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「私たちのエコロジー」展

六本木ヒルズ内にある森美術館で開催中の「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」より、2人のアーティストと作品を紹介したいと思います。

第1章 全ては繋がっている
本展が定義する「エコロジー」は、「環境」だけに留まりません。この地球上の生物、非生物を含む森羅万象は、何らかの循環の一部であり、その循環をとおしてこの地球に存在する全てのモノ、コトは繋がっています。最初の章では、そのような循環や繋がりのプロセスを様々な形で表現する現代アーティストたちの作品を紹介します。
ハンス・ハーケの、社会や経済のシステムと、動物や植物などの生態系とをつなぐ視点で撮影された記録写真の展示や、貝殻という有機物がセメントなどの建材に変換されるプロセスを来場者自身に追体験させる、ニナ・カネルの大規模なインスタレーションは、私たちが広大で複雑に絡み合う循環(エコロジー)の中にあることを想起させてくれるでしょう。

展覧会公式サイト「構成」より

1人目はリトアニア、ヴィリニュス出身のエミリヤ・シュカルヌリーテ(Emilija Škarnulytė)。ヴィリニュスとノルウェーのトロムソを拠点として活動しています。
今年のEUフィルムデーズで初の長編作品『埋葬(原題 Kapinynas / 英題 Burial)』を鑑賞したのですが、こんなにすぐに別の場所で名前を目にすることになるとは思っていませんでした。

「私たちのエコロジー」展で展示されているのは《時の矢》という16分間の映像作品です。『埋葬』にも出てくる廃炉となったイグナリナ原子力発電所が出てきます。イグナリナ原子力発電所はソ連時代にリトアニアに建設された原発で、チェルノブイリ原発と同型であることから、リトアニアのEU加盟にあたってこの施設の廃炉が条件となったそうです。

《時の矢》は『埋葬』を短い尺で再構成したような作品ですが、海底に沈んだ古代都市の遺跡や海を泳ぐ人魚の姿を映した海のシーンが多かったように思います。自然・環境と都市・文明の対比を静かに照らし出す、美しい映像作品です。

2人目はニナ・カネル(Nina Canell)、スウェーデンのヴェクショー生まれ、現在はベルリンに在住するアーティストです。

作家名/作品名:
ニナ・カネル《マッスル・メモリー(5トン)》
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示-非営利-改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。

《マッスル・メモリー(5トン)》は、タイトルどおり5トンのホタテの貝殻を使用した作品で、貝殻が敷き詰められた床の上を鑑賞者が歩くというインスタレーションとなっています。会場に響くカシャカシャという音や足元で貝が割れていく感触は、何とも不思議な感じがします。

本作で使用している北海道産のホタテ貝は毎年20万トン以上廃棄され、その再利用は喫緊の課題となっています。しかし、この貝殻を建材として利活用するためには、洗浄や焼成というプロセスが必須であり、その過程では重油を原料とする多大なエネルギーが消費されるという矛盾があります。

作品解説より

北海道産のホタテは今、福島第1原発処理水の海洋放出を受けて、中国が日本産海産物の輸入を停止したことによって出荷が減り、大きな打撃を受けています。殻むきの人員が足りず、受刑者の刑務作業の一環として行う案が出るなど混迷しています。(人権上の配慮から米国やカナダなどが刑務作業による商品の輸入を禁じているとの理由で却下されたようですが……。)

本来の作品意図とは違っているのでしょうが、奇しくもそのような状況と展示のタイミングが重なったことを、貝殻を踏みながら考えざるを得ず、エミリヤ・シュカルヌリーテの作品との繋がりや"広大で複雑に絡み合う循環"といったテーマが、より染み込んでくるように感じました。

2人の展示はいずれも第1章に含まれますが、他の章もとても面白く見応えのある展示でした。前の展覧会の展示壁や壁パネルを一部再利用しているなど、環境に配慮した展示デザインも見どころです。会期は来年3月末までとかなり長い期間開催していますので、興味を持たれた方はぜひ訪れてみてください。

(文責:藤野玲充)

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