「プロの仕事と感じた経験」PAミキサー編
社会人となると 仕事に対して「プロフェッショナルでなくてはならない」と言われることがある。
僕は約40年程、社会人として生活しているが2つの業界しか知らない。
最初は前回投稿した20歳頃から30歳までのコンサート等の「PAミキサー」と、現在も続ける「不動産・建築」の業界である。
共にプロフェッショナルなスキルを求められるが、
「この人プロやなー」
と勝手に思った出来事がいくつかある。
様々な業界があり自称を名乗り、名刺さえ作ればその道のプロに見える昨今であるが、プロフェッショナルとは何なのだろうか?
PAミキサーと言えばミュージシャンの演奏する音を、観客に伝えるのが役目であるが、時には音量が課題となる。
音量とはPAミキサーがスピーカーから出す音の大きさのことでロックなどの場合、大音量がミキサーの好みであったり観客のノリに影響するため評価される場合がある。
特にバンドブームと言われた1980年台には、そんな風潮があった。
そんな中で、「日本で一番音の小さいミキサー」(今後先輩)と言われた先輩と何度も仕事をさせていただいた。
先輩の専門はジャズや演歌等と、どちらかと言えば音量よりも音質が重要視さえれるジャンルが多く、音造りはスピーカーから音が出ているというより会館全体が響いているようなイメージである。
僕は先輩がロックのミキシングをしたらどんな音を出すのかと、常に興味を抱いていた。
当時、ブームに乗り日本中で野外ロックイベントが開催されていた。
その矢先・・
「俺がプランナーのイベントをやることになったが、人手不足なので手伝いに来て欲しい、ギャラは出ないので今度たらふく酒を飲ましてやる」
いきさつは忘れたが、先輩から「拒否権一切なし」の連絡がきた。
イベントの場合、通常PAミキサーはバンド専属が同行するので、先輩の会社はオペレートせず音響機材を提供する役目であるがこの仕事が結構大変で、同行するミキサーにいかに良い音でオペレートさせるかは、機材提供者側の腕の見せ所とされている。
マイク1本からスピーカー等の機材一式、トラブルの対処まで音響プランの全てを任される立場で、音の良し悪しに大きく影響し主催者側の評価も全て先輩にゆだねられていた。
80年代は今でも活躍中のバンドがデビューした頃で、ノーギャラでスタッフとして参加したイベントでも、将来が期待された若手バンドが多数出演していた。
トリは忌野清志郎さんで当時、清志郎さんはRCサクセションを休止中で若手ミュージシャンを集めて清志郎バンドを結成し出演された。
そしてなんと、清志郎バンドには専属のオペレーターが来ないので、主催者側のミキサーでオペレートをお願いしたいとのことである。
主催者側のミキサーとはまぎれもなく先輩のことで僕は
「大丈夫か先輩!!」
と思う反面、本心はどんな音を出すのか興味深々であった。
スケットとして参加していた僕は、本番中はステージ側の仕事を手伝っていたが、音を聴きたくて清志郎バンドの出演前に客席中央に陣取られたPA席のテントへと走った!
曲も聴いたことが無ければ、どんな音を出すかもわからないバンドをどうまとめるのか、当日の機材を知り尽くしている先輩としては自分の音が悪ければ評価はガタ落ちであり、プライドが許さないだろう。
1曲目が始まると、基本通りバンド全体の音量を下げ清志郎さんのボーカルをメインに音量バランスを見極め、その後ドラムを中心に音造りをしながらメンバーの音を乗せて音質バランスをとるが・・・
何か物足りない感じがする。
PA席ではドラムの音など、低音が弱くイマイチ寂しい感じがしたのだ。
2曲目が始まると先輩はミキサーコンソールをほったらかしで、客席の音を聴きに行き何事も無いようにミキシングを続ける。
僕も気になり客席に音を聴きに行くとPAブースのテントの下では、重低音が響かず寂しい感じだが、客席では程よいバランスである。
野外のコンサートではよくあることだが、PA席は急な天候変化などの対応でテントの中でオペレートすることが多々あり、テントが邪魔をして重低音をさえぎることがある。
これに気付かづにPA席で気持ち良い音造りをしていると、客席では重低音が出すぎるバランスになるのだ。
先輩はそのことを熟知しており、客席の音を想定し音量を決めバランスをとっていたのである。
恐らくミュージシャン付きのミキサーにもアドバイスしていたに違いない。
先輩に清志郎バンドの感想を聞くと、清志郎さんのボーカルはマイクを通じて突き刺さるように飛んできたのが第一印象で、ミュージシャン付きのミキサーより音量的にはかなり落としていたという。
音量的にはもっと出せたと思うが、清志郎さんの言葉を伝えるにはあのバランスと音質が一番良いと判断したとのことである。
客席で聴くと決して音量的に寂しい感じはしなかった。
「日本で一番音の小さいミキサー」のロックの音は音量よりバランス重視で
「バンドカラーやボーカルの言葉をお客さんに聴こえやすく伝えたい」
そんなポリシーを感じ、そういう意味ではロックや演歌など音楽のジャンル
は関係ないと教えられた。
その後たらふく飲ませてもらったことは言うまでも無いが、得るものも多くノーギャラで参加した野外イベントの音の評価も上々だったそうだ。
20代の若かりし頃、プロの仕事に接した想い出である。
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