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(ほぼ)毎日更新ブックレビュー【ふくほん】野中幸宏選01

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講談社BOOK倶楽部のブックレビュー「ふくほん(福本)」に掲載された野中幸宏レビュー分をまとめています。
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2015年2月の記事一覧

物語に登場した英雄たちは誰もが最後は非命に斃れたのです──井波律子訳『三国志演義』

物語に登場した英雄たちは誰もが最後は非命に斃れたのです──井波律子訳『三国志演義』



吉川英治、柴田錬三郎、横山光輝、宮城谷昌光、北方謙三等々の作家に共通している作品が『三国志』です。ゲームを加えたらあるいは本場中国より日本の方が『三国志』という名を冠した作品・コンテンツは多いかもしれません。

羅漢中という人が原作者と言われていますが井波さんによると
「羅漢中(生没年不詳)の役割は、大量の先行する三国志物語を整理・編纂し、首尾一貫した長編小説に仕立て上げるところにあったといえ

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私たちは歴史化しえない(できない)無数の物語の中で生かされているのかもしれません。──小熊英二他『平成史』

私たちは歴史化しえない(できない)無数の物語の中で生かされているのかもしれません。──小熊英二他『平成史』



27年という四半世紀を超えた「平成時代」ですが、小熊さんと同様に平成がどんな時代かと問われると「変化があるにもかかわらず、なぜ「大きな変化はなにも起こっていない」ように感じられるのか」という感覚を持たれる方も多いのではないでしょうか。平成はのっぺらぼうではありません。社会事件としてはバブルの崩壊、阪神淡路大震災、オウム事件、東日本大震災、政権交代、また特異な宮崎勤事件をはじめとする事件・犯罪も

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ファンタジーのお手本のような宝物──ポール・ギャリコ『雪のひとひら』

ファンタジーのお手本のような宝物──ポール・ギャリコ『雪のひとひら』



読むたびに美しい姿を変えてくる万華鏡のようなファンタジーです。読んだ時の私たちの心の状態で感動する個所が違ってくる、そんな小説ではないでしょうか。確かに主人公は女性として描かれていますが『女の一生』(モーパッサン)というより、人間というか生命というものの姿を綴っているように思えます。

美しい、雪のひとひら(『ひとひらの雪』は渡辺淳一さんですね)は遙か彼方の空で生まれ、地上へと舞い降りてきます

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日本人の人情の原型ここにあり──小林まこと『瞼の母 劇画・長谷川伸シリーズ』

日本人の人情の原型ここにあり──小林まこと『瞼の母 劇画・長谷川伸シリーズ』



「かんがえてみりゃあ俺も馬鹿よ……」
「自分ばかりが勝手次第にああかこうかと夢をかいて母を恋しがっても……」
「そっちとこっちは立つ瀬が別っこ……」
「幼い時に別れた生みの母は……」
「こう瞼の上下ぴったり合わせ」
「思い出しゃあ絵で描くように見えてたものを」
「わざわざ骨を折って消してしまった……」

忠太郎のこのシーン、舞台なら観客から声がかかる名シーンです。(もしくはすすり泣く声が聞こえ

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幾たびも喜びや悲しみに出会いながらも自分の生を生き抜くこと──若松英輔『生きる哲学』

幾たびも喜びや悲しみに出会いながらも自分の生を生き抜くこと──若松英輔『生きる哲学』



若松さんが出会ったのは柳宗悦の言葉でした。それは「悲しみ」についてのものでした。
「悲しみは悲惨な経験ではなく、むしろ、人生の秘密を教えてくれる出来事のように感じられるようになった。(略)悲しみに生きる人は──たとえ、その姿が悲痛にうちひしがれていても──私の目には勇者に映る。勇気とは、向こう見ず勇敢さではなく、人生の困難さから逃れようともせず、その身を賭して生きる者を指す言葉になった」

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