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ノンマリ連載短編小説 「龍のコインが来て、そして」 #6 バルセロスの雄鶏

6.
『バルセロスの雄鶏』


今日はちょっとだけ、すっきりする出来事があった。そもそもは、オフィスのカーペットに珈琲をこぼしたのが私だという冤罪から。

濡れ衣をかぶせて来た次長に、「違いますよ、私はちゃんと慎重に運びますから」といっても、珈琲を淹れるのはお前くらいだろう、の一点張り。抗議をしていると、後輩の桜子が、ポルトガルのお土産で誰かが買ってきた雄鶏の置物を持ってきて次長の机にドン、と置いた。「わたしが真犯人、捕まえてきますから」といって出ていき、営業の田中くんをしょっぴいてきた。次長は、申し訳なさそうにして、私にちゃんと謝罪してくれた。

桜子に聞いたら、「あれ、ちょっと、やってみたかったんです」と言う。もともとあの置物は、無実の旅人が捕まって絞首刑になる前日、旅人が料理に出された雄鶏が生き返って鳴くだろうと予言し、翌朝、その通りに雄鶏が鳴いて冤罪が晴れたという奇跡にまつわるお土産なのだそうだ。
ありがとね、桜子。
 

—第7話につづく

龍のコインが来て、そして / 中臣モカマタリ
龍の模様が刻まれたコインを手に入れた「私」に起こる、ささいだけれど不思議なできごとをオムニバス形式でつづる連作。


「nonmari(ノンマリ)」

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