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増えた子?消えた子?

怖い話を読んでるとよくあるじゃないですか。
『いつの間にか一緒に遊んでた子供の人数が増えてた』って。

あれ、『増えた』んじゃなくて本当は『消えた』んじゃないかと思うんです。


世間がポケベルから携帯電話へと移り終わった頃の話です。
私が生まれたのは海や山に囲まれた田舎でしたので、ゲームのある家庭もありましたがほとんどの子は外で遊んでいました。
父が新し物好きだったので私の家にはファミコン、スーファミ、ゲームボーイ、ワープロにパソコンと電子機器は揃っていましたが、小学生だった私は外で秘密基地作りや海や山の探検に繰り出すことが多かったです。

いつも遊ぶのは決まって二つ下の妹と幼なじみ2人で、たまにそこに他の同級生や妹の同級生も加わり遊んでいました。

その日は書道教室が終わったあと、まだ門限まで時間があったため近くにある神社に行きました。
メンバーは同じく書道教室に通っていた妹と幼なじみ2人と同級生Aと妹の同級生B…だったと記憶しています。

神社で私たちはかくれんぼを始めました。
最初は私が鬼で、容赦なく妹を見つけました。
そのまま順調に全員見つけたはずだったのですが、誰からともなく「あとひとり見つけてない」と声が上がりました。
数えたらちゃんと私を合わせて6人います。
「ちゃんと6人みんないるよ?」
そう言って幼なじみ2人とAは納得したのですが妹とBは首を傾げます。
「Cがいない」
と。

Bが言うには
「隠れてる時に同じ場所にCが来た」
「2人も同じ場所に隠れてたら見つかるだろって追いやった」
そうで、まだどこかに隠れているはずだと。

妹は
「遊ぶ前に荷物を地面に置いた時、隣にCって名前の書かれた習字セットが置いてあったからCもいるんだと思ってた」
「姿は見てない」
「すぐかくれんぼを始めたからもう隠れたんだと思った」
と言います。

Cなんていたっけ?と思ったのですが、2人がいたというのだからいたのでしょう。
みんなでCを探しました。

いつもみんなが隠れる神社の床下から大木の裏、小さなお稲荷様の社の裏に、Bが隠れていた敷地の隅に積まれた材木のあたりまでくまなく探しました。

探している内にとうとうサイレンが鳴り響きました。
この辺りでは17時になると大きなサイレンが鳴り響くのです。
17時30分が門限なのでそろそろ帰らないといけません。

みんな探すのを諦めて
「Cー!」
「C出てきてー!」
「降参だよー!」
「帰るよー!」
と叫んだのですが出てきません。

幼なじみの片方が
「もう帰ったんじゃない?」
と言い出したので、妹が見たという習字セットを確認して帰ることにしました。

妹のカバンの隣には何もありませんでした。
地面の砂に四角いものが置かれていたような跡があるだけで。

「やっぱり帰ったみたい」
「帰るって言えよー」
「こんなに探したのにねー」
と文句を言いながら別れの挨拶をしてそれぞれ帰路に着きました。

「Cどこ隠れてたんだろうねー。あの神社で知らない隠れ場所ないと思うんだけど」
なんて妹に話しながら帰り道を歩いていたんですが、急に妹が
「ところでCって誰?」
と聞くのです。

「え?あんたの同級生じゃないの?」

妹とBが同級生だったのと、なんとなく名前を知ってる気がしたのでCも妹の同級生だと思っていましたが、妹は私の同級生だと思っていたそうです。
妹は習字セットにCと書いてあるのを見たから今日はCという子もいるんだと思っていただけでCが誰かは知らない、と。

訳が分からなくなって急に怖くなり、2人で家まで走って帰りました。


後日、私のところへBが会いに来ました。
「Cが学校に来てない」
「Cのこと覚えてるよね?」
「誰もCのこと覚えてない」
「家にも行ったことあるはずなのに」
と泣きそうな顔で言うので、私の妹も誘ってBと一緒に家があったという場所まで行きました。

そこにはポストをガムテープで塞がれた一軒家がありました。
庭は手入れされているようなのに生活感がないというか、変な感じがしました。
チャイムを鳴らしてみたのですが誰も出てきません。

諦めて帰ろうとした矢先、妹が
「あっ!」
と庭の隅を見て声を上げました。

そこには朝顔のプランターがありました。
名前のシールは剥げていていましたが、見覚えがあります。
妹が1年生の頃に朝顔を育てていたプランターと同じデザインです。
私の学年は全体緑のダサいデザインだったのに、妹の学年は紫と黄緑と白の配色のプランターだったのでカラフルで羨ましいなと思っていたので、私にも分かりました。

『Cは本当にいたんじゃないか?』
そんな気持ちが強くなりました。
Bは何か確信したのでしょう。
「C・・・」とぽつりと呟いた後は一言も喋らず、俯いたまま帰っていきました。

それからBは習字教室を辞め、疎遠になってしまいました。
妹から聞いたところによると学校も休みがちになり、そのまま転校したそうです。

実はBが転校する少し前、学校へ荷物を取りに来たBのお母さんらしき人が先生と話しているのが見えたので盗み聞きしたんです。

「やっぱりCって子学校にいませんよね?別の学年の名簿も調べて貰えます?」
「『次は僕が消えちゃうかも』って言って怯えて家から出ようとしないんですよ」
「病院に連れていこうと思ってるんです。隣県にいいお医者さんがいるそうで」


それからのことは分かりません。
私も妹もしばらくは
『Cって子がいた気がする』
ような感覚だけはありましたが、それも大人になるにつれてなくなりました。

でも『知らない子がいつの間にか増えてた』って話を見る度思うんです。
本当は知ってる子なのに、その場にいるみんなの記憶から何故か消えちゃって「誰か増えた」と思われてるだけなんじゃないかって。
Bがおかしくなったんじゃなくて私たちがおかしくなったんじゃないかって。

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