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短編小説「置きざり猫ルル」前


もうnoteでは小説には手を出すまいと思っておりましたが
どうしても性でしょうね。
レイニーの物語を書きたくなりまりました
つまらないものですがお付き合いくだされば幸いです



わたくしペルシャ猫のルルと申します
ご主人が
由紀さおりさんの「夜明けのスキャット」が好きだったので
この名になりました
ご飯の時間になりますとルール―ルルル ルール―ルルル
と毎日わたしのことを呼んでくださいます

近所の方からも
カズさんカズさんと人望があり
自治会長などもしておられました
ひとり猫嫌いの頑固者のおじいさんがおられましたが
なかにはそういう人もおられましょう

忘れも致しません
1年8カ月前の寒い朝
トイレでドシンと大きな物音がして
ドアが開き
ご主人様の体が半分トイレの前の廊下に投げ出されておりました

ご主人様は5年前に奥さんを亡くされてから
ひとり暮らしをしておりましたが
どうにも寂しいといことで
仕事関係で知り合った
ブロバイダーさんからわたしを貰い受けたのでした

悲しいことですが売り猫の旬は2か月から3カ月
半年を過ぎますと半分に
8カ月を過ぎますと3分の1の値段になってしまうのでございます
昨今ははシャムネコの需要がないらしいのです
スコチッシュフォールドやらマンチカンやらアメリカンショートヘアー
などが売れすじだそうでございます

1年を過ぎる前
ご主人様にただ同然で売られたのでございます
でもご主人様はわたしを大層可愛がってくださり
少ない年金からマグロやカツオの缶詰めを買ってくださいました
それにわたしを縛り付けることも一切なさいませんでした
そんなご主人様がわたしは大好きでした

自由にさせてくれたので
わたしは2度も子供を授かり
6匹の我が子を産むことが出来ました
そのたびご主人様は
方々走り回り猫好きの方に頼み込こんで
子供たちを里子に出されました
それがなんともお辛かったのでしょう
わたしは避妊手術を2歳で受けたのでございます
そのときも「すまんすまん」と抱きしめて
おおきな声を出してお泣きになりまました

そうです。トイレで倒れたお主人さまのことでございます
3日ほどたって近所の人が心配し、警察を呼びましたが
もうその時には息絶えておりました

3日間、わたしは何度もご主人様の頭を突きましたが
反応はなく、だんだんと黒く、硬くなってゆきました
もし、あの時何かできていれば
ご主人様は助かったかもしれないと
胸を掻きむされる思いでございました

県都で新しいご家族を持つ娘さんが
慌てた様子でかけつけました
わたしはもう2日間何べておらず
水だけで生きておりました

警察の方から
「お父様の猫はどうなさいますか」
と聞かれたお嬢さんは
「うちはアパートを借りていますのでペットを飼うことはできません」
「う~ん。それは困りましね」
と、警察の方が言われた時、
わたしは裏口から猛然と走り去りました

逃げたと言いましても、隠れたと言った方が正確かもしれません
怖くてそう遠くへは行けなかったのでございます
ふたりとも呆気に取られていましたが
「逃げましたね」
と安堵されたご様子で引きあげられました

愛護センターに連れていかれたら
数ヶ月で殺されると聞いていたので
怖くなったのでございます
死に際くらいは自分で決めたいと思いました
人に殺されるのだけは嫌でございます

その日からわたしは置き去りにされ
野良猫になりました
野良猫の世界にも縄張りという厳し掟がございまして
新参者は
他の野良猫たちにビクビクしながら生きていなければなりません
でも 近くのホルモン焼きの裏のゴミ箱には
たくさんの食べ残しがあり
誰もいないときにそっとた食べて命をついでおりましたが
やはり以前とは違いどんどん痩せてゆきました

その上今年の5月には
ご主人様の住んでいた家の取り壊しが決まったのでございます
わたしは途方にくれました
いったいどこをねぐらにすればいいのかと・・・
あちこちとさ迷い歩く日々が続いておりました

                     続く


見出し絵はにきもと様のイラスト作品を使わせていただきました
素敵な作品です
どうもありがとうございます

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