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「ボランティアは金にならないから嫌だ」けど「確実に対価が得られるクライアントワークは好き」な学生さんのお話。

 大学でまちづくりとか、ボランティアについて教えているんですけど、学生さんにまちづくりとかボランティアの話をすると、「ボランティアは金にならないから嫌だ」っていう話が返ってきがちなんですね。だから彼ら彼女らに、じゃあどうすれば地域活動に参加する?って聞くと、お金もらえるならやるよというわけです。

 裏返せば「確実に対価が得られるクライアントワークは好き」ってことで。すると人は起業家になるよりサラリーマンを目指すわけです。クライアントワークとしてバイトすれば何千円かはもらえる時間を、無給のボランティアに使うのは、機会コストだって考えるわけです。ボランティアするくらいならバイトするよ、ってことですね。「得しないのは損だ」と。

 ボランティアって、一般に「自発的活動」と説明されますけど、実際は「非契約活動」と呼ぶべきものでね。だから、対価支払と納品を事前に契約するクライアントワークとは関係性の性質がそもそも違うんすね。

 例えば、散歩していて道に落ちているゴミを拾って、ゴミ箱まで持っていって捨てる、っていうのも、誰にも契約しない、結果として儲からない仕事っすね。つまりボランティアです。クライアントワークならやるけど、そうじゃないならやらない、やれば損だ、と考える。みんながそう考えると誰もゴミを拾わないので、街中にゴミが溢れる。すると、いわゆる職業公務員を雇ってゴミ拾いしましょうとなる。つまりクライアントワークになるわけですね。で、学生さんは「それでええやん」というわけです。

 もっとも、そこでゴミを拾う職業公務員の給与は、その学生さんにも課税されることで捻出されるわけで、その税金を安いと考えるか、高いと考えるかっていう話がまた別に出てきそうですけども。

 ところで、ゴミ拾いってのは、みんなのためになることなわけですから、「広い意味での公務」な訳です。そう考えると、いわゆる公務員というのは、「地方自治体の職員」に限らないんすね。その辺で道の掃除をするボランティアのおじさんも、広い意味での公務を担っているわけですから、実は公務員ということになるわけです。職業としてお金をもらうプロ野球選手と、職業としてお金をもらうわけではない草野球選手との違いはあるでしょうけど、どっちも野球やっていることに変わりはないと。

 例えば、いまコンビニとか、実は防犯や防災に関する仕事をたくさんしているし、住民票だって取れちゃう。これを公務と言わずしてなんといおうかと。PPPとか官民連携なんて言葉を使わずとも、我々は社会で生きている以上、なんらかのかたちで公務を担っているんすね。

 そういう公務を「クライアントワークでないならやらない」っていうのは、「クライアントワークだけで世界を回しうるだけの公務は実施可能である」と素朴に信じているっていうことで、それを僕はいわゆる「お花畑思考」ってやつだと思っています。例えば家事とか、明らかクライアントワークだけで完結してないじゃないですか。いわゆる名もなき家事ってやつですね。

 名もなき家事は、家の中だけにあるわけではなく、地域社会の中にもあるわけです。それをボランティアの地域活動に頼って解決している現状があるわけです。無論、「だから家事は大事です、家事をしましょう」といいたいわけではないですよ、念の為。世の中には、クライアントワークで解決すべきこともあります。その、クライアントワークで解決すべきことまで、ボランタリーな働きに任せきりにしてきた歴史は反省されて然るべきと思っています。家事は女性がするもの、みたいな押し付けをしてきたわけです。その歴史に対する反省はあるべきだろうと思います。

 ここで示したいのは、クライアントワークという「特殊な仕事」だけで必要な公務を充足できるほど世の中甘くねえよな、って僕は思っているんだと気づいた、って話なんすね。

 翻って、僕は現代の宗教として「クライアントワーク教」っていうもんがありそうだと思っていて、「公務はクライアントワークで回しうる」と信じる彼ら彼女らは、わりとそこを素朴に信じているんじゃないかと。

 世の中を甘く見るなら、クライアントワークじゃないんでやりませんよ、と言えると思うんすよ。しかし、冒頭に話が戻るんですが、それを誰もがすると何が起こるかっていうと、家の中やまちの中にゴミが溢れるわけで、そのツケを払うのは自分なわけです。実際そうなるかどうかはわかりませんけど、僕の生活感覚では、そう思うんすね。

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