審査員が刷新された2021年大会で松本さんが最高点数をつけたのは9組目の空気階段(97点)。だが、その97点という数字は、意外にも9組目につけられる最高点数(99点)より2点も低い。この時の空気階段のファーストステージの得点(486点)が歴代最高の点数だったことで大きなインパクトを与えられた印象が強く残るが、点数的には実は案外妥当であったことが判明する。そして昨年、2022年大会では松本さんの自身における過去最高点数(98点)が飛び出した。与えられたのは8組目のビスケットブラザーズ。だがこれも松本式に従えば、その上限いっぱいの数字を与えられたに過ぎないことがわかる。8組目がたまたま1番面白かった。だから可能な限り高い点数をつけた。それが98点だったという話。多少乱暴に言えばそうなるわけだ。

 とまあ、ここまで松本さん独自の採点方法について長々と述べてきたが、注目すべきはなにも後半に登場するグループに与えられる最高点数だけでは全くない。この松本式採点法に従えば、トップバッターにつけられる上限は91点だ。俗にトップの基準が90点と言われる所以でもあるが、それだけに、トップ付近(1組目や2組目)でその上限を上回る点数をつけられたグループはもう少し評価されて然るべきだと僕は思う。キングオブコントでは2021年大会の蛙亭がトップバッターで92点、2022年大会では同じくトップバッターを務めたクロコップが93点を、松本さんからそれぞれ付与えられている。特に光って見えるのはクロコップの93点だ。これはM-1を含むファイナリスト10組で争われる賞レースにおいて、松本さんがトップバッターにつけた点数のなかでは過去最高の数字になる。

 昨年行われたキングオブコント2022決勝。そこで最も印象に残ったのは誰かといえば僕は迷わずクロコップと答えるが、ネタが面白かったことはもちろん、それは審査員の点数にも深く関わっている。松本さんの93点をはじめ、小峠94点、秋山93点と、トップバッターの上限を超えた点数が多くの審査員につけられたことも、クロコップの名前をあえてあげたくなる理由だ。ちなみに残る飯塚と山内がクロコップにつけた点数はともに90点で、この両者はいわゆる様子見、とりあえずは無難な点数をつけたという感じだった。

 昨年のクロコップ。そしてM-1グランプリ2019決勝でのかまいたち。松本式の審査に従えば、実際に与えられた点数以上に光って見えてくるのは僕的にこの2組になる。いまやMC芸人の地位まで上り詰めたかまいたちはともかく、クロコップに関しては判官贔屓をくすぐられるというか、とりわけ筆者にとっては忘れられないコンビとなっている。再びキングオブコントの決勝でその姿が見られる日が来るのか。期待したい限りだ。

 まもなく行われるキングオブコント2023決勝戦。注目すべきはファイナリストのネタであることは言わずもがなだが、それと同じくらい、僕はこの松本さんの審査からも目が離せないのだ。その審査は勝者よりむしろ敗者を輝かせる。そこにある種の美しさを感じるのははたして僕だけだろうか。優勝者は誰の目にもわかる。だが美しい敗者はよく目を凝らさなければ気づきにくい。実際の結果とその戦いぶりの間にギャップが発生するグループは、今回も必ずや何組か現れるだろう。

 松本式採点を通して見えてくる、光り輝く敗者の存在にも目を向けるべき。少なくとも僕はそうした視線を傾けながら今回の決勝戦に目を凝らすつもりである。

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