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《西村卓さんインタビュー》彫刻はいつも自分の答えを見いだしてくれる

今回は、木彫作家 西村卓さんにお話を伺いました。 
西村さんは多摩美術大学で彫刻学科を学ばれ、 
現在は木彫作家活動と並行して多摩美術大学彫刻学科の助手として勤務されています。

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ギュって集まって成り立っているみたいな…人間の多様性みたいなものを木で表現しようかなと。

ー彫刻学科を専攻した理由は何ですか。 

予備校の時に教えてくださってた先生がクレイジーすぎるというか、すごいなんか普通じゃない感じの先生だったんですよ。 
僕、最初はデザイン科に行こうかなと思っていたけど、いざデザイン科の体験授業を受けてみたら、おしゃれ感全開というか、デザイナーみたいな感じのすごいイケイケな感じの先生が多くて。僕はあんまり気に食わんなぁと思ってやめて、絵画にいってみたら 、すごいふわふわした事しか言わない先生がいて、それもなんか違うと思って。
で、彫刻にいったら岡本太郎みたいな先生がいて(笑)。なんか目がギョロギョロしてるし、焦点合ってないし、夢みたいな事ばっかり言うし、すごいインパクトがある先生でこの人と一緒に何かやっていたら面白いかもしれんと思って。
で、その人が彫刻にいたから彫刻家にするかっていう。ツボにはまったというか。 

ー(笑)。その彫刻の先生すごく気になります。 
木彫作家になろうと思ったきっかけはありますか。 

大学では結構イベントやってみたりとか演劇やってみたりとかとりあえず何かやってみるんだけど、何ていうんだろう…すげー楽しかったけど、まぁずっとやるもんじゃないなってどっか思ってて。ちゃんと美術をやりたいっていう、俺は美術でやっていくんだみたいな確信はあんまりなくて。 
まぁなんとなく大学に行って授業を受けてって感じでいたんですけど、大学3年生の頃にすごい尊敬できる先輩2人に出会って。その人達は木彫をやっていて、色んな事を教わって…それをやっているうちにこんな風に俺もやりたいと思って作品作りに集中していくようになったって感じです。

ー先輩2人との出会いで人生が大きく変わっていったんですね。 
西村さんにとって彫刻の魅力とは何ですか。 

彫刻っていうジャンルは表面もあるけど、中身もあるんですよ。木だと表面もあるけど、切れば中身があって。 例えばちょっと穴を開けて中を彫刻すると二重構造みたいなものが出来る。
あと彫刻だと壁も使えるんですよ。壁に平面っぽいリーフみたいなものを飾って手前に彫刻を飾って…ここの空間全部で作品を作るみたいな事も出来て、その中に映像を加えたりとか、音を加えたりとか何だったら観てる人ですら彫刻の中の作品の一部に出来る可能性があって。その場にいる人っていうか、あるもの全部そういう風に出来るっていう所がすごいいいなと思って。
あと、木彫とかって木の良い匂いするじゃないですか。その匂いも作品の一部になるし、そこが何かいくらやってもアプローチが変えられるというか攻め方で変えられるので、いくらやってもどんどんやる事がやれる事が見えてくるみたいな所がいいなと思ってやっています。

ー西村さんの作品を観て木から温もりを感じたというか… 
木って生きているんだなって改めて気づかされました。 

そうですね。なんかそこはやっぱ大事というか。 
木をカットしているんですけど、このブロックが元々あった場所にしか同じものがなくて。似ているものはあるけど、同じものはなくて…それをさらに細かく裁断しているので、なんか兄弟みたいな感じです。 
兄弟はいっぱいいるけど、みんな全部違うみたいな感じでそれが1つコンセプトですね。しかも木の種類が違うっていう所でなんだろう…人、人間みたいな感じで黒人がいたり白人がいたりとかする中で、1人1人違うみたいな…なんかこう特化する中でそれがくっついていてギュって集まって成り立っているみたいな…人間の多様性みたいなものを木で表現しようかなと。 

ー制作している時はどういう気持ちですか。

気持ちはなんだろう…無心の時もありますけど、結構作品の事だけじゃなくて、コンセプトに関わる様な日頃の出来事っていうか、自分に関わってきた出来事に対して「あの時なんでこうやったんだろう」みたいに思い返す様な時もありますね。 
なのでその考えている事が作品のコンセプトになってきたりとかはします。 
例えば人から言われて適当に愛想良くしてた時を思い出して、あんな事そういえばあったな とか思い返し始めて…「何でこうしたんだろう」とか思っているうちに、「これはこういう事なんじゃないか」と考えて、じゃあそれは今回の作品の事にちょっと結びつけてテーマこういう風にしてみるかみたいに色々と考えていますね、日常的なことも含めて。 
あとは無心になってる時もありますけど、なんか作品の事じゃない事も考えてそれが作品に フィードバックしてくるみたいな感じですかね。

ー完成した時は日常の出来事や疑問などはすっきり解決するんですか? 

いや、解決ってもんでもないですね。
でも作った時にあんまりそれが残らない様な感じにはしていますね。そういう事がなくなって作品だけを観られる様になったら完成かな、みたいな感じです。
作っている時に色々とやっていて、なんかこう…ふっと全部なくなる瞬間があるんですけど、それがその時にもう入れない方がいいなと思ってやめますね、大体。 

ーなるほど。 作品を制作しながら自然と自分を見つめ直したり、自分と向き合っているんですね。

そうですね。なんか最初作ってる頃は、ほんと色んな事を考えてるんですよ、しょうもない事とか。なんか今日制作終わったらちょっと公共料金入れなきゃなとか、そういう事も含めて。
日常の事で思い返してちょっと作品に通じる所があるなみたいな所をわぁーってやって自分の中で消えた時に完成って感じですね。

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その子達が卒業して何年か後にそこにいたいなと思うようになっていたいし、なっていようって感じていますね。

ー大学院に進まれた経緯を教えてください。

大学4年の段階で企業に就職するか、この先作家活動としてやっていくのかみたいな所は1つ選ぶポイントではあると思うんです。
で、そうなった時に作家活動でやっていきたいけど、まだまだそのスキル的にというか、自分の作りたいものがはっきりしないというか…もっとやってもっと周知してやっていきたいっていった時に大学院に行こうかなと思って。それで行く事を決めました。 

ーどんどんご自身の制作スタイルが確立されていきますね。

そうですね。研究生が終わってそのまま大学で助手になって、 今3年目なんですけどそんな感じです。

ー「人に教えたい」という想いは元々あったんですか。

それはありましたね。大学のアトリエの空間がすごく好きで、自分の作品をやりながら先輩だったりとか、下級生だったりとかに作品の話が出来るっていうのが凄く良くて。 
自分だけでやっているとすごい1人よがりにもなるし、あんまり批判とかもされる事はないじゃないですか。
展示とかしてても大体言われるのは「すごい綺麗だね」とか割とありきたりな言葉ばっかりで…ただ一緒に作品を展示してる仲間からすると仲良い分、何でも言えると言うか…批判もしてくれるし、アドバイスもくれるし、逆に僕も言ったりもするけど、それは相乗効果っていうかそういうのがあって、作品がどんどん良くなっていくからその空間がすごく好きですね 。
出来ることなら大学に残って教えたりする事をやっていきたいなと思っています。もちろん作家活動しないと教えるにも教えられないっていうか、作家活動した上でですけど 、大学で教えられる様になれたらいいなとは思っていますね。

ー心境や心情の変化などはありましたか。

心境の変化はやっぱあれですね。学生の頃は自分で頑張っていけばいい、あんまり周りの事はみていない様な感じだったんですけど、助手になってやっぱ学生よりはやっていないとまずいなって。教える立場に立つ所にないって思っていて…だから学生に負けている様じゃ全然ダメで。ちょっとした事でもう学生の見本っていうか。
あと近い将来像としてありたいなと思っていますね。先生ほど年を取っていないし、むしろ研究院生の子とそんなに歳が変わらないので、その子達が卒業して何年か後にそこにいたいなと思う様になっていたいし、なっていようって感じていますね。
まぁだからそうですね。僕が3年生の頃、2人の先輩に憧れてた様に、憧れられる様になりたいなという感じですかね。

コップの重ね順とかだけでもアートの感じ、その人の感性みたいなものが多少なりとも出ていて、そういう所でみていくと面白いなって思いますね。

ーこれからやってみたい事とか目標などありますか。

チャレンジしたいことは色々あるって感じですかね。 
でも1つ夢なのはアートを楽しむ制作場所を作れたらいいなと思っていますね。 
なんかもっと手軽にというか、作品制作が特別なアーティストだけがやるっていう風な感じじゃなくて、置くだけで作品になるからもっとこう…「俺はアーティストだ」って言わなくても皆がそれぞれ大小違えどアーティストになれる様な空間を作れたらいいなと思っています。

ーアートとの触れ合いはここ数年だいぶ増えてきましたけど、 
まだちょっと敷居が高いと感じる人もいるみたいですね。

そうですね。ワークショップもちょっと違くて、画塾っていうのも違う。で、この前友達とアートジムを開こうって話をしていました。
塾とかだと月会費があるじゃないですか。 月謝があってクラスが分かれているんですけど、俺とその友達がやりたいねって言っているのは、月会費制ももちろんあるんですけど、ジムみたいに1日だけ入るっていうのも出来て、そこで何をやってもいいみたいな…棚作ろうが作品作ろうがちょっと箸みたいなの作ろうがなんでも良くて、ただ木材とかがあって、場所があるっていう…なんか大学の空間とも近いんですけど… 
ジムってそうじゃないですか。クラスもある所もあるけど、自分で好きな時に行ってやるっていう人もいてむしろそれが手軽でいい、そのジム形式の美術教室みたいなものがあったらもっと良いんじゃないっていう、もっと楽しめる人もいるだろうねって感じで話していて…アートジムを開くのが夢ですね。
トレーナーは作家がいて、困ったらこの人達に聞いてくださいみたいな感じでそういうのがやれたらいいなーっていうのはあるんですけど、いつになる事やらみたいな(笑)。 
実現させたいですよね。

ー最後に西村さんにとって『アート』とは何ですか。

作っている方からすると、まぁなくてもやっていけるけど、あった方がなんか生きやすいというか。
別に作らなくても別に普通に働けばお金も貰えるし、むしろ作らない方が生活が楽になると思うんです。お金ももちろんかかるし、保管場所とかもいるし…だけど作っている方がなんか生きるのが楽っていうかそういうものですね。生活しやすいじゃないけど、なんかそういうものかなと思いますね。 
観てる方からすると、何でもアートだなぁと思うのと、結構楽しいなぁと思いますね。 
人が適当に積み重ねたものとかでもある種その人の感性が入っているわけで、それをその人が構成しただけで作品になるなら、その人の作品はすでに出来ていて…それをこう置くんだなこの人はと思っていると結構楽しいなって思って。 
それを発表するのが美術家だったり、展示場所だったりするけど、何ていうのかな…コップの重ね順とかだけでもアートの感じ、その人の感性みたいなものが多少なりとも出ていて、そういう所でみていくと面白いなって思いますね。服の選び方とかもその人の感覚も入っているし、何かそうですね…身近なもの。 
『アート』はなくてもまぁ生きてはいけるけど、あった方が楽しく生きていけるものですかね。

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【Profile】
西村卓(にしむら たく)
木彫作家。29歳、岐阜県出身。
<好きなもの>
ハンバーグ
<嫌いなもの>
ホルモン

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