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短編小説「気合い税」2022/12/23~24



  気合い税
                   非おむろ

「何が〝気が、狂うわ!〟じゃボケ!」
 失業中なので曜日なぞ知ったことではない。厚手のカーテンを開け、薄手のカーテンを開け、窓を開ける。網戸が邪魔だ。網戸を開ける。
 朝から昼へと変わろうとしている下呂湾が、適切な遐(とお)さにて一望出来る、最高のオン襤褸(ぼろ)アパートだ。あのしみったれた海沿いの排水溝の脇を抜けて、美濃県(よさこいけん)を脱県(だっけん)したのはつい三日前の夜の事。左脹脛(ひだりふくらはぎ)が青痣化(くろに)えているが、名誉の負傷だ。糞野郎が。……ま、私はこれから飛騨県(はねうまけん)に永住するわけだから、あの莫迦(ばか)公務員共の面(つら)なぞ、もう思い出さなくともよい。一生忘れはしないだろうがよ。
 美濃県(よさこいけん)では「適格SAY-Q書発狂事業者登山番号に基づく制度」、通称〝ボケボイス制度〟が二週間前、急に導入された。公布された二十秒後に施行された為、あーだこーだ反駁(はんばく)する余地が、県民には、無かった。街──といっても、山間部の寒村が点在しているだけだが──には公務員が三節棍を手に巡回。巡回。巡回。〝ボケボイス制度〟に背くような言動があれば、カルシウムがどれだけあっても骨折は免れないであろう生き地獄が、気付いたら竣工していた。
 「適格SAY-Q書発狂事業者登山番号に基づく制度」、通称〝ボケボイス制度〟は、発狂したら〝必ず〟最寄りの山に登り、
「気が、狂うわ!」
と叫(おら)ばなければならないという制度。百八歳の県知事の発狂が生んだ、悪夢のようなシステムである。──何が悪夢かって、三節棍を持った公務員が、
「あ、君、今、発狂しているね? 山に登らないと駄目じゃないか。まあ、今回は君の貧乳を舐めるだけで勘弁してあげるけど、次からは容赦しないよ? 世の中そんなに、甘くはないからね……。」
とか言いながら、私に性犯罪を実行してくるんだ。嫌になっちゃう、どころではない。なお、
「発狂していません。」
と云おうものなら、無言で私の胸を捏ね繰り回してくる。

 男は狼なのよ、抔(など)という詞(ことば)が歌にあるが、男は狼ではなく、もっと陰湿で愚劣で卑怯な暴力装置である。出来る事ならば、全滅してほしい。男の頭蓋骨の上にだけ、隕石が降り注がないだろうか? これから一分の間に、サ。

 ま、もう脱県(だっけん)出来たからいいんだ。少し股を開いただけで住民票も取れたしね。
 潮風が気持ちいい。下呂湾が適度に邇(ちか)いんだ、折角だからこれからは海鮮料理のレパートリーを増やしていこう。
 ふふふのふ。

《ピンポーン!》
「おはようございまーす! 携帯電話の株式会社カンパニー壊疽銅鑼(えそどら)の者でーす! 昨日はありがとうございましたー!」
 インターホン越しに聞こえた声は、昨日の手続き時の担当者の、優しげな初老の男性のものだった。念の為、扉覗穴(ドアアイ)から覗いた。間違いない。
 念には念を入れて、私は扉を開けずに答えた。
「どうもおはようございます! こちらこそ、昨日は丁寧な御説明、ありがとうございました。今日はどうされましたか?」
「はい。実は、強制プレミアム料の御案内でして。契約書を持って参りました。扉を開けて頂けませんか?」
「……えっ……。」
 この初老の男性、昨日と変わらぬ朗らかで温かで優しささえ感じる声をしてはいるものの、今、何か〝棘(とげ)〟のような単語が聞こえた。
「キョウセイプレミアムリョウ……? 何でしょうか、それ……。」
「あのー、先ずは扉を開けて下さいませんか?」
「えーっと……。」
 私は十秒ほど黙った。躊躇(ためら)っている。というか、正直、厭(いや)だ。開けたくない。
「あのー? ちょっ、おじさん、寒いんですけどー?」
 括弧(かっこ)の中に〝笑(わらい)〟を据えて包み、それを語尾にくっつけたかの如き、おどけた云い方だ。……まあ、今更居留守もクソも無いし、これから暮らしていくにあたり、遁(に)げ続ける訳にもいかない。というか、私には後ろめたい事なぞ何も無い。遁(に)げることなど、これから一生せずとも佳(よ)いのだ。それを、忘れていた。
 気乗りは正直全くしていないが、是非も無し、私はのそのそと開錠し──ようとしたが、少し思い止まり、ドアにチェーンを掛け、開錠した。

 その途端!

《バァニ!》
「あ痛ったたたた……!」
 今のは、訪問者のおじさんの声。この初老の男性、開錠の音を耳にするや否や、全力でドアを開けて沓(くつ)を隙間に辷(すべ)り込ませようとしていた。


 ドン引き。


 私はさっと距離を取った。悲鳴を堪え乍(なが)ら、男を見る。

 ──こいつ、下半身に、衣服を着用していない。

「いやあお嬢さん、痛い痛い、足首を捻挫しちゃったかもね、こりゃ。」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
 流石に、叫(おら)んだ。
「な、な、何、何、変態、何? おい!」
 私はそう発声しつつ、着ていたデニムのワンピースで手汗を拭き、急いで携帯電話を取り出す。
「通報しますからね!」
「いや、無駄ですよ? 強制プレミアム料の契約がまだですので。」
「は?」
「あのー、寒いんですけどー?」
「絶対入れません。死んでも。警察を呼びますからね今。貴方、貴方終わりですよ。」
「いやいやお嬢さん、固定電話無いでしょこの部屋。」
「この携帯が見えませんか?」
「さっき云ったでしょ。お嬢さん。貧乳のクセに莫迦(ばか)なの? ガチでいいとこねえじゃんこいつ。猿かな?」
「な゛っ……。」

 頭の中が、真っ白になった。

「いいかい、お嬢さん。よく聞いてね?」

 目の前の男はそう云って、

①月129,800円の〝強制プレミアム料〟が強制的に絶対に必要であること。(これは昨日説明された基本料金や機種代金、会員登録費、その他の諸費用とは別である。)
②〝強制プレミアム料〟が支払われない場合、この携帯電話は警察と救急・消防と時報への電話が繋がらないことに加え、偶数の時間の通信が為されないこと。例えば、1:00~1:59は電話も写メールもブラウザも使えるが、2:00になった途端に所謂〝オフ・ライン〟と相成ること。
③本日の下半身剥き出し訪問は、県によって許可されている社としての〝仕事〟であること。(全ては、〝強制プレミアム料〟の重要性を、お客様をして分からせしむることが目的である。)
④「お嬢さん、貧乳だからこの県では暮らしにくいでしょう? おじさんの〝バスローブ〟になってくれれば、こんな襤褸室(ぼろべや)ともオサラバできるよ? どう?」という、巫山戯(ふざけ)た提案。
⑤「今日、〝おんなのこのひ〟?」という、巫山戯(ふざけ)た質問。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 私は叫(さけ)び、気が狂(ふ)れそうになり乍(なが)ら部屋の奥へと走り、大窓を開け、ベランダに一歩足を踏み出した。

「……ッ!」

 ここは三階。下は竹藪で──えッ!?
 
 よく見ると、誰がそうしたのか、竹藪の中に、鋭い竹槍が天を向いて剣山の如く無数に密集している。
 あ、人骨も幾つか見える。

「……あ……あ……。」

《バベギィ! ガラベヂィ! ブギビィ! バリバリバリバリ……。》

 轟音と共に、三節棍を携えた、下半身に何も着ていない初老の男性が、扉を破壊して入室して来た。
「おっと、沓(くつ)を脱がなきゃね……。」
 既に土足禁止の廊下まで沓(くつ)で来ていながら、〝丁寧な暮らし〟の実践者であるとでも言いたげに、優雅っぽく沓(くつ)を脱ぎ、愈々接近してきた。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
「お嬢さん、何叫んでんのいい歳して。三十路でしょ? さんじゅっちゃい。結構歳いってんじゃんクソババア。けらけら。嘘々。俺の三分の二ぐらいの年齢なわけだ、若い若い。乳首は黒そうだけどね。ま、取り敢えず強制プレミアム料の契約書と、初回料金を頂きまーす。」
「巫山戯(ふざけ)るな、殺す、殺す、」



「黙れ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 鼓膜が、破れそうだった。
「金が無えなら先(ま)ずは俺と〝スポーツ〟しよや~。」
《バギイ!》

 三節棍で加湿器を叩き毀した。明確な威嚇行為。下呂湾からの潮風が、全く〝肌に入ってこない〟。異常事態の最中にある。
 ──こんな時こそ、落ち着け。


 私は科(しな)を創(つく)り、エッグ・ポーズをした。




「……来て。」




 男は少し驚いた表情(かお)を見せた後、三節棍をポイっと床へ放り投げた。白髪が混じり始めた頭をポリポリ搔き乍(なが)ら、
「何だ、お嬢さん、〝話せる側の♀(めす)〟か。……悪ィ悪ィ、色々毀しちまってよ……。」
とほざき、にやつきつつ、屹立した陰茎を揺らし始めた。睾丸はもう引き攣っていて揺れていない。典型的な〝近々発射予定〟の構えだ。
「いやあん。良かったあ、カッコイイ人が来てくれて。ねえ、じらさないで……。」
「嬉しいことを云ってくれるね。では、契約書とかの前にさ、早速愛──げぴィ!!!!!!!!!! うがァ!!!!!!!!! ッァン……!!!!!!!!!! げぼろぼろぼろ……!!!!!!!!!」
 パンソーク……っつっても分からないか。まあ、簡単に云うと、私はムエタイで中学二年の時に男女共同参画選手権でも中京圏で一位だったし、〝ブランクも無い〟から、肘鉄と〝膝鉄〟の類を数十発打ち込んでやった。
 肋骨バキバキの筈(はず)なのに、このゴミオス、まだ勃起肉棒を反り立たせて向かってくる。体格も良いし、餃子耳に、眉無し……ラグビーか柔道、或いは、ラグビーと柔道をやっているのか? それだけじゃないかな? 三節棍も使っていたし。──っつっても、飛騨県(はねうまけん)の連中って、粗(ほぼ)みんな三節棍持ってるけど。
「……げろ……てめ……おか……ころ……。」
「臭いゲロ吐くなやおっさん。」
 私は、素足(すあし)でも瓦を四枚前後は安定して割ることが出来るテッサイ──ああ、左ミドルキックのことね──を、このオスの陰嚢(ふぐり)に打ち込んだ。
 


 ふぁさっ、という、剛毛の、胸糞悪い感触の刹那の、直(す)ぐ後(のち)。


 水風船というよりは、そうだなあ、結構硬い、新品で、空気が入り切って張り詰めた自転車のタイヤのような弾力を感じたあと、それがいくらのように弾ける感覚を、味わった。



「ン゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

 私は汚物同然のオスを、跨いだ後、テッカークワァー──右ローキック──で蹴飛ばした。その時点でこのオスは尾骶骨を骨折しただろうが──なお、〝複雑骨折〟という言葉は、複雑に複数個所を骨折したか、が判定基準ではなく、骨が皮膚の外に突き出て見えてしまっているかどうか、が判定基準である──兎に角まあ、ベランダの欄干を木っ端微塵にして、〝それ〟は、例の竹藪に、落ちていった。


《ピンポーン!》
「おはようございまーす! インターネットの有限会社イオタイ指来(ゆびきたす)の者でーす! 昨日はありがとうございましたー! お、空いとるね扉。というか、毀れとるやんけ。先客とヤってんのかな? ……ああおはよう、少女よ、イオタイ指来(ゆびきたす)のおじちゃんだよ、強制プレミアム料の契約書を持って来たんだ。月額の奴。これ契約しないと0.00008Mbpsしか──うぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
 タッマラー(縦肘打ち)で鼻を〝複雑骨折〟させたあとテンカウ(組んでいない状態での膝蹴り)で竿を折り、テックワァー(右ミドルキック)で尾骶骨を台無しにして、テッ(回し蹴り)でベランダの方向へ蹴り飛ばした。鼻は赤いスプリンクラー。ああ、竹藪へ落ちて行った。


《ピンポーン!》
「おはようございまーす! プロパンガスの股份有限公司(にいはおありかぎりのおおやけつかさ)靉趁衙尓儕㋼俎无(おおがにぜいしょん)ぷカPUka墓夢(ぷかぷかぼむ)の者でーす! 昨日はありがとうございましたー! お、空いとるね扉。というか、毀れとるやんけ。先客とヤってんのかな? ……ああおはよう、貧乳チャン、靉趁衙尓儕㋼俎无(おおがにぜいしょん)ぷカPUka墓夢(ぷかぷかぼむ)のおじちゃんだよ、強制プレミアム料の契約書を持って来たんだ。月額の奴。これ契約しないとガス警報器から150dBで広告音声が流──うぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
 タッマラー(縦肘打ち)で鼻を〝複雑骨折〟させたあとテンカウ(組んでいない状態での膝蹴り)で竿を折り、テックワァー(右ミドルキック)で尾骶骨を台無しにして、テッ(回し蹴り)でベランダの方向へ蹴り飛ばした。鼻は赤いスプリンクラー。ああ、竹藪へ落ちて行った。


《ピンポーン!》
「おはようございまーす! 中上呂上下水道局(なかじょうろじょうげすいどうきょく)の者でーす! 昨日はありがとうございましたー! お、空いとるね扉。というか、毀れとるやんけ。先客とヤってんのかな? ……ああおはよう、いきおくれ中古まんこ、中上呂上下水道局(なかじょうろじょうげすいどうきょく)のおじちゃんだよ、強制プレミアム料の契約書を持って来たんだ。月額の奴。これ契約しないと33.3%の確立で蛇口から白いおしっこが出──うぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
 タッマラー(縦肘打ち)で鼻を〝複雑骨折〟させたあとテンカウ(組んでいない状態での膝蹴り)で竿を折り、テックワァー(右ミドルキック)で尾骶骨を台無しにして、テッ(回し蹴り)でベランダの方向へ蹴り飛ばした。鼻は赤いスプリンクラー。ああ、竹藪へ落ちて行った。

 


《ピンポーン!》
「おはようございまーす! 非営利団体・(嘘)下呂電力の者でーす! 昨日はありがとうございましたー! お、空いとるね扉。というか、毀れとるやんけ。先客とヤってんのかな? ……ああおはよう、雑魚クリトリスごみあほめす、(嘘)下呂電力のおじちゃんだよ、強制プレミアム料の契約書を持って来たんだ。月額の奴。これ契約しないと10:00~翌4:30までは電圧が50Vしか──うぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
 タッマラー(縦肘打ち)で鼻を〝複雑骨折〟させたあとテンカウ(組んでいない状態での膝蹴り)で竿を折り、テックワァー(右ミドルキック)で尾骶骨を台無しにして、テッ(回し蹴り)でベランダの方向へ蹴り飛ばした。鼻は赤いスプリンクラー。ああ、竹藪へ落ちて行った。

 


《ピンポーン!》
「おはようございまーす! GHDの者でーす! 昨日はありがとうございましたー! お、空いとるね扉。というか、毀れとるやんけ。先客とヤってんのかな? ……ああおはよう、ドス黒巨乳輪長雑魚乳首のあへあへ底辺貧乳女、GHD、つまり、ラジオのさあ、郡上八幡電波のおじちゃんだよ、強制プレミアム料の契約書を持って来たんだ。月額の奴。これ契約しないと、電子レンジとかが共振して〝鳴り〟っぱなしにな──うぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
 タッマラー(縦肘打ち)で鼻を〝複雑骨折〟させたあとテンカウ(組んでいない状態での膝蹴り)で竿を折り、テックワァー(右ミドルキック)で尾骶骨を台無しにして、テッ(回し蹴り)でベランダの方向へ蹴り飛ばした。鼻は赤いスプリンクラー。ああ、竹藪へ落ちて行った。



《ピンポーン!》
「おはようございまーす! はねうまちゃんねるの者でーす! 昨日はありがとうございましたー! お、空いとるね扉。というか、毀れとるやんけ。先客とヤってんのかな? ……ああおはよう、年増クリトリス雑魚生理おばさんfeat.常識ゼロ、はねちゃん、つまり、テレビのさあ、飛騨放送協会のおじちゃんだよ、強制プレミアム料の契約書を持って来たんだ。月額の奴。これ契約しないと、もう普通に犯して殺──うぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
 タッマラー(縦肘打ち)で鼻を〝複雑骨折〟させたあとテンカウ(組んでいない状態での膝蹴り)で竿を折り、テックワァー(右ミドルキック)で尾骶骨を台無しにして、テッ(回し蹴り)でベランダの方向へ蹴り飛ばした。鼻は赤いスプリンクラー。ああ、竹藪へ落ちて行った。



《ピンポーン!》
「おはようございます。大家です。お伝えしておりました、敷金を集──うぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
 タッマラー(縦肘打ち)で鼻を〝複雑骨折〟させたあとテンカウ(組んでいない状態での膝蹴り)で竿を折り、テックワァー(右ミドルキック)で尾骶骨を台無しにして、テッ(回し蹴り)でベランダの方向へ蹴り飛ばした。鼻は赤いスプリンクラー。ああ、竹藪へ落ちて行った。



《ピンポーン!》
「こんにちは。飛騨県税鬼局(はねうまけんぜいききょく)の者です。」




《バギャァアアアアアア!!!!!!!!!!》



 耳を劈(つんざ)く、発砲音。

「おい、ま~ん(笑) 存在税出せや。あ、死ぬなら、非存在税出してもらいます。百億円ね。ひゃくおく。何か言い訳っつうか遺言とかある? ま、聞く気無いけ──」




「気合い税。」



「……あ?」

 全裸に、改造を施したツァスタバM21Sのようなものを持った初老の男性は、銃口をこちらに向け、訊いて来た。

「気合い税です。貴男に払う為に、用意しておきました。後ろの壁のカレンダーの横の、ほら、そこ。」

 銃口がこちらに向けられているので、撃たれたらそこで人生が終焉を迎えるわけだが、私は怯えもしない自然な様子で、指をさした。私の目も、男の背後の、私が指差している空間へと移った。
 男は一瞬、釣られて、振り返った。

 その一瞬で、充分だった。





《ベッギ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!》





 好(い)い音がした。嫌(いや)な音、と云うべきだっただろうか?

 兎も角、男の首は〝複雑骨折〟してしまったようだ。




 銃は使える。〝もうけもの〟だ。頂戴しておこう。
 生ごみを竹藪へ捨て終えた私は、血まみれのデニムのワンピースをささっと脱いで、くしゅん、と嚏(くしゃみ)をした。



 嗚呼。


 厭(いや)になっちゃう。



 瓦礫めいた木材の破片を踏まないように、予備の清潔なスリッパを履き、ユニットバスへと歩いた。
 もう、夏は遐(とお)く、冬が邇(ちか)づいている。


 
 秌(あき)。


 ふと、ぱたぱたとスリッパを鳴らし、部屋の奥へと戻り、この騒動で汚れていない箪笥周りの一角から、清らかで潔いバスタオルを取り出した。それを持って、ユニットバスへと戻る。
 自然と、口から溜め息が出て来た。駄目だ、駄目だ。ポジティブ、ポジティブ!

 うんざりな赤黒い液体に塗れた全てを脱ぎ捨てた。相変わらず左脹脛(ひだりふくらはぎ)は青痣化(くろに)えている。クソッタレ。
 



 だがまあ、総(すべ)ては気合い税だ。
 



 私は、うーん……、と、のびをして、シャワーの前へ立った。
 栓を捻る。



 どろり。


 シャワーヘッドから、見知らぬ、白いおしっこが垂れて来た。




 私は、自然と、腹の底から、反射的に、絶叫していた。

 


「気が、狂うわ!」



  〈了〉

非おむろ「気合い税」2022/12/23(金)~24(土)

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