過去の私を抱いて眠る
幼い頃、真夜中にたびたび両親が喧嘩する声で起こされた。
私は起きちゃいけないような気がしてドキドキして、布団の中で緊張して固まっていた。冷たい汗が出る。
布団のなかで息苦しくなった私が咳をすると、父親は決まって私が咳をすることを母親に向かって責めた。
私は咳をしてしまったことを反省し、もう二度と咳が出ないように息を止める。
苦しくて涙が出て、キーンと耳鳴りがする。
狭いアパートの部屋中に、父親の怒鳴り声やガラスの割れる音や、母親の泣き声や、何度もインターフォンが鳴る音や、近所の苦情の声が響いている。
私は心から死んでしまいたいと思いながら、永遠に続く夜を何度も繰り返し過ごした。
今、私は夫とお茶やお酒を飲みながら、リラックスして毎晩過ごしている。
寝室では息子がすやすや眠っている。
同業の夫とは仕事の話も弾むけど、息子が生まれてからは息子の話ばかりしている気がする。
ふたりで夜な夜な息子の動画を見て大笑いしたり、なんて可愛いんだろうと親バカ発言しあったり。
ようやく卒乳してお酒を飲めるようになり、久々に少し酔った私は、夫に息子をどれだけ愛してるか力説し始めたりする。
たまに、息子が怖い夢を見たのか夜泣きし始める。
側に行ってとんとんしても泣き止まずに目が冴えてしまったときは、リビングに連れてきて夫と代わり番こで抱っこしたり遊んだりする。
私たちは少し酔っていて機嫌が良く、ちょうど息子の話をしていたところで本人と遊べるのがちょっと嬉しかったりする。
そして3人でベッドに入り、みんなでくっついて眠る。
幼い頃、死にたくなるような夜が永遠に続くと思っていた。
あのとき死ななくてよかった。
こんな幸せな未来が待っていることを、あのときのひとりぼっちで固まっている自分に伝えに行きたい。
あのときの自分を両親から引き離してここに連れてきて、夫と息子とみんなで同じベッドで眠れたらいいのに。
朝までずっと、抱きしめていてあげるのに。
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