デパート・メモリーズ
二十歳くらいの頃、百貨店でアルバイトをしていた。
百貨店勤務といっても別にお店の店員などではなく、荷物を搬入する物流関係のアルバイトだ。
トラックから積み出された荷物たちを、専用のボテ(コンテナ車)に載せ替え、それぞれのお店へ運んでいく。荷物を店員に受け渡し、サインをもらって帰ってくる。これの繰り返し。
僕は、このアルバイトがわりと好きだった。
百貨店特有の「各階ごとにがらっと変わる」雰囲気を楽しんだり、天井の高い空間を感じながら歩き回るのが気持ちよかった。
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荷物を毎日お店に運んでいると、当然ながら店員達とも親しくなる。
場所によっては苦手な店員もいたが、大半は良い人たちで、荷物の受け渡しをしながらちょっとした軽口を交わすのがすごく楽しかった。
人は見かけによらないと思ったのが、例えば化粧品売り場のお姉さんだったり、ハイブランドなショップの店員なども、接客こそハイソでエレガントな雰囲気を出しつつも、僕らの前では屈託無い素の笑顔を見せてくれたり、時にはジョークなども飛ばしたりしてくれる。そのギャップが素敵だった。
僕自身も若かったからか、肩書き云々にあまり臆するといったこともなく、色んな人たちと立場関係なく仲良くできた。今考えると幸せな脳みそだったなと思う。
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もちろん恋もした。
ヤングファッションの階の、とある女の子を好きになった。
同僚たちも皆若かったので、色恋の話は絶えなかったし、僕がその子を好きだと言う情報も、もちろん瞬時に共有される事になる。
こういう時、気になったり好意を抱いた店員とのコンタクト率を高めるため、"そいつのために目当ての店員がいる売り場の荷物だけをわざとバックヤードに残していく" という暗黙のルールがチーム内にあったので、存分にその恩恵にあやからせてもらった。
色々逡巡や葛藤を経た末、ある日その子がバックヤードに一人戻ってきた際、意を決して告白した。
結果、ものの見事に振られてしまうのだが、今となっては良い思い出でしかない。
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趣味が合う店員たちと一緒にライブに行ったりもした。
ケミカル・ブラザーズやらウィーザーやら、誰かが海外アーティストの来日情報を仕入れて来てはしょっちゅう会場へ足を運び、みんなで遊びまわった。
一人で遊びに行っても、現場で誰かと鉢合う…なんて事もわりとあった。
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まだまだ印象深い思い出が、星の数ほどある。
専門学校へ通い出す為にアルバイトを辞めるまでは、大体いつもこんな調子だった。今思えば、一番の青春時代だったかも知れない。
「荷物の運び屋」という立場上、ある種無色透明なスーパーモブの状態で色んな階を周り、様々な人たちと刹那刹那ながらフラットに接する機会に恵まれた事は、その後の僕の価値形成にも大きな影響を与えてくれた。
垣根を超えて多くの店員達とコミュニケーションを交わせる立ち位置にある事は、とても刺激的で楽しく、毎日が新鮮だった。
若く未熟な部分も大きかったかも知れないが、おそらくお店の人たちも、系統や派閥などとは一線を画した位置にいる自由奔放な僕たちに、多少なりとも特別な存在を見出してくれていたのかも知れない。
肌寒い季節になると、なんとなくあの頃を思い出す。
ただただ思い出を綴る回になってしまった。
今日はこんなところで。
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