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ゲリラ化した市民活動-アルベルト・メルッチ『現代に生きる遊牧民 新しい公共空間の創出に向けて』

 いまさらだけどアルベルト・メルッチ『現代に生きる遊牧民 新しい公共空間の創出に向けて』を読んだ。まちづくりを含む現代の、いわゆる「市民活動」というものの位置づけを確認するため。

 現代といっても、英語版が出たのが1989年とかで、しかもイタリアの市民運動のフィールドワークをもとにした記述ではあるものの、大きな流れがつかめる。

 ポイントは70年代以前の運動論となにがどうちがうか。

産業資本主義の時代における労働者階級の行為は、集合的現象の研究に当たってモデルとしての役割を果たしてきた。円筒的な生活様式の崩壊への抵抗、政治的権利や市民権拡張の要求、そして仕事場や市場の資本家支配への拒絶(略)このような歴史的コンテクストで生まれた運動観における社会運動とは、解放の宿命に向かって前進する歴史的動因、あるいは、少数の先導者に暗示をかけられ、コントロールされている群衆のイメージにほかならなかった。
 この産業的紛争の時代は終わった。市民権闘争が完結したからでも、民主主義が実現され、もはや克服すべき空間が存在しないからでもない。集合行為が様々な局面へと急速に分裂したからである(P6)
人間行為の認知理論や構成主義的理論といわれるもので、そこでは主体が意味を生産し、伝達し、交渉し、意思決定する過程として、集合的現象を考察することとなる。(P7)
社会学的分析は、伝統的な運動観が抱いていたところの、歴史的舞台で登場人物たちが役を演じるというイメージを放棄しなければならない。革新的社会思想においても、保守的社会思想においても、紛争は劇場イメージを通じて表象されてきた(P14)

 メルッチの提案し「新しい社会運動」と呼ばれるものの特徴は以下の通り(PPxxxiii-xxv)。

①物質的財や資源の生産・分配をめぐる闘争ではなく,複合システムの中で管理的な論理に挑戦するものである。

 例えば、工場に対して「排煙を出すな、補償金を払え」というものではなく、「男はこうすべき、女はこうすべき」といったような、管理的な論理に抵抗する。

②組織体は運動を政治的・社会的目標達成のための道具以上のもの、つまり運動自体が複合システムにおいてと考える。

 例えば「工場に排煙を止めさせ、保証金を払わせられれば成功。でもできなければ失敗」とかではない。性の多様性を認めましょうよと訴える運動に参加すること自体が社会へのメッセージとして機能する、あるいは性の多様性を認め合える人たちで集まって運動すると、その仲間たちの中で社会変化を実践してしまえる。つまりすでに目標の達成となる。その点において、ビジョンの実現は「方便」であり、そのビジョンが実現せねばならないわけではなく,その方便を軸にして運動すること自体が目標というわけだ。「方便」についてはこちらを参照。

③日常生活の中に隠蔽された小グループの「不可視」で「水面下」のネットワークから構成される見えざる実験場の中で日常生活の支配的なコードに挑戦する。

 例えば「公害に反対するまちづくりの会」みたいな、横断幕とユニフォームをそろえた「可視的で表面的」な特殊組織をこれ見よがしに結成しないか、して見えたとしても一時的なものになる。

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