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街にドラマは落ちている

交番にときどき行くはめになります。怖いんですけど。
落とし物を拾うんです。ゴミだとしても拾って捨てたくて、見過ごせなくてモヤモヤします。駅の忘れ物だったら係員さんに持って行きます。
みなさんは落とし物、忘れ物を見かけたらどうしてますか? ゴミだったら、どうしますか?

先々週、終点駅で乗客が降りて折り返し発車待ち中の電車に乗ったところ、座席下に大きな紙袋の忘れ物があるのを見つけました。袋の口から見えるのはお弁当とお茶が数人分。ちょうど最後尾で車掌さんがいる車両だったので声をかけ、持って行ってもらいました。よかったよかった。大きな紙袋だし、帰ってすぐに家族かお友達で食べるつもりだったでしょうから、すぐ落とし主も駅に問い合わせてくれるでしょう。
あれ? それがもし食べ終えたゴミだったらどうするのが正解だったんだろう。
そのホームはゴミ箱があったのでそこに捨てられたはずで、それなら問題ない。
ゴミ箱がホームになかったら、ゴミ箱があってもいっぱいだったら……。

紙袋といえば数年前にもこんなことが。駅の外にあるATMのボックスに入ったら、紙袋が置き忘れられていました。監視カメラが付いている狭い空間です。さっさと預金を下ろしてその場を立ち去ればいいのですが、そうもいかない性分しょうぶん。意を決して中を覗くと、箱とチラシなど紙類が入っていました。どうやら結婚式場の引き出物か、それにしては……、いやここで監視カメラがあるのに、あまりジロジロ見てちゃ怪しいやつだと疑われるぞ。短い間にそんなことを考えていると、トラブルがあった時に使う電話機があるのに気づいて電話しました。
銀行のセンターらしき所につながって、状況を話すと「近くに交番はないですか。あるようなら持って行ってくださいますか」と言われました。駅を挟んだ反対側に交番があることは知っていて、たまたま時間の余裕もあったので交番へ持って行きました。ちょっとウキウキして。
その交番は普段は無人のことが多くて、備え付けの専用電話がありました。また電話をかけ、拾った状況を説明して、警官が来るのを待ちました。しばらく一人で待っていると警官が到着。危険物はなく、紙箱にはタオルが入っているようでした。他のチラシや紙の文面を読む限り、どうやら結婚式場の内覧会かなにかの見学お礼のような内容でした。貴重なものは入っておらず、見学した関係者に配られた記念品や宣伝のチラシなどでした。お礼状には○○様という印字もあったのです。
私は警察官に「これって忘れ物というより、欲しい記念品だけもらって故意に捨てた、置いていった可能性もありませんか」「へたに式場に連絡しても、○○さんが捨てたことがわかったら、置いて行った人も式場どちらも気まずいですね」と余計な推理を話したりしながら、記録をつけている警官と話し込んでいました。名探偵気分です。

そう、モヤモヤして見過ごせないのは困っている人の役に立ちたいという気持ちもあるけれど、もう一つ、落とし物、忘れ物にドラマを感じるのが好きで、届け出をしてさらに想像を膨らませたいのです。良い人ぶって届けるわけでもなくて、人のことが気になるんですよね。

「俺はマイカー通勤だから、落とし物に気づかない」「いちいち拾ってられないよ」という人も多いでしょう。
わたくしケイもここ数年クルマ通勤で、運転中は落とし物を拾えませんから、素通りしています。もっとも、路上に落ちているのは落とし物でなく、だいたい空き缶や風に舞ってきたビニール袋などのゴミですよね。無理やり捻り出せばドラマを妄想できなくもないけれど、この場合はもう純粋に自分が迷惑に感じたから、運転されるほかの皆さんも迷惑だろうから、早く取り除きたいだけ。場合によっては事故にもつながりかねないから、未然に止めたヒーローと思えばいいんじゃないでしょうか。

車道ではたまに動物の死骸も見つけます。ドラマどころかミステリー性がプンプンしますね。でも「うわぁ、保健所か警察に電話したほうがいいよなぁ」と思いながら心の中で手を合わせて通り過ぎることが多いです。やはり運転していては簡単に拾うことはできません。それに「あまり考えてしまうと動物の霊が取り憑く」と聞いたことがあって、ドラマ妄想を封じる場合もあります。

落し物なのかゴミなのか、その中間くらいだと届け出するか結構困ります。その代表が片方だけの手袋でしょう。電柱やガードレールにかけられてるのを見たりしますよね。「ああ、同じような考えの人がいる」と嬉しくなります。そしてどんな職業の人が落としたのか、取りに来るだろうか、考えます。両方揃って落ちていたら自分なら警察に持って行っただろう、とか。
生きた落とし物、捨て猫とか見たらもう放っとけない。酔っ払いが潰れていても、怖そうな人でなければ、大丈夫ですかと声をかけます。
ドラマ落ちてます、街に。紙切れ一枚だって何かすごいことが書いてあるかもしれない。そのときに近寄れる時間や勇気があるかどうか。ドラマはないかもしれないけど、ひとまずわたくしケイは近寄って拾うのです。

《2023.3.20天狼院書店ライティング・ゼミ5本目 ◎6位


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