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【感想】映画『WAVES ウェイブス』苦しく、悲しく、切なく、そして美しかった。

映画『WAVES ウェイブス』をみた。

宣伝では、若者の再生の物語と謳われていたが、むしろ家族の呪縛と再生の物語だった。(ヘレディタリーを描いたA24ならではといったっ感じ)

フロリダで暮らす裕福な黒人一家。前半は長男のタイラーの目線から順風満帆な日常が描かれる。強権的な父の影響もあって始めた部活動のレスリングから、彼女や家族との気兼ねない幸福な日々。しかし、ある出来事をきっかけにタイラーと家族の関係は大きく揺らいでいく…。

かなり観ていて苦しくなる映画だったのは間違いない。

家族に訪れる後半の試練は、前半から醸し出される絶妙な緊張関係から、どことなく予想はできたが、起こる出来事はあまりにも衝撃的で悲惨で悲しく、やりきれないものであった。

タイトルの波のように、人生とは平凡ではなく大きな浮き沈みを見せるものだ。生きていれば、目を覆いたくなるような出来事や、向き合いたくない出来事、なかったことにしたかった過去を抱えることとなる。そこには誰かを恨み、誰かに恨まれ生きていくことも含まれるのかも知れない。

波が立たない平穏な、綺麗に整った一点の曇りもない人生を歩むことなどできるのだろうか?26年生きてこの映画を見た時に「誰しもが過去の後悔を“人生の染み“のように裏地に纏って、背負い込み生きているのではないだろうか?」と強く感じた。

しかしそんな“人生の染み”に向き合う行為は、まるで傷口に消毒液を流し込むような痛々しさに溢れている。しかし劇中で、そうしなければ前に進むことのできなかった家族たちの姿に思わず胸が詰まった。

自分と向き合い、家族と向き合い、愛すべき人と向き合い、全てをさらけ出し、抱きしめ合い、認め合う。そうすることで初めて、苦しくて、悲しくて、切なくて、やりきれない人生をまた一歩踏み出すことができるのだ。

美しい音楽と光の波に包まれたその苦しさは美しくもあり、家族や友人に今一度会って抱きしめたくなる、そんな映画だった。


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