ノンマリ連載短編小説 「龍のコインが来て、そして」 #5 筋斗雲を眺めて
5.
『筋斗雲を眺めて』
龍のコインが来てから、小さいけれど不思議なことが起こるのが当たり前になっている。
今日は、帰りの電車で網棚にいた猿がバックの紐に飛び移ってきて、部屋までそのままぶらさがってついてきた。
そしていま、目の前で小さな猿がしゃべっている。
「あんた、最近、雲、見てないよね」
それはそうかも。だって、そんな余裕ないよ。
「雲、は眺めるようにしたほうがいいな。雲を見るにはさ、上を見上げるだろう。視線を高くするっていうのは、いいことなんだぜ」
そうですか。なら、明日から見上げてみようかな。
「明日といわず、今、ベランダに出てみなよ。いい雲、出てるぜ」
夜の空に、ちゃんと雲がいた。昔、子どもの頃、シュークリームみたいだとか、雲を見て言い合ったっけ。
「うまくいけば、おいらみたいに、雲を呼んだり、雲に乗ったりできるようになる」
と猿は自慢気にいって、ぷい、とベランダの手すりを伝っていなくなってしまった。
—第6話につづく
龍のコインが来て、そして / 中臣モカマタリ
龍の模様が刻まれたコインを手に入れた「私」に起こる、ささいだけれど不思議なできごとをオムニバス形式でつづる連作。
「nonmari(ノンマリ)」
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