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ノルディックトークスジャパン 「本日の献立:食のシステム改革 - 持続可能な食の安全を目指して」

責任ある食の未来とは?私たちは食の選択やその生産方法を見直すべきなのでしょうか?消費者と生産者の間の溝を埋めるために必要なことは?技術革新は解決策になるのでしょうか?革新的な政策は、生産者と消費者にどのような権限を与えることができるのでしょうか?

2023年5月30日、ノルディックイノベーションハウス東京、駐日北欧5カ国大使館、フィンランドセンターは、このテーマを議論するために「Nordic Talks Japan」を開催しました。会場は、東京・赤坂BizタワーにあるUNIVERSITY of CREATIVITY。会場で約60名、オンラインで110名以上に参加いただきました。

パネリスト:
ユリウス・B・クリスティンスン博士( ORF-Genetics 共同創設者, Silfurgen CEO及びオーナー
レーッタ・アンドリン氏
(ヘルシンキ大学 Viikki Food Design Factory 実務教授)
近藤ヒデノリ氏UNIVERSITY of CREATIVITY サステナビリティフィールドディレクター)
モデレーター:
吉富 愛望 アビガイル氏一般社団法人細胞農業研究機構 代表理事)

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

安全な食は人類生存の要

開会にあたり、インガ M. W. ニーハマル駐日ノルウェー大使が挨拶に立ちました。「食は私たちの生活であまりに基本的なことであるため、時に見過ごしてしまうこともあります。しかし、健康で安全な食品へのアクセスは、人間の生存にとって極めて重要であることは明らかです」 

続いて北欧のフードシステムに関する2つの取り組みを紹介しました:「Nordic Kitchen Manifesto (2004)」(食材の鮮度、倫理、健康、持続可能性、品質等に関する10の要点。北欧を代表するシェフが署名)。「Cookbook for Systems Change (2020))」(人、地球、社会を支え続けられるフードシステムの変革に向けて公的部門、起業家、その他ステークホルダーに向けた指針)。

「フードシステムの革新、食料安全保障、新興技術やAIが交差する分野は、エキサイティングで急速に進化するネクサスであり、将来的に食料生産と流通へのアプローチ方法を変革する可能性を秘めている。しかし、必要な規制と更なるイノベーションを促進するために、より強力な政府の戦略とイニシアチブが必要です。」

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

タンパク質の危機

モデレーターはまず、登壇者にフードシステムの変革に関わる動機を尋ねました。

クリスティンソン:会社を設立するために細胞培養肉の研究をしていたとき、動物性タンパク質(肉、牛乳、卵)の生産が、「タンパク質の危機」を引き起こしていることを知りました。危機は3つあります。土地の過剰利用(動物性タンパク質は人類が消費する食料の10%しか占めていないのにも関わらず、食料栽培に使う土地の50%をその生産のために使用。土地の過剰利用は何千もの種を絶滅に追いやり、さらに多くの種を絶滅危惧に晒している)、合成肥料の過剰使用、そして過剰な地球温暖化(温暖化ガス排出の25〜30%が畜産に由来)を起こしているのです。現在の食糧システムはまったく持続可能ではないので、私はそれを変えることに貢献したい。

アンドリン:私の原動力は生物多様性です。食品に活用できる植物由来の原料は非常にたくさんあります。一世代前、私たちの肉の消費量は現在の50%でした。食の習慣を変えることは不可能ではありません。

近藤:私は、サステナビリティとクリエイティビティの関係を構築すること、そしてサステナビリティをライフスタイルとして実現することに取り組んでいます。昨日出版したばかりの著書『Urban Farming Life』は、東京の人により持続可能なライフスタイルに移行することを提案しています。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

責任ある消費の今とこれから

責任ある消費とは、今日、何を意味するのか。また、将来的にはどのような意味を持つのでしょうか?

クリスティンソン:現在の世界の食料システムは、特に肉、牛乳、卵の生産は、まったく持続可能ではありません。今、私たちにできる最大の責任は、これらの製品、特に赤身肉の消費量を減らすことです。将来の責任ある消費を定義するのは時期尚早です。多くの技術が進化しており、消費者は選択するチャンスを与えられるべき。消費者は、味、価格、鮮度など、現在の食品を選ぶのと同じ基準で選ぶ機会を持つべきで、手に取った食材がどれだけサステナブルであるかを考えなくてよくなるべきなのです。

アンドリン:まず、消費者にすべての負担を負わせるべきではありません。システムの変革が必要です。例えば、全ての鶏肉生産を培養肉に変えれば、消費者は意思決定をする必要がなくなります。普通の鶏肉を買うのと同じように、養殖の鶏肉を買えるのです。業界側の小さな工夫も、消費者の責任ある選択を後押しすることができます。例えば、ヘルシンキのあるレストランでは、「鶏肉のロースト野菜添え」ではなく、「野菜のロースト鶏肉添え」のように、メニューの名称を肉メインから野菜メインに変更しました。システム変革には、さまざまな施策や取組が同方向に向かって継続的に行われる必要があります。一つの技術や食品表示で価値観が変わることはありません。

近藤:日本では、食品廃棄削減への取組が浸透している一方で、植物性食品へのシフトはヨーロッパと比べると限定的です。しかし、若い消費者に近いファストフードチェーンでは、ビーガンメニューを用意し、集客している動きもあります。江戸時代(1603~1867年)の日本はあらゆる素材を使い回す循環型社会を実現していました。江戸時代の暮らしをヒントに、日本的の持続可能な社会を再定義しようという動きもあります。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

ノベルフード(新規食品)に対する消費者の反応 

消費者はノベルフードに否定的なのでしょうか?
 
クリスティンソン:否定的な反応を止めるには、ノベルフードの質を良くする必要があります。現在のシステムが陳腐化するような魅力的なものにしなければなりません。業界は、販売する食品の背景にある真実を開示し、政府はベストソリューションをサポートすべきです。現在、最もネガティブな反応を示しているのは、農家の方々です。

近藤:価格面で否定的になっている可能性はあります。ただ、日本は多くの食文化を輸入してきた歴史があります(ラーメンやカレーなど、現在「和食」と呼ばれているものはすべて海外から入ってきたもの)。植物性食品も同じで、外から入ってくれば、自分たちのやり方で取り入れて、それが主流になっていくでしょう。日本人は控えめで真面目です。シフトが起きれば、みんなついてきます。

バリューチェーン全体を巻き込み、消費者需要を生み出す

官民の役割や、官民の連携をどのように捉えていますか?

近藤:経済産業省とは、トップダウンの力だけでなく、官と業界のビッグプレーヤーが一緒になって市場を作っていこうという取組をしています。

アンドリン:意識の高い消費者層の取り込みは、既に成功しています。次は、どのようにマスに広めていくかの取組が急務です。そのためには、小売業のシステム変革が必要。できるだけ多くのステークホルダーを巻き込み、リテールチェーン全体と協力していかなければなりません。

クリスティンソン:現状、ノベルフードへの主な出資者は慈善投資家や政府です。もし、消費者需要を生み出す良い製品を開発できれば、システム側の押す努力も少なくて済みます。私たちは、より良い製品を必要としているのです。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

北欧と日本のコラボレーションの可能性

パネリストは皆、持続可能な食のシステム構築に向けて、北欧と日本のコラボレーションが大きな可能性を秘めていることに同意。

アンドリン:発酵は将来的に大きな役割を果たすと思っているので、日本の豊かな発酵文化は多くの貢献をすることができます。実際、オーツ麦ベースのタンパク質食品を開発した私の最初の会社は、日本のひかり味噌株式会社とコラボレートしています。
 
近藤:デンマークの三ツ星レストラン、NOMAが京都で期間限定レストランを展開した(2023年3-5月)のは、ひとつの象徴的な出来事です。日本にはたくさんの地域の食べ物や食材があります。伝統的な食材をさまざまなシェフが手がけることは、とても刺激になります。日本のロボット技術も、コラボレーションのきっかけになるのではないでしょうか。

私たち一人一人ができることは?

持続可能なフードシステムに向けて、私たちが取れる行動は?

クリスティンソン:とにかくに肉食を控えること。そして空輸食品の食品も控えること。海上輸送の方が、空輸に比べて温室効果ガスの排出量が100倍少ないです。

アンドリン:食べる前に「これは本当に必要なのか?」と考えてみること。新しい贅沢としてのミニマリズムも良いと思います。いろいろな種類の野菜の味を楽しむこと。

近藤:私は肉が大好きですが、肉の食べ過ぎをやめました。毎日の昼食は、キムチと納豆とご飯です。最初は物足りないと思いましたが、慣れてくると体が以前より軽くなり、健康になりました。もうひとつのお勧めは、アーバンファーミングを始めること。アーバンファーミングは、農業というよりは、新しい友達を作るためのものと捉えてもらいたいです。ライフスタイルやマインドを変える最初のステップになります。

リスクに関する情報の共有が重要

質疑応答では、弘前大学人文社会科学部教授の日比野愛子氏からコメントをいただきました。

「私は培養肉に対する消費者の受容について研究しています。本日の議論でに関連して、3つほど述べさせていただきます。まず、ありとあらゆる新技術は、導入当初は否定的に受け止められるものです。浸透するか否かを判断するには、消費者と開発者の間の議論を、もう少し時間をかけて見守る必要があります。第二に、新しい価値観を導入する際には、文化的な枠組を活用することが重要です。食の場合、例えば「もったいない」といった日本の伝統的な価値観を活用することが有効です。最後に、新技術を導入する際は、そのリスクに関する情報も広く共有することが、浸透させるために重要です。」

不均衡な食料システムー早急な対処を

最後に、駐日アイスランド大使のステファン・ホイクル・ヨハネソン氏が閉会の挨拶を述べました。「人類と食の関係は、深刻な不均衡に陥っています。10人に1人が十分な食料を得ることができず、30億人が健康的な食生活を送ることができないと言われています。同時に、私たちは生産された食料の⅔を廃棄しています。 早急に目を向けなければならない問題です。映画とステーキについての例を聞いて、喫煙の事例を思い出しました。喫煙も、当たり前のように映画で見られていましたが、今では身体への悪影響が浸透し、各種規制がされています。喫煙にどう対処してきたかは、食料システムの変革を考える際の参考になるかもしれません。」

「若い世代に変化が見られるのは確かで、実際、私の子供2人はビーガンです。ディスカッションにもありましたが、結局のところ、消費者は味、栄養、価格に基づいて何を食べるかを決められる環境にあるべきです。日本と北欧は未来の食品開発のキープレーヤーになる大きなチャンスがあると信じています。」

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

最後までお読みいただきありがとうございました。下記より録画映像もご覧頂けます。Please visit here for an English event report.

ノルディックトークスジャパンは、持続可能な未来に向けた、インスピレーションを与え合うことを目指して行うイベントです。デンマーク王国大使館、フィンランド大使館、アイスランド大使館、ノルウェー大使館、スウェーデン大使館、フィンランドセンター、ノルディックイノベーションハウス東京が共催しています。

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