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タイタニック号に乗っていたスウェーデン人たち

前回のブログで藤野さんがタイタニック号の話を取り上げていらっしゃいました。タイタニック号に乗船していたスウェーデン人の話はわたしも興味があるので、勝手にバトンを受け取ってみます。

当時は多くのスウェーデン人がアメリカに移住し、わたしも知り合いから祖先がアメリカに移住したという話、あるいはアメリカに移住したけれど結局スウェーデンに戻ってきたという話を聞いたことがあります。

昨今の難民問題でも、難民を多く受け入れすぎだという意見に対して、”かつてスウェーデン人がどれだけ他国に受け入れてもらったかを忘れてはいけない”という論調もよく見られます。

ヴィルヘルム・モーベルイがアメリカへ移住した家族の生活を描いた4部作(5部作だという意見もあり)は映画化されており、わたしも日本で大学時代に英文科の授業で観たのを覚えています。

昨年夏には近所でTitanicの展示があったので、見に行ってきました。世界中の町を回っている展示のようです。

展示では多くの資料、写真、手紙、遺品が展示され、船内の廊下や船室も再現されていました。乗船者のリストもありましたが、スウェーデンの苗字の多さにはやはり驚きます。

そして最後の土産物ショップでこんな本を買ってしまいました。

『タイタニック号に乗っていたスウェーデン人たち』

タイタニック号に乗り合わせていた123人のスウェーデン人(うち34人が救助)全員の名前や年齢、その他わかるかぎりの詳細が書かれている本です。どんな人たちが乗っていたのかなど、本書から少しご紹介したいと思います。

タイタニック号の船室は1等、2等、3等に分かれていました。

1等:乗船者324人、救助された人201人(女性139人、子供4人)
2等:乗船者276人、救助された人118人(女性83人、子供22人)
3等:乗船者708人、救助された人181人(女性91人、子供30人)

1等に乗っていたスウェーデン人4人は全員男性で、2名が助かり、2名が亡くなっています。亡くなったうちの1人、エリック・リンド(42歳)にはスキャンダラスなバックグラウンドがありました。彼は大農場の長男だったのですが、父親がギャンブルと女が好きで、ついには農場をギャンブルですってしまいます。エリックは若くしてアメリカに渡るのですが、スウェーデンを出る前に母親に「いつか必ず自分が農場を買い戻すから」と約束していました。アメリカでは船長にまで上り詰め、義和団の乱のさいに船で中国へ行ったり、1902年の火山噴火のあとに初めてマルティニーク島に上陸したうちの1人だったりと、数々の冒険をしています。アメリカ海軍と貨物の契約をしたおかげで富を築き、ついにスウェーデンに戻ると約束どおり農場を買い戻したのでした。わざとなのか、皮肉にも父親の葬儀の日だったそうです。その後エリックは農場に大きな投資を行い、質の悪い時計を輸入したり、学校の机を売ったりもしていましたが、どれもうまくいかず今度は大きな借金を抱えることに……。借金取りから逃げるため、そしてまたアメリカで財を築くために、偽名を使ってタイタニック号の1等船室に乗りこみます。ドラマチックな人生の末に海に沈むとき、彼は何を思ったのでしょうか。

2等に乗っていたスウェーデン人は6人で、4人が死亡しています。3等に乗っていたスウェーデン人は113人、そのうち救助された人は30人です。子供を連れた家族も多くいました。たとえばアスプルンド一家には3歳から13歳までの子供(息子4人と娘1人)がいました。救助用のボートは数が足りず、家族全員がもうお終いだと思ったとき、誰かが3歳の息子と5歳の娘を勝手に救助ボートに投げ下ろし、そのあと母親も誰かに投げ下ろされて助かりました。父親と上の息子たちはその後、船と一緒に沈むことになります。

3等に乗っていた人たちは、貧しいスウェーデンの農村地から未来を求めてアメリカに渡るところだったというイメージでしたが、実際にはすでにアメリカで暮らしていた人たちも多く、裕福ではないながらも子供を連れて実家に里帰りをしてアメリカに戻るところでした。現代に置き換えると、子供を連れてエコノミークラスで日本に帰省するわたしみたいな感じだったのでしょうか……。

最後に宣伝です!
3月29日にアンデシュ・ハンセン、マッツ・ヴェンブラード著の『脱スマホ脳かんたんマニュアル』が刊行になります。

スウェーデンで『スマホ脳(Skärmhjärnan)』のジュニア版として刊行された本書。スウェーデンでは学校を通じて希望するとクラス単位で無料配布されるほど大切なメッセージの詰まった本です。日本でもたくさんの小学生~高校生に読んでもらえると嬉しいです。

なお、これによりアンデシュ・ハンセンの著作シリーズ『スマホ脳』『最強脳』『ストレス脳』『脱スマホ脳かんたんマニュアル』の部数が累計100万部に達しました! とくに『スマホ脳』は先週朝日新聞にも入試問題の記事に載りましたが、20校近くの大学の入試問題に使っていただき、それだけの数の先生たちが『スマホ脳』を読解問題に使いたいと思ってくださったことに感激です。多くの方に著者のメッセージを受け取ってもらえて本当によかったです。

文責:久山葉子
1975年生。神戸女学院大学文学部英文学科卒。2010年よりスウェーデン在住。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』(東京創元社)。訳書に『影のない四十日間』(オリヴィエ・トリュック)、『こどもサピエンス史』(ベングト=エリック・エングホルム著、NHK出版)、『メッセージ トーベ・ヤンソン自選短篇集』(フィルムアート社)、『許されざる者』(レイフ・GW・ペーション著、創元推理文庫)、『スマホ脳』『最強脳』『ストレス脳』(アンデシュ・ハンセン著、新潮新書)、『北欧式インテリア・スタイリングの法則』(共訳、フリーダ・ラムステッド著、フィルムアート社)など。






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