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カロク採訪記

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東京の災禍の歴史をたどり、それに向き合う人びとと出会い、記憶の地層を掘り起こす。2022年からはじまった事業「カロクリサイクル」に関わるレポートです。 https://www.…
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語る人、残す人、伝える人、受けとめる人[明治大学平和教育登戸研究所資料館]

2023年6月3日 カロク採訪記 小田嶋景子 明治大学平和教育登戸研究所資料館 6月最初の土曜日、私たちは明治大学生田キャンパスにある明治大学平和教育登戸研究所資料館を訪れた。 館名に入っている登戸研究所は戦前に旧日本軍によって開設された研究所で、「秘密戦」を担っていた。「秘密戦」とは防諜(スパイ活動防止)・諜報(スパイ活動)・謀略(破壊・攪乱活動・暗殺)・宣伝(人心の誘導)のような戦争の裏の面であり、ここでの研究内容は人道上、国際法規上問題を有するものも多い。そのため

戦没学徒の声を聞きに [わだつみのこえ記念館]

2023年5月26日 カロク採訪記 舟之川聖子 5月初旬のある日、これまでにカロクリサイクルの活動に参加した人たちに宛てて、NOOKの中村さんから、「フィールドワークをするのでぜひご参加ください」というご案内が送られてきました。 わたしは2023年2月の展覧会「カロクリサイクル 語らいの記録2011ー2022」での「10年目の手記を読む」というワークショップに参加し、その後、お声がけいただいて、3月の展覧会「カロクリサイクル 記憶から表現をつくる」に出展した関係で、このメー

東京大空襲・戦災資料センターを訪ねて

2023年5月26日 カロク採訪記  櫻井絵里 居心地のいい場所へ 住吉駅の長い階段を上りきると、薄く雲がかかった空が見えた。寒暖の差が激しい日が続いていたが、この日は気温もちょうどよく、フィールドワークにぴったりの日だと思った。今日はNOOKの瀬尾さん、中村さんと、過去にNOOKのワークショップに参加したメンバーで「東京大空襲・戦災資料センター」と「わだつみのこえ記念館」に行くことになっている。私は過去に「記録から表現をつくる」と「カロク・リーディング・クラブ」というワ

都市の暮らしを守る(さて、どうやって?)

2022年7月24日 カロク採訪記 瀬尾夏美 頼りない堤防 中学生の頃から南北線ユーザーだけど志茂駅で降りるのは初めて。 地上に出た瞬間、日差しが刺さるように痛いし、延々とまっすぐな北本通りも不愛想な印象でついよろける。 とはいえ、実家にいた頃に使っていた隣の王子神谷駅も北本通り沿いで、印象が似ているので親近感はある。 どちらの駅も近くにはコンビニと数件の飲食店が見えるのみで、駅前という空間がない。 日々、自宅から都心へと直通でもくもくと行き来し、たんたんと働いて帰宅する

力を持たない人びとの戦争と災禍

カロク採訪記 2022年7月23日 磯崎未菜 ”Obviously all the refugees are women and children."2022年1月24日に、「ウクライナ情勢が緊迫するなか、米国防総省が、戦闘準備が完了している8500人規模の米軍部隊をいつでも派遣できる態勢を整えていると明らかにした」というニュースをBBCで観た。その時はじめて、いよいよ本当に戦争がはじまってしまうような事態なのかと思い知って背筋が凍った。夜、友達と電話で話したのを覚えている

守られて見えなくなること、つながることで見えてくること

カロク採訪記 2022年7月22日 中村大地 プラス・アーツ東京事務所へこの日は、アーツカウンシル東京の大内さん、李青さん、ニキアンさんと、NOOKは瀬尾さん、磯崎さんと、そこそこの大所帯で、NPO法人プラス・アーツの東京事務所を訪ねた。 NPO法人プラス・アーツ(以下、プラス・アーツと表記する)は、阪神淡路大震災から10年が経つタイミングをきっかけに神戸で生まれたNPO団体で、現在は“防災の楽しさを、世界中のみんなに”を掲げ、「イザ!カエルキャラバン」や、「地震ITSU

マーシャル諸島と東北②

*①はこちらなのでぜひ呼んでね 2022年7月20日 カロク採訪記 瀬尾夏美 複雑なものを複雑なまま捉える インタビュー映像を見ていたらまたどこかの小学生軍団が入ってきた。 ボランティアガイドが事故の概要と展示について説明しているのを、彼らは体育座りでうんうんと頷いて聞いていた。 話が終わると小さなグループになってあちこちに散り、怖いねえとかすごいねえとか言いながら展示室を動き回る。 たとえすべての文脈がわからなかったとしても、この場所を訪れたからこそ受け取れるものが確

マーシャル諸島と東北①

2022年7月20日 カロク採訪記 瀬尾夏美 夢の島公園という場所 新木場駅で礒崎さんと合流して、じりじりと暑い平らな地面を歩く。 味気のない明治通り沿いをひたすら進んでいると全身から汗が吹き出てくる。 こんなに暑くて大丈夫なの? ヨーロッパでは気温が40度を越え、あちこちで森林火災が起きている一方で、SNSには、洪水によってまちが壊れていく映像が各国から投稿されている。 暑すぎて何にも考えらんないよねえという会話にならないやりとり。 暑い日には暑いという言葉しか出てこな

東京を歩き始める

2022年5月9日  カロク採訪記 瀬尾夏美 東北からふるさとに戻る ついに東京を歩き始める。ついに、とあえて言う。 22歳からの11年間は東北にいて、この春、ふるさとである東京に戻ってきた。東北では、津波の後の沿岸部や台風被害に遭ったまちに通い、土地に根付いて生きる人びとの話を聞き、記録してきた。 もちろん、災禍の記憶だけではない。日々の暮らしについて、生業(田畑や山仕事の話などが印象深い)について、風景について、土着的な信仰や民話について、受け継がれてきた郷土の資料に