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どうして広報という仕事は理解されにくいのか

広報という仕事に携わって数年、広報立ち上げでとっても苦労し(何ならまだ苦労している)、学ぶ場に積極的に出向き、社外の方と多く情報交換してきた結果、なぜ広報は理解されないのかということがなんとなく見えてきた。
現在、会社広報と共に力を入れている「広報・PRの地位向上」の個人活動のためにも、これについて言語化・整理したいなと思い、雑ながらまとめてみた。

わかりやすい「広報の仕事」がプレスリリースしかない

広報ではない方と話していると、広報の仕事のイメージはプレスリリースとか、記事掲載とかを挙げて話される方が多い。確かに間違っていないが、これらは広報業務の本質からすると手段の一つでしかない(多くの人に伝えるための手段として、メディア掲載を狙ってプレスリリースを出すため。しかもSNS等発達した今の時代、メディア掲載のためのアプローチはプレスリリースだけにとどまらなかったりする)。

広報業務と言ってもいろいろある。
例えば記事クリッピング。自社の記事クリッピングでは、メディアに載ったことを今確認して喜ぶのはもちろんだが、その記事が載ったメディアはいずれ入手できなくなることと、それが会社の歴史となって残っていくことを見据えて自社記事を保存しておく。そしていくつか並べてみると、取り上げられ方で、自社がどう見られているか、どういうことを自社が期待されているかを察することができる。
また、競合他社の記事クリッピングでは、並べることで業界や他社の動向がわかるだけでなく、社会から注目を集めているポイントがわかる。ただ、このクリッピングが何か、目の前の変化をもたらしてくれるわけではない。

例えば社内コミュニケーション。イベントや社内報などをやっても、それが直接何か劇的な変化をもたらさないはずだし、そもそも測れない。何なら人の感情は変わっていくもので、1回やったとしても効果が継続するとは限らない。タイミングも大切。
だが、それの積み重ねは確実に何らかの変化をもたらす。社内の情報流通が活性化され、何かがきっかけで新しい取り組みにつながったりして、会社が何らかよい方向に動いていくものである。

広報に関わる事柄は、モノや結果など、わかりやすい形としては見えないものが多い。そのために、数少ない広報関連のモノ(プレスリリース、記事、テレビ番組など)にいろいろなイメージを引っ張られた結果、広報のことについて大事な箇所が霞んで見えなくなっていくのだと思う。

話は逸れるが、広報知識が少ない方が「マスメディアの取材では、記事内容を事前に確認し修正できると思っていた」というのを少なからず聞く。マスメディアの取材を受けた時には原則、内容事前確認はできないのだが、広報の専門知識として閉じたところにしまわれ、時に広報スキルを示す指標のように扱われることすらある。
新聞社、テレビ局、出版社…といったメディア企業は、どこも営利企業であるからこそ、(平たく言うと、多くの人の支持を得るべく)各社のポリシーに基づきよい情報を届けるために独自の情報を欲している。メディアリレーションを心得ている人はその前提をもって活動をしているはずだが、その前提を知らず「新聞」「テレビ番組」「雑誌」などの身近なモノになった瞬間、受け手(消費者)目線からの認識が強くなり、情報をこちらの都合に合わせて載せてもらうという勘違いが生まれてしまうのではと感じる。

広報用語が抽象的でぴんときにくい

いかに自社のことをオープンにしつつメッセージを発信し、注目・期待してもらうか。ということをやっているのが広報。

そう言うと、広報の方なら理解してもらえると思うが、それ以外の方はあまりぴんとこないらしい。
これはひとつひとつの広報業務から導かれた概念であり、そのひとつひとつの広報業務を知らない人には具体が想像できず抽象が何を指しているのかがわからないそうだ。これは、その人の活動などを見ていて広報の論理をわかってくれると思った方(広報ではない)に広報の話をしたところ、「抽象的で難しい」と指摘を受けて気づいたことである。

たとえば、

「求職者に向けて、ワークスタイルや福利厚生を見せて働きやすい会社だと思ってもらう」
「投資家に向けて、業績が伸びている事実や考え方を見せて将来性が高いと思ってもらう」

などだが、そういう文言でピンとくるのは広報をはじめとした一部の方らしい。どうやらこの文言に多くの抽象的意味合いやロジックが隠れており、そこも詳細に言語化してすり合わせなければいけないようである。
さらにややこしいのは、抽象論が故に、お互いそれぞれの解釈でなんとなく話がわかった雰囲気で進行しやすいこと。広報担当は話してわかってくれたと満足したとしていても、相手は実は違う理解をしていて後で発覚する、といったことも起こり得る。

効果測定がしにくく、実務担当者も少ない

広報職の永遠の課題、効果測定。常に話題は出るが、業界標準になるような結論はまだ出てきていない。
広報は事業会社において投資的要素が強いことが大いに関係していると思う。お金は稼がないが、会社の将来に向けて種蒔きをしていく役割。そんなにすぐには結果が出ない、でも挫けずやり続けることが大事なのだが、短期効果を見込みたい経営者からすると成果は地味で、評価したいと思える目立つポイントがない。それもあり、目立つことも少なく、待遇や評価が上がりにくいように感じる。
伝わらないものだと広報担当は思いつつも、やはり重要なことをしている自覚を持って業務に当たっているはずで、ちゃんと理解され評価されていないことに苦しんでいる広報も少なからずいるのではないか。
さらには投資要素のせいで、会社内で広報職をたくさん置けない(いつ実がなるかわからないのに人件費はかかる、だからトータルバランスを考えて人数を絞る)というのも、広報担当を孤独にし、属人化やブラックボックスを招いているひとつの理由だと思う。

広報の目的が各社で異なる

広報は目的ありきで活動する。決してプレスリリースのためには活動しない。同じ業界、同じ規模の広報職でも、会社が掲げる先(広報の目的)が違うと、見ている世界は違うことになる。それだけでなく会社の状況や価値観により、担当範囲もまちまちである。
前述の通り、プレスリリースは、それぞれの会社でそれぞれの世界を実現するための「手段」のひとつ、でしかない。すなわち、同じカテゴリのC向けの商品でも、A社は商品を売るためにリリースを打ち、B社は投資家に向けてリリースを打つ、があり得る。もちろんこの場合、リリースのメッセージも、メディアの送り先もまるで変わる。
最近は広報のコミュニティも増えており、情報交換や出会いの場は増えた。しかし上述の通り、目的も状況も違う広報担当では、実は悩みを深いところで分かち合えない。もちろん、悩みは似るし、それぞれの解決策はシェアされている。だがそれは必ずしも正解のようにどこにもあてはまる魔法ではない。最後は広報担当が自社の状況を考えて、アレンジして、社内調整して(時に社内の壁と戦って)実行する必要がある。

繰り返すが社外にいる同じ職種「広報担当」さえそうなのだ。社内では共通言語は限りなく少ない。

人のしてのスキルと重なる

前述の「成果は地味で、(経営者が)評価したいと思える目立つポイントがない」と並ぶ、いや、ある意味もっと深刻であると考えるポイントを挙げた。

組織は人で成り立っている。なので広報業務を行うにあたり、「人」の存在は意識せざるを得ない(コミュニケーションする職種であると言われるのはまさにここである。広報と人事は業務が近いとも言われる)。
会社が目指す世界を成すために、社内交渉、社外向けSNS発信、メディアへのアプローチといった、社内外で様々なコミュニケーションを重ねていく。その中で、社内において広報がアプローチした結果、その社内の人がもし動いてくれたとして、この時広報担当がアプローチしたことより「本人が動いた」ことの方が目立ってしまう、という事象が起こる。本人が努力して、時には意識改革して動いてくれることもあり、それは組織には大事な結果であり、褒められるべきは努力したその人であることは間違いない。一方、広報担当視点で偏って見るならば、それを動かすために広報担当がしたことは当人の努力に隠れ、表に出ることは少ない。

そして、コミュニケーションというのは人としてのスキルと重なる。人はそれぞれ価値観を持ち、自分の価値観に基づいて人を見る。真に客観視するのはどんな人でも無理である。したがって、経営者はじめ社内の人はそれぞれの価値観や感覚で広報担当を見ることになる。もともと見えにくい広報スキルが、人としてのスキルと重なることを知らないと、専門的スキルがないようにすら見えてしまうのである。
例え、「広報スキルは人としてのスキルと重なる」ことを知っていたとしても、前述の通り客観視は難しい。見誤ることは往々にしてあることは想像に難くない。

おわりに

私自身、今の会社に広報立ち上げで入社し、試行錯誤や討議や葛藤の末、結果的に広報に対して何らか期待を持ってもらえるまでになった(ただしここまで持っていくのに2〜3年かかった)。裁量を持ってやらせてもらえる恵まれた環境にいるからこそ、いろいろトライアンドエラーできて見えるものがたくさんあったことは付け加えたい。当然、これだけのことが書けるのも、ある程度の広報理解を得られたから。ただ、今でも細部はまだ理解されていないこともあるなと感じることもあり、時々悲しい思いもする。

今後(むしろこれから)、広報PRの探求や広報観の明文化に取り組むので、内容をブラッシュアップし発信していくつもりである。もっと広報理解を深めるために今後社内向けにやることも、随時発信していきたい。


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