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オンナの哲学 -哲学するヒント・星の王子さま(2)わかってほしい女、解決したい男

現代の寓話とも哲学書とも評される「星の王子さま」には、あらゆる要素のエピソードが詰まっている。その中でもストーリーの中心となっている、王子さまとバラに起きた出来事について、私なりに考えてみた。

この2人については、作者のアントワーヌと妻のコンスエロの暗喩と言われているが、私には“世の男と女”というもっと広いテーマとしても読み解けるように思える。

バラは、自分の美しさを誇りワガママを言っては王子さまを振り回す。王子さまは、とまどいながらもバラの要求に生真面目に応える。素直になれないバラは、真意をわかってくれない王子さまに苛立ち、愛情を試すかのように要求をエスカレートさせる。鈍感な王子さまは、身勝手なバラに尽くす情けない自分に疲れ、彼女に不信感を募らせる・・。

なんともよく聞く話。“男と女あるある”ではないだろうか。

女のリクエストの陰には「ただ話を聞いてほしい、自分の気持ちをわかってほしい」という真の欲求が隠れている。ストレートにそれを表現できればいいのだが、私も含めバラのように素直になれない女性は多いだろう。そんな風に甘えるのは得意でないし、何より幼稚にも思える願いを受け入れられなったら、と思うと怖いのだ。そう、自信がないのだ。

バラのことで言えば、彼女は「美しい」という以外にこれといったアイデンティティを持っていない。種の状態で王子さまの星にやってきたので、人生の土台となるような経験や知識は全くない。言うなれば、自己肯定感を育てられないまま大人になったのに、急に開花した美貌だけが注目されてしまったようなものだ。初めのうちは自分にこんなにも人からもてはやされる個性があったのか、と心が躍っただろうが、いつまでもそれだけでは不安にもなる。人は自分の外見にしか興味がないのだろうか、と。

王子さまは王子さまで幼くて、バラの内面にまで目を向けるということができなかったのだろう。彼は、バラの美しさに驚嘆しすっかり惚れ込んでしまっていたが、言われるがままにあれこれ世話を焼きながらも、バラの見栄っ張りな言動にはうんざりしていた。言うとおりにしているのになぜ彼女は満足しないのだろう、と彼女の話を聞くのがだんだん苦痛になっていった。黙ってただ美しく咲いていてくれたらいいのに、と思ったかもしれない。そしてままならない関係に耐えられず、彼女のもとを去った。

ほんとうに、なんてよくある話なんだろう。

女は、ただ聞いてほしくて話す。ただ自分の気持ちを分かってほしいから。でも男は、何かしら答えを出そうとする。何とか解決して、彼女を助けてあげたいから。そしてお互いに「自分の気持ちをわかってくれない」「自分の努力を受け取ってくれない」と裏切られた気持ちになる。もう何十年も何百年も前から、男と女はこの悲しいすれ違いを繰り返している・・。

それでも王子さまとバラには、ハッピーエンドが待っていたのではないかと私は思う。王子さまの「ぼくはあの花に責任があるんだ!」という言葉がとても印象深い。“愛しているから”ではなく“責任を取らなくては”という思考がちっともロマンチックではなくて、男ってまったく言葉の使い方をわかってないな、と思うけれども。

星に帰った王子さまを待っていたのは、すっかり枯れて色褪せてしまったバラだろう。もしかしたら花が落ちてただの草になってしまっていたかもしれない。それでも王子さまは、今度こそ彼女をちゃんと愛せるだろうと思う。地球への旅とそこでの様々な出会いを通して、誰かを愛することはどういうことかを学んだから。そしてバラも、今度こそ王子さまに対して素直になれるだろう。唯一の売りであった美しさが損なわれた彼女のために、命がけで戻ってきてくれたのだから。

もちろん私の妄想に過ぎないのだが、こう締めくくることで「星の王子さま」は私にとって“誤解を乗り越えて寄り添い合えた男女”の、感動的な愛の物語になるのだ。

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