【文庫本】キリエのうた 感想 ※ネタバレあり


0.初めに 


キリエのうた、好きすぎて文庫本も読みました。
私自身、キリエのうた、音楽に救われている一人です。

映画を先に見ていたので結末は知っていましたが、文庫本ならではの活字での心情描写や、映画にはなかった描写もあり、改めて感想を書きたいなと思い、ここにまとめます。 

話の大筋の感想は映画版の感想にまとめてますので、よければそちらを先に見てください!

https://note.com/non_idol_kise/n/n81d7fbca5a6f?sub_rt=share_b&d=s4ta9qArM3JH

https://note.com/non_idol_kise/n/na9ea7e0e6e0c?sub_rt=share_b&d=s4ta-LG_LjzB

 


1.真緒里

文庫版で最も解像度が上がったのは真緒里です。
映画では「お金を援助してもらえなくなり、大学には行けなかった」「結婚詐欺をしている」という情報はありましたが、路花に会うまでどのように生活していたかを知りませんでした。大学には途中まで行っていたけど、2年目くらいで母と客が破局してお金を払ってもらえなくなって、今の生活に至っていたのかとも思っていました。しかし、本を読むと入学する前に破局し、休学していたことが分かります。真緒里の必死な思いが新生活が始まる前に破綻していたことに尚更胸が痛みました。
また、スナックを継ぐことを嫌がって東京に残った真緒里がなぜ結婚詐欺という、男に媚びるとも取れる生活をしていたのかも、本を読むとその経緯が明らかになります。最初から真緒里は逸子だったわけではなかった。気の合う友人もいました。でも、結婚詐欺のきっかけともなる女性との出会いがあり、バイトと別世界の環境下でうつになり、そんな中友人の彼氏から性被害を受けたことで、結婚詐欺の道に歩んでしまったのだと分かりました。どんなに厳しい環境でも自身の哲学を簡単に曲げずに生きようとしたことや、それが結局汚さたこと、嫌っていた才能を自分が持っていたこと、どれも辛かっただろうと思うとやりきれないです。
また、最後に真緒里を刺した男が友人の彼氏であったことにも驚きました。映画だけ見ていると、結婚詐欺の被害者の一人かと思っていましたが、彼は逸子ではなく、真緒里を刺していたんですね。

2.夏彦

本を読んで、驚いたのは夏彦が映画で見ていた以上に、希を愛していたことです。映画では、「そんなに好きな訳じゃなかったけど、妊娠させてしまった女の責任を取ろうとしていた」風に見えており、「見つからなくてほっとしている」気持ちの方が大きいのだと思っていました。
でも、本を読むと、夏彦が愛に欠けている家庭であることや、思春期だったこともあるとしても、希に抗えないほど強い魅力を感じていることが分かります。本からは、単なる性欲だけではなく、本能的に惹かれているように感じました。
ちなみに、夏彦の家庭環境もよく分かるので、一族で集まるシーンにいるマークさんが何者だったのか等も分かります。
また、夏彦はおそらく友人たちも津波で亡くしていることもはっきりとは書かれていませんが、察せました。

3.最後に

映画での結末は、キリエは警察に止められても歌い続けるし、イッコは男に刺されても「こんなのかすり傷」と歩き続ける、というものです。
私はこの結末が大好きです。
映画からはあの失血ではイッコは死んでしまうし、キリエは友人を失う、だから救いはないかもしれない。けれど、それでも自分を貫いて生きることを辞めなかった。彼女たちは、やりきれなさや繰り返す痛みを「こんなはずじゃなかったよね」と抱えながら確かに歩き続けていた。そんなうたとメッセージ性が大好きで、この映画で最も美しいと思っていました。
でも、本を読むと、真緒里の死体は見つかっていないこと、最後に真緒里の名を借りた誰かがどこかで真緒里が生きていますように、とこの本を書いたという終わりになっています。
そうなってくると、救いはあるのかもしれない。あくまで可能性ですが、真緒里は生きているかもしれない。真緒里の名を借りた誰かと同じく、読者も不確かながらも彼女の幸せを願う形でこの物語は終わるのではないでしょうか。それこそが救いになるような気もします。
映画「キリエのうた」からは生きる強さを分けてもらいましたが、文庫版「キリエのうた」にはまた別の優しさがあると感じました。

ここまで長い感想を読んでくださってありがとうございました!
他にも本を読むと「あ、本当に許可証取ってたけど、忘れただけだったんだ…」とか細かいところで分かる真実があって、面白かったです。
何より、もう映画館では見れない「キリエのうた」を別の形で近くに感じられて、ページを開いたときに彼女たちがちゃんとそこにいて、心がときめくのを感じました。
いろいろ書きましたが、伝えたいのは「キリエのうたはいいぞ!!!!」ということだけです。

ぜひ本を読んで、ブルーレイがでたら映画も見てください〜!!



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