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乗越たかおダンスマガジン評論集 【お試し版】 12

本書は2013年11月号から、2023年3月号までダンスマガジン誌(株式会社新書館発行 https://www.shinshokan.co.jp)に掲載された乗越たかおの舞踊評論をまとめた「集成版」のお試し版です。
1パックに評論が4本入って各300円とお値打ち価格で、気になる演目だけ読むのも可。第一弾は全21+1パックのラインナップで約10年間の流れがわかります。
※無断複写・転載を禁じます。この資料は、許可なく公開、書き換え、または再配布することはできません。
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86本全てと特典評論4本収録のお得な「集成版」はこちら。


ヤン・リーピン『覇王別姫』


(初出 ダンスマガジン 2019年6月号 約1200字)

 ヤン・リーピンは生ける伝説のダンサーである。中国の少数山岳民族であるペー族出身。孔雀の化身と見まごうヤン自身の孔雀舞を含む『シャングリラ』は中国の少数民族のプリミティヴなダンスを集めた衝撃的な作品だった。その後も『蔵謎』『孔雀』等、来日を重ねているが、今回は中国の古典で京劇から映画まで様々に作品化されている『覇王別姫』に挑んだ。「左遷」「背水の陣」「国士無双」「四面楚歌」など現代の日本でもなじみの深い故事成語の宝庫でもある。
 本作は世界中で公演を重ねているが、まず注目すべきはティム・イップの舞台美術である。アカデミー賞受賞以外にも、ダンスファンはアクラム・カーンの『デッシュ』を思い出すかもしれない。観客がまず目にするのは、舞台上空の端から端まで密集して幾層にも吊された大量のハサミである。擦れあうカチャカチャした音が鳴り続け、不穏な時代の空気を実体化している。しかも

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