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「やくしまるえつこはもともと相対性理論というバンドで歌っていたんだよ」

ということを伝えると「えっ、そうなんですか! 知らなかった~」ひと回り年下の青年が無邪気に笑う。僕は衝撃と愛想笑いがないまぜになって、微妙な表情で笑う。

 やくしまるえつこ氏率いるバンド『相対性理論』を知ったのは高校生の頃、確か2年生ぐらいだった気がする。あんまり覚えてない。ファーストコンタクトはサムネで使われている『シフォン主義』ではなくて『ハイファイ新書』だった。

 当時の僕は厨二病・オタク・ニコ厨・ナード・ハグレモノ・アウトロー・屑・ダメンズ街道を全速力で突っ走っていて、ジャニーズとかAKBとかKPOPとかキラキラふわふわしたものとは縁もゆかりもない世界に生きていた。あれ、いまもあんまり変わらない……。
 そういう人間だったので、レンタルビデオ店で超弩マイナーな映画を大真面目に考察して、筋肉少女帯やクラフトワーク、ボカロカバーの歌ってみたで「本当の音楽ってこういうもんだよな」と悦に浸っていた。

 地元のCDショップは邦楽よりも洋楽に力を入れていて、マルーンファイブの棚ばっかり作ってた。『相対性理論』は邦楽エリアのおすすめ!コーナーにありました。エリアは全体的に放牧されている印象がありました。
「人と同じことは嫌う癖にミーハー気質」という矛盾を抱いているため『相対性理論』という名前にビビッときて「ハイファイ新書」に手を出しました。なんてちょろインだろう。
 CDの裏面には「テレ東」「地獄先生」「ルネサンス」「学級崩壊」等、その手に人間にとっては垂涎ものの言葉が並んでいます。素敵だ。
 表ジャケットのなんか手に取りづらい雰囲気もかなり気に入りました。これは選別が既に始まっている、と勝手に思い込みます。

無題

「曲名とは裏腹に」そういう謳い文句がもっとも似合うバンドが『相対性理論』だと当時の僕は本気で思っていました。
 それぐらい やくしまるえつこ氏とその仲間たちの音楽は衝撃がありました。胸踊らせ再生したトラックは静かで柔らかいくせに鋭利だ。寂りょう感を忍ばせながら、口をついて出る言葉は愉快で、聴いていて楽しい。「セーラー服は戦闘服、クラス対抗のデスマッチ」なんて歌詞。

 その後、やくしまるえつこ氏は『荒川アンダーザブリッジ』や『輪るピングドラム』アニメタイアップに限らず活躍しまくるのだけど『やくしまるえつこ』だけが独り歩きして『相対性理論』というバンドはやや埃を被ったオーパーツのようになってしまった。のかなぁと若者との会話で思いました。

「やくしまるえつこはもともと相対性理論というバンドで歌っていたんだよ!!それはそれとして、やくしまるえつこは最高だよな!!」
 忘れずにやっていきましょう。

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