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タクシーに乗ったら、プチディズニーランドだった話。

今はもう門限はないけど、大学に入りたての頃は門限があった。時刻は0:00。

門限……。実家ぐらしの宿命だ。

0:00を超えたら、なにかが起こってしまうような気がして(実際は親が怒る)
「私、日付が変わるまでに帰らなきゃいけないの!」
って小走りで帰ることも度々あった。

「なんかシンデレラみたいだね」
そう友達に言われたセリフの後には、見えない大量の草→www が生えていて、私も失笑した。
ヒールが脱げてもロマンチックな事件とは皆無だった。
一人暮らしいいなぁ〜って何回ぼやいたかなぁ。

0:00を超えた瞬間、ふと現実に戻るような気がするのは、今も変わらない。
今までの楽しい今日が、カチッと昨日に切り替わる。
昨日は、おととい、一週間前、先月、と同じ「過去の思い出」にカテゴライズされ、そしてそれとは一線を画した新しい「今日」という1日がゆっくり始まるような感覚だ。

デジタル時計が23:59から0:00になる瞬間とか、
LINEで友達と話してて、日をまたいだ時に「今日」が出てくる瞬間とか。
少しテンションがあがる。
大学も5年目に突入し、そんな瞬間を目の当たりにするタイミングが増えた。(23:59締切のレポートを涙目で書いている時が大部分を占めるけど。)

帰る時間も、寝る時間も、少しずつ遅くなっていった。

先週、0:00をかなり回ったころ、滅多に乗らないタクシーに乗った。
今日になっちゃったなぁ、って思いながらお酒が抜けないほてった体を座席におろし、行き先を伝える。

「はーいドア閉めるよ」と運転手さんはハンドルを握り直し、エンジンをかけた。

タクシーの中には、たっくさんのディズニーキャラクターが吊るされていた。
宙に浮いているものだけでなく、メーターの上にがっちり固定されてるものもあった。
いくつものキーホールダーが、カチャカチャと音を立てながら、優しくぶつかり合っている。
女子高校生のバッグみたいだな。

それにしても珍しい内装のタクシーだと思い、薄暗い中車内をきょろきょろと見ていた。
インドのタクシーも、かなりの割合でインドの神々のマスコットをぶら下げているけど、それとは比にならない量。

私も高校の時、ディズニーで買った大きめのクマのぬいぐるみをひとつぶらさげてたけど、何回も電車のドアに挟まって、中の綿がぺちゃんこになった。
結局バッグからは切り離されて、その後は自宅警備員のごとく、勉強机の上でちょこんと座っていたなぁ。
そんなことを思い出していた。

窓の外を流れる商店街の街頭が、車内のキーホールダーたちを照らし出す。
思っていたよりももっと量が多いことに気づいた。
完全にティーンネイジャーの部屋の一角だった。
今エレクトリカルパレード・ドリームライツの曲がBGMとして流れても、全く違和感ない。

こりゃ筋金入りのディズニーヲタクだわ…
隠れミッキーも全部制覇してる系の人間だわ…

「ディズニー、お好きなんですね」
「最近は行けてないけどねー。娘が大好きでね」

ミッキーのきぐるみを着たダッフィーが、こちらを見ている。
車の中では一番スポットライトがあたるところに吊るされており、たぶん一番のお気に入りなんだろうなと思った。
ダッフィーは微笑をたたえながら、道を曲がるたびにくるるっと右に回り、左に回り、まっすぐな道を進んでいる時は、正面を向いてバンザイしたまま車内を見守っていた。

「小さい頃から、誕生日は毎年ディズニーランド連れて行っててね」

ディズニーランドのチケットには、発行したその日にちが印刷される。
家族での夢の国での思い出と、そのチケットが、娘さんにとって大切な誕生日プレゼントだったらしい。
それが少しずつ溜まっていくとともに、成長を感じていたんだって。素敵。

「このダッフィー、日本じゃ見たことないでしょ?
娘が彼氏と香港のディズニー行った時に、買ってきてくれたやつでさ。
娘がほこりアレルギーだから、ぬいぐるみ買ってやれなくて。いつもこういう、つるっとしたキーホールダーを買ってたんだけど。このもらったぬいぐるみはタクシーに付けようって思ってね」

そう言いながら、左手でダッフィーを軽く握った。
娘さんからもらったプレゼント、嬉しかっただろうなぁ。
もう一緒にディズニーに行くのはお父さんではなく彼氏だってことに、少し寂しさを覚えているようだったけど、
それを慰めるように、ダッフィーはつぶらな瞳でこっちを見ながらゆらゆらと揺れていた。


言葉を交わしていくうちに、私の斜め前に座っている運転手さんは、ひとりの父親になった。

何にも代えがたい、大事な思い出がつまったディズニーキャラクターたちに囲まれて、今日もアクセルを踏んでいるのだ。

養う家族がいて、ディズニーには最近行けてなくてちょっぴり切ない思いしてるけど、娘のことを大切に想うお父さんだった。娘の門限とかも気にしちゃうんだろうなぁ、きっと。

「忘れ物ないようにしてね。特に最近はスマホを置いていく人が多いから」
「大丈夫です。安全運転、ありがとうございました」

ずっとおしゃべりしてたから、スマホはバッグに入ったままだった。


降りた後に味わった、なんとも言えない優しい気持ち。
なんだろう、ひとつのアトラクションに乗った後のような気分だった。

センター・オブ・ジ・アースとか、スペースマウンテンみたいなぐわんぐわんのアドレナリン・脳震盪系ではなく、
イッツ・ア・スモールワールドのような、ちょっと新しい世界を垣間見て、ほっこりするようなやつ。
ファストパスを取りに走り回った後、足を休めながら深呼吸するような感覚。


0:00だいぶ過ぎちゃったなぁ、と思いながらそーっと家に帰ると、リビングに父がいた。

「おかえり」「ただいま」
「早く寝なね」「はーい」
「おやすみなさい」「うん、おやすみなさい」

それを言うためにこの時間まで起きててくれたのか、と気付き、

もうちょっと早く帰ろう。

そう思った、ひとりの娘です。

おやすみなさい。

明日もいい1日になりますように!

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