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誰も寝てない二段ベッド

火曜・夜

子供達と寝る前に「お魚ごっこ」をした。

息子(3歳)・・サメ、娘(8歳)・・イルカ、私(37歳)・・亀

厳密に言うと魚類は1種類だがお魚ごっこだ。

サメ(息子)が暴れるのを、イルカ(娘)がなだめる。そこに亀(私)が襲い掛かるというのを約8ターンくらいやったところで、イルカ(娘)の膝がサメ(息子)の鼻にあたり、サメ鼻血。

そして、無傷のイルカ(娘)が泣く。逆に、出血サメ(息子)は冷静に鼻をつまんでいた。

夜はしゃいだ後、場が冷え切るというのはよくあることだ。その後、静かにそれぞれの寝る位置へ移動していった。

我が家の配置は、2段ベッドの上が、娘。下が息子。その横に私が布団を敷いて寝ている。

息子が「ママぁ、鼻血がでちゃったからママの横で寝る」と私の布団の中に入ってきた。

鼻にティッシュを詰めてピタッとくっついてくる息子。可愛い。

すると、上の方からキツイ視線を感じた。

娘だ。

しばらくするとヒックヒックと声が聞こえてきた。

泣いている。

息子は寝た。

(さて、もう一人寝かせるか、、、)立ち上がり娘を覗いた。

娘が吠えた。

「弟だけずるい!!2段ベッドの意味がないじゃない」

おっしゃる通りだ。

「ずるいよね。。。どうする?」

「どうもしない」布団をかぶり横を向く娘。

私は、その背中をなでた。

「・・・・私もママの横で寝る」

やはりそうなるか。。

娘は私の隣に布団を敷いて寝た。

私は心の中で先ほどの娘と同じ言葉を呟いた

「2段ベッドの意味がないじゃないか」

我が家は転勤族だ。数年に一度引っ越しがあるので、身軽であることが大切だ。

それなのに、2段ベッドという、大型家具を購入したのは、狭い寝室で布団を敷き詰めて寝るのは、アレルギー持ちの娘にとって良くないと思ったから。でも、娘だけベッド購入は揉める一因でしかないので、仕方なく2段にした。

加えて、私の数年ぶりの快適な睡眠のためというのもある。

ところがだ。

この日、狭い寝室には、空の2段ベッド、その横に2つ布団を敷いて3人で寝るという状態。

環境改善の二段ベッドのはずが、改悪だ。

狭い。

子供達の寝相は凄まじい。寝ている私の顔に、お腹に、胸に、、子供達の裏拳がヒットしたことが何回もある。

痛い。あれはダメージが大きすぎる。これについては、「子供のやることだから可愛い」と私は1mmも思えない。

あれは避けたい。

私は深い眠りの中にいる子供達を移動させることにした。

先ず、私の布団で眠る息子をそっと2段ベッドの下段に戻した。そして、娘の布団と私の布団を、狭いながらも離せるだけ離した。

(これで安眠だ。)

一人で布団に潜った。

そこには、先程までいた息子の匂いと温もりがあった。

可愛くて暖かくて、恋しくなる。

・・・・・

「今が1番可愛い時だから。」

育児中にかけられる言葉ランキングの上位に入る、この言葉。子供達0歳の細切れ睡眠時にはなんの慰めにもならなかったこの言葉をふと思い出した。

先程ベッドに戻した息子の顔を見つめた。目・鼻、口・頰、全てを指で撫で、自分の顔をくっつけた。布団の中と同じ匂いと温もりだ。

先程離した娘の布団も再び近づけ、同じように顔をくっつける。大きくなったけど、スベスベなほっぺはずっと変わらない。

すっかり淋しくなってしまった私は布団に戻り、ベッドの下段の息子と、隣の布団と手を繋いだ。

裏拳が痛いわけだ。

息子とはしっかり5本の指で手が繋げるし、娘の手は私と変わらないくらいの大きさだ。

紅葉のような小さな手に、自分の指を一本挟んだあの日は、もう遠い遠い昔のことのようだ。


朝。

案の定子供からの攻撃はノンレム睡眠、レム睡眠を問わずやってきた。攻撃から身を守っていたのだろう。私は布団の隅で、胎児のように小さく丸くなって目を覚ました。

寝不足とまではいかないが、よく眠れたわけでもない。

35歳を過ぎたあたりから、睡眠というのは翌日のクオリティーを大きく左右するということを知った。

(2段ベッドで寝かそう。)

私はそう決めた。

「今が1番可愛い時だから?」

大丈夫だ。子供達は今日も可愛いし、明日も可愛い。寄り添って寝なくても大丈夫だ。

私は安眠を死守する。そう固く決意した。

すると、目覚めた息子が驚いたように言った。

「ママぁ、僕ママのお布団で寝てないよ・・なんかへんなんだよな・・・だから今日も僕ママのお布団で寝るよ!!」

「だから」の意味がわからない。しかし、こちらも固く決意しているようだ。

あぁ、私が安眠できる日は一体いつ来るのだろうか。




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