見出し画像

今、北極圏がアツい! 新刊『白夜に沈む死』

今日は1月19日刊行の新刊をご紹介したいと思います。
『白夜に沈む死』 オリヴィエ・トリュック著

『白夜に沈む死』上
『白夜に沈む死』下

以前、北欧書籍翻訳者仲間の久美子さんがブログにも書いてくださった、『影のない四十日間』のトナカイ警察シリーズ2作目になります。

日本では多くの北欧ミステリが翻訳されていますが、北極圏のサーミ人に脚光を当てた作品は珍しく、1作目はSNSでもたくさんのご感想をいただきました。”北欧版金カム(ゴールデン・カムイ)”と評してくださった方も多かったです。

Twitterではみどママ(みどふく)さんが素敵なプレゼン画像をつくってくださいました。みどママさん、ありがとうございます!

1作目は40日間太陽の昇らない真冬が舞台でしたが、2作目はうってかわって太陽がほとんど沈まない春が舞台。トナカイたちも内陸部から沿岸へと移動し、夏の餌場である島に渡ります。しかしその島には石油&天然ガスバブルに沸きに沸くハンメルフェストの町があり――。

国家規模の巨額ビジネスの前に、トナカイ所有者たちの権利などあってないようなもの。しかし先祖代々の餌場を奪われる所有者たちは、どうやって生きていけばいいのか?

石油や天然ガスといえば、ロシアがウクライナを侵攻して以来、まさに今EUが直面している課題でもあります。ノルウェー沖には石油と天然ガスが豊かに眠っているのですが、ただ単純にどんどん採掘すればいいという話ではないのが、本書を読むとよく理解できます。その裏で犠牲になっている人々、動物、環境が存在するのです。

ほんの数日前にはスウェーデンのキルナ(作品内にも出てくる町)でレアアース鉱床が発見され、大ニュースになっています。貴重な天然資源が発見されたことで、中国への依存度を下げられるとEUは喜び、小さなキルナの町は活性化するし、確かに喜ばしい話なのですが、この作品を読んだうえでそのニュースを聞くと、鉱床の開発による自然環境破壊、餌場を奪われる少数民族サーミ人のことなどが鮮明に頭をよぎります。

迫力ある場面、そして連続殺人事件の謎という魅力たっぷりのミステリなのですが、現代の世界情勢やエネルギー問題を理解する上でも大変興味深い作品だと言えます。

今日はなんと、世界的なゲームデザイナーの小島秀夫さんが、本書のことをツイートしてくださいました! これは著者にも教えてあげなくては。そしてわたしもスウェーデンで生徒たちに自慢します。

このように政治的にもアツい北極圏ですが、スウェーデンではここ数年、北極圏を舞台にしたミステリが顕著に増えています。なお、ミレニアムシリーズの7作目も舞台は北極圏です。これはしばらく北極圏から目が離せませんね。

文責:久山葉子
1975年生。神戸女学院大学文学部英文学科卒。2010年よりスウェーデン在住。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』(東京創元社)。訳書に『影のない四十日間』(オリヴィエ・トリュック)、『こどもサピエンス史』(ベングト=エリック・エングホルム著、NHK出版)、『メッセージ トーベ・ヤンソン自選短篇集』(フィルムアート社)、『許されざる者』(レイフ・GW・ペーション著、創元推理文庫)、『スマホ脳』『最強脳』『ストレス脳』(アンデシュ・ハンセン著、新潮新書)、『北欧式インテリア・スタイリングの法則』(共訳、フリーダ・ラムステッド著、フィルムアート社)など。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?