「ラヴィット!」のスタイルに学ぶ、バラエティ番組の愛され方

 Mリーグの新シーズンが待ち遠しいこの時期だが、現在行われているMトーナメント(個人戦)もそれはそれで結構面白い。特にその2半荘目の終盤などは、普段のMリーグの試合ではあまり見られない特異な展開になりやすい。持ち点や場況により勝ち上がる条件が選手それぞれで異なるため、様々な思惑が入り混じった、目の離せないハラハラとした接戦になりやすい印象だ。先日の月曜日(8日)に目にした2試合も、いずれも最後まで誰が勝つか分からない見応え抜群の試合だった。

 そんなMリーグの話、麻雀の話をすることが多いここ最近だが、世間でも麻雀ブームとまでは言わないが、Mリーグ熱がジワジワと高まりつつあるような気配がある。それを感じさせる出来事を目にする機会も増えている気がする。

 わかりやすい例は、岡田紗佳選手(KADOKAWAサクラナイツ所属)の活躍だ。この選手のメディアへの露出は、この1,2年くらいの間にそれこそ大幅に増えた。元々タレントとしてもそれなりに活動していた岡田選手だが、ルックスに加えその歯に衣着せぬキャラがハマり、タレント兼Mリーガーとしてその存在感はまさに急上昇した状態にある。Mリーグファン以外の知名度も高そうな、現在の麻雀界を代表するスター選手に気が付けばなっていた。

 そんな岡田選手だが、この文章を書いているまさに今日(10日)、録画していた「ラヴィット!」(TBS)を見ていたら、その彼女がおよそ1年4ヶ月ぶりに番組に登場した。

 「麻雀一局だけなら俺が世界一強い!」との自信があるリリー(見取り図)発案のこの麻雀対決企画(その自信はさておき)。麻雀というワードが出てきた時点で、岡田さんが画面に現れそうなことはおそらく多くの人が予想できたのではないか。「麻雀」、「バラエティ番組」とくれば、いまのところ適任者はこの人以外いない。たぶんMリーグファンが驚いたのは、岡田さんに続いて画面に登場したもうひとりのプロのほうだろう。

 佐々木寿人選手(KONAMI麻雀格闘倶楽部所属)の姿をまさか「ラヴィット!」で目にすることになろうとは。少し前までは全く想像できなかった。
 岡田さんならわかる。芸能事務所にも所属する歴としタレントだが、寿人選手は違う。こちらは純粋な麻雀プロ。Mリーグファンならば誰もが知るお馴染みの選手だが、麻雀好き以外にはあまり知られてはいない、固く言えば専門家的な存在だ。

 朝から麻雀プロ2人を呼んで麻雀をする番組。こうしたエキセントリックな番組がこれまであっただろうか。これが深夜のバラエティとか、BSやCSの番組ならわかる。実際に麻雀関連の番組は昔からそちらのほうには数多く存在する。だが、全国放送で、しかも朝の生放送番組となれば話は別だ。その特別感は半端ない。この日初めて「ラヴィット!」を目にした人ならば、この光景はさぞ不思議なものに見えたに違いない。

 だが、裏を返せば、これこそがまさに「ラヴィット!」の“らしさ”そのものになる。これまで見たことがないもの、他の番組ではお目にかかれないものを披露する。そうした精神がこの番組のスタッフにはとりわけ備わっている。開始当初はイマイチ評判が高くなかった「ラヴィット!」が、いまや朝の情報番組の枠を超えた人気番組となった大きな要因だと僕は思う。

 最近の「ラヴィット!」に欠かせないのは、いわゆる対決、ゲーム系の企画だ。ボードゲーム、カードゲーム、テレビゲーム、運動系、頭脳系など、ジャンルは様々だが、何かしら罰のかかったゲーム企画がほぼ必ずや行われる。だが、そうしたなかで麻雀は、ルールのわからない人にとっては面白くない、あえて言えば楽しめる人の限られた企画だった。好きな人以外には刺さらない、幅の狭いコーナーだったかもしれない。

 だが、この麻雀対決の企画は、少なくとも筆者にとってはそれこそ目が画面に釘付けになる、魅力抜群のコーナーだった。岡田選手に加え、寿人選手にもオファーを出した、そのセンスに拍手を送りたくなる。岡田選手だけだった1年4ヶ月前よりも確実によかった。

 さらに言えば、ちゃんとした麻雀を1局キチンと行ったこともよかった。前回岡田選手をスタジオに呼んだ時はドンジャラ(ドラえもん)だったが、そこから寿人選手を加えた本格麻雀に変わったわけだ。これだけでも前回よりMリーグ並びに岡田選手の格が上がったことを実感できる出来事だった。

 またMCの川島が麻雀に理解があったことも見逃せない重要なポイントだ。もし麻雀のルールを知らない人がMCであれば、こうした企画を実現することはできなかったと思われる。少なくともここまで盛り上がってはいなかったはず。この対決を別室で実況した川島を見てそう思った次第だ。

 およそ2時間の番組の中で、この麻雀対決の尺はせいぜい15分くらいだった。だが、この15分間の内容を見ただけでも僕はこの番組に尊敬の念を抱く。少なくともこちらの心を掴むには十分な企画だった。

 麻雀好きの僕のように企画にハマる人もいれば、ハマらないと感じた人もそれなりに多くいたはずだ。そうしたなかで個人的に思い出すのは昨年のM-1グランプリ2023決勝だ。そこで審査員の松本人志さんがヤーレンズのネタに対してコメントした以下の言葉がふと蘇る。

 「全ボケ、誰かにはハマるようにできている」

 「ラヴィット!」の番組としてのスタイルにもこの言葉は完全にマッチする。全員にハマらなくても問題ない。誰かにハマればそれで構わない。高い支持率より、自分たちのカラーを鮮明に打ち出す。企画を通して「ラヴィット!」はそう語っている。そんな気がするのは僕だけだろうか。

 独自性溢れるものを披露し続けることには少なからず勇気がいる。結果が求められる世界ではなおさらに、だ。だが、それを続けていけば振り向いてくれる人、気に留めてくれる人は必ず現れる。いまの「ラヴィット!」がまさにその状態だ。朝からゲームばかりやっていたら、いつの間にかファンが増えていた。独自の路線を貫いた結果、気付けば特別な存在として光り輝くモノに変わっていた。同じTBSで言えば「水曜日のダウンタウン」も似たような道を辿った成功番組として挙げられる。

 「朝から馬鹿なことやっているな」と、内心では「ラヴィット!」のことをあまりよく思っていない人も少なくないはず。カラーを打ち出すことは、つまり敵を作ることになる。ある種の人間からは確実に嫌われることになる。

 その覚悟と勇気が、「ラヴィット!」にはあったのだと思う。「日本でいちばん明るい朝番組」。このスタイルに賛同する人は見てくださいと、自らの番組カラーがハッキリしているところに、この番組の魅力がある。

 朝8時30分から麻雀。そうした従来の価値観とは少し違ったことをやればやるほど、存在感は増す。「朝から何やってるんだ」と言われれば言われるほど、特異性は際立つ。全国区の人気を獲得することができる。多くのバラエティ番組が目指すべき理想的な番組。僕には「ラヴィット!」がそう見えて仕方がない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?