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翻訳やことばに興味がある人におすすめの本

今回は、最近買った・読んだ本の中から、翻訳やことばに関する書籍をいくつかご紹介したいと思います。新刊が2冊、それ以外もこの1年ほどの間に発刊された本です。

日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年

(本の雑誌社)
田口 俊樹 著

翻訳家として40年以上の経歴(訳書200冊!)をお持ちの田口俊樹さんが、ご自身の訳書と当時の出来事を振り返る回顧録です。インターネットがなかった時代の翻訳は、どんなにか大変だっただろうと震えてしまいます。映像翻訳者の私にとっては、「映画を見て思わず『あっ!』」というエピソードが大変興味深かったです。少年がくもった窓ガラスに書いた単語 "moT"が実は名前(Tom)であったことに気づいたという話なのですが、映像(絵や音)があるおかげで補完できる情報って大きいですね。

生まれつき翻訳 世界文学時代の現代小説

(松籟社)
レベッカ・L・ウォルコウィッツ 著
佐藤 元状、吉田 恭子、田尻 芳樹、秦 邦生 訳

翻訳されるのを見越して書かれた小説は多くありますが、それだけでなく、他言語で書かれたふうに装った小説や翻訳されたような体裁をとる小説など、翻訳をその内部に組み込んだ作品を取り上げて、翻訳という観点から世界の現代小説を考察しています。ふと思い出したのが、Netflixで配信されている宇多田ヒカルさんの"Laughter in the Dark Tour 2018"のことです。このライブ映像、ご本人が歌詞やトークの翻訳(英語字幕)を監修しているそうで、これもある意味born translatedと言えるかもしれません。

「その他の外国文学」の翻訳者

(白水社)
白水社編集部 編

「その他の外国語」のうちの1つであるスウェーデン語を学んでいる身としては、手に取らざるを得ない1冊でしょう。北欧からはノルウェー語の青木順子さんのお話が載っています。「その他」として分類されてしまう、日本ではなじみの薄い外国語に携わる翻訳者の方々の、言語との出会いや文学・翻訳に対する情熱を知ることができます。「『その他』の側から世界を見ること」の重要性をひしひしと感じると同時に、自分もその一端を担うべく頑張らねばと思いました。

脚本の科学
認知と知覚のプロセスから理解する映画と脚本のしくみ

(フィルムアート社)
ポール・ジョセフ・ガリーノ、コニー・シアーズ 著
石原 陽一郎 訳

こちらは「翻訳」や「ことば」という分類からは少し外れますが、翻訳する映像作品を理解するうえで役立つかも?と購入したもので、認知科学の観点から映像や脚本の仕組みが解説されています。ヘレンハルメ美穂さんが以前のnote(翻訳に意外と(?)役立っていること4つ)で、文学理論や演技メソッドを学んだことが翻訳をする際の手助けとなっていると書いていましたが、さまざまな観点から作品の理解を深めることで、より適した訳語を導くことができるのではないかと考えています。

言語学バーリ・トゥード
Round1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか

(東京大学出版会)
川添 愛 著

『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』の著者である言語学者の川添愛さんが、プロレスやお笑いのネタを挟み込みながら、言語学的事象についてあれこれ語った連載がまとめられた1冊。副題となっている「AIは『絶対に押すなよ』を理解できるか」の回をはじめ、全編おもしろくてクスクス笑いっぱなしになります。序文で「お口直しのシャーベット」「箸休め的な内容しか載っていない」と書かれていますが、むしろ甘いしょっぱいを繰り返すかのごとく、ページをめくる手が止まりません。言語学に興味がない方にも(こそ?)おすすめです。

(文責:藤野玲充


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