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鬼グモ先輩と月を見る

台風が近づいている。ここ数日間の雨も今日はやっと陽が照らす。
久々の自転車のハンドルには、煌き揺れる「星屑の花」が咲いていた。
小さな蜘蛛。
風に揺られキラキラしながら巣の真ん中でじっとしている。
ここだと流石に邪魔だな。
そんな時、蜘蛛とポツンと目が合った。

私は今日は諦めた。

台風の翌日、巣は無くなっていた。
「どこかに避難していると良いな」
少し寂しい気持ちになった。

翌日、別の場所で再会した。巣も張り直されていた。
あの時と同じ蜘蛛。断言できる。
色も形も大きさも同じで可愛らしくて、ポツンと目が合う。
「無事でよかった」
どうやら種類は「鬼蜘蛛」と言うらしい。
巣は以前よりも大きくて丈夫で綺麗で、上々の出来栄えだった。
一晩での見違える仕事ぶり。鬼蜘蛛の生きる底力。感動を覚えた。

そんなわけで「鬼グモ先輩」と呼ばれることになる。
先輩は色々なことを教えてくれる。
「いいか?仕事は、手を抜いたらダメだ。最初は時間がかかってもいい。丁寧にやれ。でも、時間かかりすぎてもダメだ。頭を使って効率をよくする方法を考えろ。」と。
そして私が仕事で疲れて落ち込んで帰ってくると、「どうした?元気ないな?自分の機嫌は自分で取れ。今の気持ちを明日に引きずるんじゃねぇぞ!!」と声をかけてくれた。
先輩は、いつ来るか分からないチャンスを逃さぬよう一瞬たりとも気を抜かない。
少しでも手が空くとスマホをいじる私とは大違いだ。

私  「先輩、少し休んだらどうですか?」
先輩 「ばか言え。それより空を見てみろ。」
私  「あ、月が綺麗ですね。」
先輩 「月はな、直接見ると肌色だろ?しかしどうだ周りは青白く照らせれているだろう。これはレイリー散乱なんだ。」

しばらく、黙って先輩と月を眺めた。
月の周りはうっすらと幻想を放ち、流れる雲によりなお美しい。ロマンチックだ。

先輩 「じゃあもう寝ろ。イサドへ連れて行かないぞ」

そう言って、先輩は仕事に戻った。
先輩の背中は月の光に照らされて、曇り一つなかった。


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