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北海道から未来を創る。オンライン開催の"NoMaps"から感じた課題と可能性

はじめに

今年の4月に渋谷から札幌へ移住し、北海道の成長産業支援をテーマに活動している株式会社POLAR SHORTCUT(ポーラー・ショートカット)の大久保です。
8月にnoteの第一弾として執筆した『かつて"サッポロバレー"と呼ばれた街が、再びスタートアップシティになるために。』の記事をきっかけに多くの方とお話する機会を頂けたので、"当事者として考える北海道のエコシステム"をテーマとして、今後も定期的に情報発信をしていきたいなと思っています。第二弾のテーマとして取り上げるのは北海道を舞台としたクリエイティブコンベンション「NoMaps」です。

今回私は、NoMapsビジネスカンファレンスの登壇者(合計3セッションのモデレーターを務めさせていただきました)として、そしてStartup City Sapporo共催コンテンツの企画メンバーとして、NoMapsのイベントに関わらせていただきました。その中で色々と感じたことが多かったので、まとめてnoteに記しておきます。あくまで私個人の見解であり、NoMapsの公式見解ではない点、また私自身が視聴・体験したコンテンツに多少偏った感想である点はご了承ください。

北海道版SXSW 「NoMaps」とは

NoMapsは、ビジネスカンファレンスと映画祭や音楽祭が複合したクリエイティブコンベンションです。米国オースティンで開催されるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)という音楽祭、映画祭、インタラクティブフェスティバルなどを組み合わせた有名な大規模イベントがあるのですが、それの北海道版を作ろうというコンセプトからスタートしています。

もともと北海道経済産業局が主催していたビジネスカンファレンスと札幌市が主催していた札幌国際短編映画祭を、メディアミックス型のコンベンションイベントとして融合させたものがNoMaps。ボーカロイド"初音ミク"を生んだクリプトン・フューチャー・メディアと、国内有数の野外フェスである"ライジングサン・ロック・フェスティバル"を主催するウエス、そして上述の札幌市や北海道経済産業局の共催という形でNoMapsは生まれ、"IT×映画×音楽"という三本柱をテーマに運営されています。
※NoMapsのコンセプトについてはこちらのインタビュー記事で詳しく説明されています。

上述の記事でNoMaps事務局長の廣瀬岳史さんはコミュニティを活性化させるために「勝手にやってる感」を非常に大切にしていると語っています。私のまわりにもNoMapsとの連携コンテンツである「あしたのげいもり」や「NoMaps EDU」「NoMaps for students」などのプロジェクトメンバーがおりますが、確かにNoMapsという冠の下で実に自由な形でプロジェクトが動いている印象を受けました。Startup City Sapporo共催コンテンツであるビジネスセッションも、自分たちが伝えたいテーマ・メッセージでかなり自由に企画をやらせて頂けました。「積極的に手を挙げる人」に自由な発信の機会が与えられるのは"NoMapsらしさ"であり、非常に面白いところだなと感じています。

オンラインだからこそ実現した"期待値を超えた"オープニングセッション

今回のNoMapsのコンテンツの中でも最も注目されたのが、台湾デジタル大臣のオードリー・タン氏がソーシャルイノベーションについて語るオープニングセッションです。このセッションは、オードリー・タン氏のトーク内容だけでなく、モデレーターの質問も、対談相手であるさくらインターネットの田中邦裕社長のコメントも素晴らしく、間違いなく本カンファレンスのベストセッションだったと思います(アーカイブ映像及び全文書き起こしがこちらのサイトで無料で閲覧できます)。
ライブ配信ではなく事前収録という形でしたが、このセッションに限ってはむしろ"事前収録だからこそ"のメリットが際立ち、非常に上手くハマったなという印象を受けました。

事前収録だったことで「①非常に多忙な世界的著名人をブッキングできた」「②英訳字幕を付けた状態でコンテンツを配信できた」「③アーカイブ映像と前文書き起こしを配信翌日に公開できた」という点が、今回特に上手くハマった点だと感じています。また、モデレーターを務めていたCode for Sapporoの古川泰人さんが当日YouTube Liveのコメント欄に登場したことで、事前収録ながらライブ感も同時に演出できていたと思います(コメント欄は、運営側でもっと意図的に盛り上げても良かったかも)。
今回の取り組みを通して、間違いなくオンラインセッションの可能性が広がったと思いますし、来年以降もオープニングセッションは海外の著名人に同様の形式で出演頂けるのではないかという期待が高まった視聴者も多かったのではないでしょうか。

コミュニケーションマネジメントの弱さが浮き彫りに。「オンライン配信を如何に盛り上げるか」という課題

カンファレンスのテーマについては、"地域"・"コミュニティ"・"共創"などビジネスよりも"社会課題"に寄ったテーマや、"農業"・"宇宙ビジネス"など北海道らしい事業領域に寄せたテーマが多く、純粋なビジネスカンファレンスとは少し違うNoMapsらしさが出ていたと思います。せっかくクリエイティブコンベンションと銘打っているので、個人的にはもっと"アート"・"デザイン"・"クリエイティブ"領域のテーマの割合が増えても良いのではないかなと思っています。

セッションそれぞれの評価は避けますが、それぞれのコンテンツのクオリティにはかなりばらつきがある印象でした。また、視聴者が100名規模のライブ配信であるにも関わらず、コメント欄があまり盛り上がっておらず、視聴者との双方向のコミュニケーションが上手く行われているコンテンツが私が見た限りでは無かった点については非常に勿体ないなぁと感じました。
今回私はSAPPORO Incubation Hub DRIVEからの生配信を行いましたが、配信会場が登壇者側からコメントや実画面を確認出来るセッティングになっていなかったことや、ライブ本番での関係者によるコミュニケーションマネジメント(YouTube Liveのコメントの賑やかしやTwitterなどのSNSでの盛り上がりの演出など)まで意識が及んでいなかったことなど、オペレーション面で改善すべき点はかなり多かった印象です。初のオンライン配信を完遂することで精一杯になってしまい「オンライン配信を如何に盛り上げるか」という本来のイベント企画で一番重要な観点が疎かになってしまっていたことは、私自身も含めて反省すべきポイントだと感じています。

可能性の広がりを感じた「あしたのげいもり」と「NoMaps for students」

カンファレンスセッション以外のプログラムで触れておきたいのが、10月10日(土)に札幌芸術の森(札幌市南区)で開催された「あしたのげいもり」です。野外ステージでは札幌国際短編映画祭の作品上映、ライトアップされた野外美術館周辺ではアーティストによる音楽ライブや、プロジェクションマッピングなどの映像演出が行われました。
来場者には一人一台ずつラジオが配布され、FMラジオの特設チャンネルで音楽ライブの音声を届けるという非常に珍しい音声配信の形でしたが、ライトアップされた芸術の森と、出演アーティストの音楽が非常にマッチした没入感の高いライブ体験でした。

後述しますが、私はNoMapsが超えるべき壁の一つが「参加者の裾野を広げること」だと感じています。カンファレンスセッションは比較的真面目な内容が多く、少し穿った言い方をすれば「北海道の一部の"意識の高い人たち"が集まるイベント」になっているのが今のNoMapsです。でも本当は「普通の人たちが考えるきっかけを与えるイベント」が運営の目指したいところではないでしょうか?
そういう意味で「あしたのげいもり」のように、"ビジネス"や"社会課題提起"とは少し離れた文脈で、多くの方に足を運んでもらえるコンテンツを充実させていくことは非常に大切だと感じています。

そしてもう一つ触れておきたいのが「NoMaps for students」です。これはIRENKA KOTAN合同会社代表の種市慎太郎さん(19歳)が主導した高校生・大学生向けの企画で、「働き方・キャリアを考えるセッション」「起業を知る・学ぶための『Startup Day』プログラム」、そして「NHK北海道と連携したハッシュタグラジオ番組企画」の3つの取り組みが行われました。
前例のないなかで、10代のメンバーが中心のチームが自分たちがやりたいと思ったことを、NoMaps本編の企画と遜色ないクオリティでやり切ったことについては非常に高く評価して良いと思います。

私は以前から北海道に根強く残る「出る杭を叩く文化」がイノベーションを阻害していると考えています。年代問わず保守的な意見が多いなか、10代の若者が果敢に新しい取り組みにチャレンジし、実際にやればできるという感覚を掴めたのが今回の「NoMaps for students」企画の大きな収穫だったと感じています。
比較的先進的な発想を持つ大人の集まりであるNoMapsが、若者の挑戦・発信の場を提供することで、彼らが持つ「新しい取り組みを仕掛けていくことって楽しいし、カッコイイよね」という感覚を後押しする意義は、この保守的な風土の北海道においては大きいと考えています。

NoMapsは、これから何を超えていくべきなのか?

最後に、今回のNoMapsの「Beyond; さぁ超えていこう」というテーマに合わせて、NoMaps自身がこれからどう進化すればより意義深いイベントになりそうかについて、2つの観点からコメントをしておきたい思います。

一つ目は「意識の高い人たちが集まるイベントからライト層も参加できるイベントへの進化」です。オードリー・タン氏のセッションでも語られていた通り、ソーシャルイノベーションは大企業や特別な場所で起こるわけではなく、新鮮な目を持った個人のペインや気付きから始まるものです。その意味でNoMapsが「普通の人たちに"考えるきっかけ"を与えるイベント」になっていくことは非常に重要です。
そのために必要なのは、前述の「あしたのげいもり」や北3条広場で開催された「SYNCHRONICITY」のように、"ビジネス"や"社会課題提起"という文脈から少し離れたアート・クリエイティブ系のイベントプログラムなどを通じて「面白そうだから行ってみよう」と感じてくれる人たちを増やしていくことで、地道に一般認知を高めていくことです。
今回初めて本格的にNoMapsに関わりましたが、札幌市内においても想像以上に一般の認知が低い印象を受けました。広報・プロモーション活動にはまだまだ改善の余地がありそうです。

二つ目は、率直な言い方になりますが「北海道内のいつものメンバーだけでなく、道外のキーマンとの接点を持ち、コンテンツの質や視点の多様性を高めていく」ことです。北海道・札幌では、新しい取り組みを行っている人たちの数が限られてしまっており、事業連携の面では各領域のリーダー同士の距離が近いことによるメリットも大きいのですが、カンファレンスコンテンツという観点では「いつも同じようなメンバーで同じようなことを話している」という状態が生まれてしまっているという点は、道内の様々な方から課題として伺っています。
それもあり、今回私が企画・モデレーターを務めた「地方発スタートアップの課題と可能性」のセッションでは意図的に北海道の企業を呼ばず、地方発で最も成長している広島のスタートアップ企業と東京のベンチャーキャピタリストにお声がけしました(大久保らしい人選だった、普段とは異なる視点の話で新鮮だったなど、ポジティブなフィードバックをいくつも頂けたので良かったなと思っています)。
NoMapsで扱うテーマ自体は北海道以外の地方でも同じように活動しているプレイヤーが数多くいます。道内の登壇者と一緒に、福岡・仙台・新潟・広島など全国各地のキープレイヤーが登壇するようになることで、よりセッションの質や視点の多様性が高まっていくのではないでしょうか。

最後に

今回は初のオンライン開催として多くの学びがありながらも、セッション登壇者同士の交流やNoMaps参加者同士の交流が非常に薄く、昨年までと違い「実際にキーマンが繋がり、次のアクションに繋がっていくようなネットワークの場」としてのNoMapsを充分に体感できなかった点は残念でした。
ですが、各セッションの内容は大変勉強になりましたし、会期後に札幌の先輩経営者の方に飲みにお誘い頂いたりと、個人的には関わりを持てて良かったなと感じています。来年はリアルとオンラインが融合した"より進化したNoMaps"になることを期待しています。
最後に、NoMaps事務局を始めとした関係者の皆さん、お疲れ様でした!皆さんの頑張り一つ一つが着実に北海道の未来に繋がっています。

引き続き、POLAR SHORTCUTでは北海道のスタートアップ支援の取り組みを行っています。何かご一緒できそうな方、興味があるという方がいれば、ぜひご連絡ください。
Mail:info@polarshortcut.jp
Twitter:@OkbNori

※補足:NoMaps EDUについても触れたかったのですが、リアルタイム視聴をしておらず、評価ができませんでした。アーカイブ見ます。

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