見出し画像

【課外活動から考える公務員のパラレルキャリア】サークル「hirametro(ヒラメ・トロ)」和内 太郎(わない たろう)さんインタビュー

政府が働き方改革を進める中で、パラレルキャリア、兼業、副業の普及・啓発を図ってますが、「公務員のパラレルキャリア」については、国家公務員については内閣官房人事局が兼業の基準を公表したり、地方公務員についても兵庫県神戸市や奈良県生駒市といった地方自治体が副業の基準を明確化するなどの動きがあります

ただ、一方で、「そもそもパラレルキャリアって一体何をすればいいのか?」と漠然と考えている公務員や企業に勤めている人も多いのではないかと思われます。

筆者は、「パラレルキャリア」をもっと身近に捉えるためには、まずは「業務外でも仕事の知識や経験を使って面白いことができる」=「課外活動」の事例を積み重ねて発信していくことが必要だと考えます。

そこで、今回は、都内官公庁職員でサークル「hirametro(ヒラメ・トロ)」の和内太郎(わない たろう)(ペンネーム)さんにインタビューします。

「hirametro」は、マイナンバーをテーマにした評論、小説などの同人誌を発行し、定期的にコミケ(コミックマーケット)や文学フリマ等に出展するなどユニークな活動を行なっている同人誌サークルです。

今回は、和内太郎さんのサークル「hirametro」の活動を通して、「仕事の知識や経験を活かした課外活動」について考えていきたいと思います。

それでは、インタビュー記事をご覧ください。

【サークル「hirametro」和内太郎さんインタビュー】

ー早速ですが、今までのお仕事の経歴と今ご自身が行っているマイナンバーをテーマにした同人誌サークル活動についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

(和内)初めまして。和内太郎と申します。仕事は、都内官公庁で働いており、役所に入ってからダイバーシティの普及啓発、役所内の業務改善、さらにはマイナンバー制度導入などの仕事に携わってきました。

そして、現在、仕事の傍らで、「hirametro」というマイナンバーをテーマにした評論、小説などの同人誌を作るサークルで仲間と一緒に創作活動をしています。

そもそも「hirametro」で活動を行うことになったのは、2012年頃に仕事で関わることになったマイナンバーについて、専門外の人に制度をいかに知ってもらうかについて課題に感じていたためです。

仕事の傍ら、マイナンバーに関する論文を学術誌に発表する機会はあったのですが、当時マイナンバーについては、「専門家と呼ばれる人たちの中でも知った気になっている人」が多いと思っていました。

例えば、「マイナンバーを持てば超便利になる!」といった薔薇色の未来を描く人もいれば、「このような制度は危ない!」と過度に危惧する人もいて、あまり制度そのものがニュートラルに伝わっていない状況でした。

そのような時に、コミケに通っている大学の後輩達から「同人誌なら好きなことについて書けるので、マイナンバーに関する同人誌を創作してコミケに参加してみないか」と誘ってもらいました。あまり同人誌の世界には詳しくなかったのですが、「好きなことについて書ける」というキーワードが琴線に触れマイナンバーに関わる同人誌を作ってみることにしました。

ちなみに、「和内太郎」という名前は、マイナンバー導入時の2012年に政権交代が起こり、制度そのものがどうなるか分からない中で、「マイナンバー間に合わないだろう=マイナンバーマニアわないたろう」という洒落からとってます(笑)。

-なるほど(笑)。公務員ながら大変ユニークな活動をされてますね。なお、「好きなことを書く」ということに惹かれたということですが、なぜそのワードに惹かれたのですか。

(和内)仕事にしても、学術論文にしても、お作法や立場に縛られてしまい、「好きなことを書く」という経験は滅多にできないと思います。

「自分が思った文脈でテキストを書く」ことで、「マイナンバーはちゃんと説明すれば、素直に理解できる制度である」という課題に取り組めると思いました。

そのため「マイナンバーの制度に携わった人間が制度について率直に感じること」を「好きなことが書ける」同人誌という媒体で提示できればと思いました。

ー同人誌を作るに当たって気をつけたことは何ですか。

(和内)役所の暴露本にはしない、ということです。(色々な意見はありますが)個人的に暴露本がずるいと思うのは、読んでいる側にとって、それが正しいかどうかは分からないというものです。でも、それではフェアな議論って起こらないと考えていて、サークル「hirametro」の評論本では、資料は全て公表されている一次情報を使っています。そして「その資料をみてどう思い至れるか」というオリジナルの考え方を加える構成にしています

※ hirametro発行の同人誌

評論『まるわかりマイナンバー』シリーズ。公表資料に基づく解説と実務を担った職員ならではの視点でマイナンバー制度の評論を行っている。


ー直近の最新作はどのようなテーマを扱った作品になっていますか。

(和内)近年では「マイナンバーを皮切りに始まった日本のデジタル改革」という課題に問題認識が移っています。

そこで、直近の最新作は、「拠らば大樹の密かな百年」というタイトルで、「デジタル国家」をテーマに100年前に始まった旧逓信省時代からのシステムの変遷を追う役人ドラマ風の歴史小説を出しています。

そもそもの日本のデジタル改革はいつから始まったのかを調べていくと、100年前の逓信省で議論されていた、「機械に仕事を任せていかに人を削減するか」ということを示す「行政整理」という言葉に行き着くことがわかりました。

そして、近年のマイナンバー制度導入時と同様に、100年前の「行政整理」でも行政と政治とのせめぎ合いの中で複雑化していった歴史があり、その点を小説に書いています。

ーデジタル改革の歴史について調べていくうちに、行政と政治との関係性について、面白いと感じた点はありますか。

例えば、当時の政府は、100年前の逓信省やその前身組織の時代に、(今の感覚で言う)民間人だった前島密(まえじま ひそか)を要職に就けて行政整理を進めたのですが、政変が起きた時に、用済みになった前島密をすぐにクビにしてしまいます。

この「政府としては知見が不足している分野について民間人を登用して改革を進めていこうとするが、しばらく経つと時の政治の都合でおざなりにしてしまうおそれがある」という構造は、かつての郵政民営化のとき然り、今後デジタル庁を作りデジタル改革を進めようとする日本にも十分に起こり得ることです。

実は、日本は100年間改革をし続けているようで、本質的には100年前からずっと同じようなことを繰り返していて構造的には何も変わっていないのではないかと、これは批判的な意味ではなくて、それが単純に興味深く感じました。

ー新作を出してはいますが、最近の普及活動はどのようにされていますか。

最近では、コロナ禍の中なので、万全な感染症対策が敷かれている展示会に、緊急事態宣言外の期間に参加するようにしています。

ペーパーレスが叫ばれる昨今ですが、我々は紙の良さは絶対あると考えています。展示会では、役所の中にいてはお話しできないような色々な人とリアルな会場で意見交換できるので、しばらくリアルに拘って参加していきたいと思っています。

ー和内さんは、公務員として役所で働いていながらも、小説を書くというスキルはどのように身につけたのですか。

(和内)私たちのサークルの場合は、一人で書いているというよりは、コンセプトを考える、表紙を決める、テキストを書く、テキストを元に話の方向性を議論しまとめる、という形で役割分担を決めていて、私自身はそのうちの「テキストを書く」という役割を担当しています。

これは編集社がついていれば、テキストを書く以外の役割を担うのかもしれませんが、小説を書くに当たり、自分に足りないスキルをサークルメンバーで持ち寄って仕上げていく感じです。それを繰り返していくうちに、小説を書くスキルが身に付いてきたと思っています。

ーでは、逆に公務員で働いていたスキルが今のサークル活動に役に立ったという経験はありますか。

(和内)公務員は、他の業界と比べて、文字や文章を多く扱う仕事であると感じています。一緒にサークルをしている金融業界の友人に話を聞いても、公務員ほどパソコンのWord ソフトを扱って文書(テキスト)を書いておらず、他に多く扱う業界としては、文系の学者や出版業界くらいではないかと、私が聞いている範囲では思います。となると、公務員にとっては、文書を書くということが意外と業務外の活動でも通用するスキルになってくるのではないかと思いますね。

ー最後に、これから業務外の課外活動やパラレルキャリアについて興味を持っている方に向けて一言お願いします。

(和内)最近のマイナンバーの絡みで言うと、デジタル改革関連法案が5月に成立しました。その中ではマイナンバー法も改正がされていて、今までは働いている人が転職した場合、自分のマイナンバーを自分で次の転職先に持っていく決まりだったのが、本人が同意すれば転職先と転職元との使用者間でマイナンバーを共有できる仕組みに変わりました。これは、人が一つのところに働き続けるのではなく、転職あるいは、複業をするという前提で制度設計が変わった例でもあるので、世間ではパラレルキャリアを後押しする仕組みができつつあるといえます。

また、自分自身、現在のサークル活動については、複業とか、パラレルキャリアとかは、あまり意識していなくて、あくまでいろいろな人と自分の問題意識を共有して議論し合う場を持っている、という感覚です。

その中で、自分たちが産みの苦しみや〆切の苦しみを乗り越えて作った同人誌(作品)に対して、読者からポジティブな感想をいただけた時の喜びは何事にも替え難いものです。

そのような充実感は、普段の役所の仕事では得られないものなので、業務外の課外活動やパラレルキャリアについて関心がある方はぜひ一歩踏み出していただけたらと思います。

ー本日は、お忙しいところ、ありがとうございました!!

【インタビューのまとめ】  
・公務員の課外活動として、同人誌活動は、役所の立場に縛られずに好きなことを書ける発信の場

・役所の一次情報を分かりやすく整理して自分なりの見解を付加すればオリジナリティある発信となる

・公務員は、他の業界と比べて文字や文章を扱うことも多いため、文書を書くということが意外と業務外の活動でも通用するスキルとなり得る

・仕事などで感じた問題意識を役所の外でリアルに共有できる場として課外活動は有意義なもの

・課外活動を行うに当たり、足りないスキルは仲間と持ち寄り、テキストを書くなど自分が得意だと思うことを活用してやってみる

以上

#PLANESSCHOOL   #ps2021 

https://community.camp-fire.jp/projects/view/65828?fbclid=IwAR3XlSsyBocI__DHjcwYHDXacyk8cNmNJuM5fL3LYjUTeCxX4gO0tFu2hbY












この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?