シャイニングというDV映画

昨日の深夜に、映画「シャイニング」が放送されたらしい。

「シャイニング」の原作者スティーブン・キングは、東野圭吾と同じくらい、映像化とセットで有名な作家なんだと思う。

でも、小説を読む度に、途中のご都合主義的な話の展開に、肌が合わなくて、読み終わってから人に勧めようとは思えなかった。

何の因果か、ラストを改変されて映像化された作品である「シャイニング」「ミスト」「IT」は映画がとても売れた。どれも、そういうご都合主義的な要素を無くしたラストだったと思う。

「シャイニング」は、「本当に怖いのはいちばん身近な人間」ともいいたげな、救いようのない現実を突きつけてくる。

それは、どこにでもあるような仕事のプレッシャーや孤独が人を狂わせ、最も身近で、そして手を出しやすい家族にその狂気が向かう、ということだ。
そこに、超自然的なものはないし、助けてくれるヒーローも登場しない。逃げ惑うのは、腕力のない女子供であって、そこに救いはない。

だから、この映画は「怖いホラー映画」ではなくて「すごく共感できる映画」だった。

状況によっては自分が加害者にも被害者にもなりえた。

ありがたいことに、主人公の妻と子供は生き残って悪夢のホテルを逃げ出してくれる。

それはちょっとした希望で、徹底的に救いのないキューブリック作品の中ではマイルドな方の映画な気がする。


ところで、この作品は逸話が多い。
たとえば、

・アル中だったスティーブン・キングが、家族に許される話を書きたくて書いた話が「シャイニング」だったのに、キューブリックに、主人公を悪霊に囚われたまま死ぬラストに改変されて、めちゃくちゃ怒った。怒りすぎて、自分で再度映像化しなおした。

・主人公が主人公の妻を斧で襲うシーンを撮るために、127回テイクを繰り返した。

・恐怖におびえる主人公の妻を撮るために、キューブリックが主人公の妻役の女優に意図的に辛く当たりまくった。

・黒人コック役の老俳優に至っては、主人公に斧で切りつけられるシーンを148回取り直させられ、他の俳優に「もうやめよう」と心配された。老俳優は、撮影後にリハビリに通うことになった。

といったところ。

原作と異なり、悪霊が、というより、閉塞した空間で孤独とプレッシャーに壊れた人間が他人を殺しまくる「人間がいちばん怖いんだよ〜」的な作品だけに、映画だけでなく、映画の裏側もバイオレンスすぎる。

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