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炎天下の中で1日中謎チャリの絵を書かされた時の思い出

もうすぐ9月だといっても暑いもので。
9月が暑いことなんて、そんな当たり前のことはとっくの昔から分かっている。残暑だ。でもそう言われてみれば、その残暑という言葉は一体いつ頃から認識し始めたのか?記憶と昔を辿たどって行くうちに、まだ蝉の鳴く、ちょうど今頃の”あの日”が頭をよぎった。

「さあ、みんなこれからお外でスケッチしますよー!帽子を被って、お道具を用意して下に集まってねー!」
みんなはキャッキャ、ワイワイしながらスモックに着替え、先生の言う通りに帽子を被り、鉛筆、消しゴム、画板を持って1階の廊下に集合した。

「じゃあ、今日はあの自転車をみんなで描くから周りを囲うように座って描きましょうねー!」
運動靴に履き替えて男の子たち、元気のいい子たちは勢いよく運動場の真ん中まで駆けて行く。一番いいところで描けると大はしゃぎ。

今日は1日をかけてこのスケッチを行う日程らしく、お昼のコロッケサンドとスイカを食べた後もスケッチ、そして帰れる。
隣に座る女の子は上手に描く。楕円に消えかかったタイヤと複雑に重なるフレームやペダルを熱心に書いていた。

時折、膝の砂を払っていると
「あら!全然描けていないねー?」
と先生の声がする。太陽が寝転がっている自転車のフレームに反射する光と、向かい側の男の子の安全ピンが2つで輝く。安全ピンの方は消えたかと思うとまたギラッと光る。

描きようのない画用紙は消しゴムの跡で真っ黒になる。白色を基調とした、その寝っ転がっている自転車は”闇夜の中”の物になっていた。依然、太陽の安全ピンが目をかすめる。

「わー!お昼のスイカが運ばれてるねー!」
見ると給食のおばちゃんと園長先生が運んでいるカートの上でラップのかかったコロッケサンドとスイカがギラン光っていた。
「まだお昼には早いね!スイカはお塩を振ると美味しくなるんだよー!」
と、そのように先生は言う。

その後のことはよく覚えていないけど、その絵は教室の後ろに貼られ、すぐ後の参観日にはお父さんお母さんも見ることができた。

思い思いの角度から描かれた絵は、各点の延長上で交差した点の如く、特に上手に描けている絵からそのような延長上を想像して初めて「倒れた自転車」であることが理解できた、と後に母親から聞き及んだ。


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