Vol.4 カモメ
「次は夏向きのテキスタイルプリントを作りましょうね」
メドウフラワーズの展示を終え、そう綾さんと決めた。すぐに思い浮かべたのは水や海、ブルーのグラデーション。迷うことはなかった。
日々の仕事に追われ、具体的な絵が出来上がらないままに時間だけが経っていく。気持ちが焦るばかりで、私は納得できるものがなかなか描けずにいた。
夏休み、綾さんはイタリア旅行に出かけた。送られて来たスナップの中の一枚に、カモメが飛んでいる写真があった。カモメの曲線と窓枠の直線の組み合わせが新鮮で、それがイメージソースの一枚となり、気持ちが動き始めた。そして忘れることのできないもうひとつの景色。
震災の4年後、私は女川から金華山へ行く船に乗っていた。ボランティア活動をする友人に誘われ、とにかく現地へ行ってみようと。
被災地に観光なんて、とんでもないことだと思っていた。けれど地元の人たちは違う想いだった。
「私たちを、この場所を忘れないで」
「会いに来て」
「これからは前を向くのです」
そう言って受け入れてくれた。
船の周りをカモメが飛び回る。
手が届きそうなほど近づいてくる。
変わることなく悠然と空を飛んでいる。
どんな波の上でも飛んでいけるのだ。
薄く溶いた透明水彩をたっぷり含ませた筆で海を描く。カモメの視線の先を、海を見下ろした鳥瞰の視点を無意識のうちに描いている。私も群れの中の一羽になる。
もう一枚、ウォーターブルーに塗りつぶしたの紙の上に、白いガッシュでカモメのシルエットを描く。イタリアと女川のカモメの姿が蘇る。そして胸の中に響いている言葉は「希望」だった。
nonohananote
テキスタイルプリント「ウミトカモメ」のためのドローイング
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