デジタル化は手の届くところから:無料BIツール「Google Data Studio」を使い倒す①在庫管理ツール

つい先日ツイッターで「ウチDX進んでんじゃね?と思った」みたいなことを書いた。が、冷静に考え直した。

「そんな大それたことじゃなくて中小企業が身の丈にあったお手軽なカイゼンをしていたらたまたまツールがデジタルであったっていう話だわ」

ということである。とはいえ本当に効果が大きいものもあるし、製造業に限らずサービス業他の業種でも、更にタイでも日本でもその他の国でもどこでも使える便利なツールもある。ウチはSAPのような基幹システムどころか生産管理システムも入れていない。経理ソフトだけである(あとは最近Kintoneも入れているがこれはまた別の機会に触れたい)。大企業の人からしたら「そんなの今更w」だろうし派手なDXの取り組み紹介を期待してくださった方には小粒感満載で申し訳ないのだけど、少なくとも中小企業で使えることはあるはずなので紹介していきたい。

どの会社にもあるであろうエクセルのレポート類。見づらいしファイル重くなるしリアルタイムじゃないしデータ連携難しいしマクロやVBA組んでも「その道の達人」がいなくなったら誰も手つけられなくなるとか色々問題があると思う。ウチもご多分に漏れず様々なエクセルのレポートがあり、人によって見せ方もバラバラだったり毎月の積み重ねや流れがうまく見えなかったりという、「別に致命的じゃないけどもうちょっとなんとかならないか」みたいな感じだった。

もう2年くらい前のこと、とある日系SaaSスタートアップのタイ代表の方と仲良くなって各種事業指標の管理方法を見せてもらったのだけど、これがものすごかった。ブラウザで経理から営業の進捗まですべての指標が一目でわかるようになっている。色々なツールを使っている中で特に勉強させてもらうことにしたのが無料BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの「Google Data Studio」。オンラインのBIツールはTableau(タブロー)とかが有名だったけど、Googleならとりあえず無料で始められるということで師匠に弟子入り。彼のオフィスに夜な夜な通い練習させてもらうことに。オンラインBIツールって何よということなのだけど、要するに「ブラウザからアクセス可能で見た目も使い勝手も良きなレポートが作れるツール」と自分は今のところ考えている。Googleらしく各種プラグインとの連携も充実していてオンラインマーケに使えるツールもかなり揃っているのでハマる人はすごいことになると思う。ただ自分はそこまでの必要はなく、手始めにビジュアル化の課題としたのは以下。

①マグネットの輸入材料の在庫状況リアルタイムレポート

②月次の会計データを積み上げたり切り口を変えて集計できるツール

まず①。輸入材料は一度発注ミスが起こると生産ラインショートを回避するために超高い航空便で間に合わせないといけないなどリスクが大きく、なかなか神経を使う。ただ昔からこの業務はエクセル上の在庫数字の変化しか頼りになるものがなく、またその時々によって消化スピードも変わるため「残りXXトンになったら発注」というのは自分の勘に頼るような状態だった。また情報の更新に購買担当者と倉庫現場担当者で一日から数日のズレがあったりして、来週にでもショートしかねないという状況ではこのズレが致命的なものになっていた。

ここでの肝は「在庫状況をビジュアル化」し、「リアルタイムのアップデート」を実現、その上で「現場に余計な仕事を増やさせない」ということだった。あーだこーだ手探りで試行錯誤の結果できたのが以下のようなもの。資材名称は伏せる。

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左側の棒グラフ群はカテゴリ別の3か月の在庫の動きを可視化したもの。右テーブルでは現在発注済みで納入待ちのアイテムが予想納期と一緒に見れる。二つ合わせて「XXはそろそろ発注入れないと1か月後にはまずいな」「XXは少ないけど来週入るから大丈夫だな」「XXは減り方が普段より遅いのは何か問題でも?」あるいは「これ安全在庫として入れたけどそろそろ一回使っとかないと」というのが直感的に考えられるようになる。

またエクセルとの違いでは、グラフそのものを毎回いじらなくても別のところで入力された更新情報が同じURL内でリアルタイムで反映されていくことが大きい。中でも重要なのが、この情報をデイリーでアップデートする現場担当者はGoogleフォームにスマホで入力するだけということ。今までは倉庫現場スタッフが紙にメモしたのを倉庫事務スタッフに渡して入力し直す。更にそのエクセルを購買担当者に転送して入力し直すという3ステップの作業をしていたのでどれだけ楽になったか。入力フォームは以下。最初のビジュアルとタイトルが微妙に違うのはご愛嬌。

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現場担当者がフォームに数量をkgで入れると以下のようなスプレッドシートへ情報が蓄積されていく。今回Google Data Studioでレポートを作る前はまさにこんな感じのエクセルのリストで減り方を確認して頭の中で何とかイメージを描くしかなかった。

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で、「この蓄積されたデータをどのように料理(表示)しますか」というのを設定したのが最初のビジュアルになる。なお最初のビジュアル右側の発注済みアイテムのテーブルは別のところからデータを引っ張っていて、このようにひとつのレポート上で複数のソースのデータを表示できるのも優れたところ。Before/Afterをまとめるとこうなる。

Before:現場作業者が紙でメモを取る→事務員がエクセルに入力し購買に転送→購買がエクセルに入れる→定期的に上司(僕)がレビューして「XXの資材は発注してる?いつ納期?」と確認し、足りないものは発注する流れ。更新情報も見た目で一発でわからないので結構考えないといけなかった。

After:現場作業者がスマホでフォームに入力→メールで更新アラートが入りアクセスすると最新状況に更新されている。発注状況も合わせて見れるから担当者にいちいち確認する必要もなし。常に一目で発注の要不要が判断できるようになり、これによって不安でなかなか任せられなかった輸入資材の発注業務を自分から部下に棚卸できるようになった(コレなにげ一番大きい)。

ということで随分良くなった。システムというと大きな投資を伴うものという思い込みがあったけど、自分達でもこんな風に無料で最新のツールを使うことができるというのは大きな気づきだった。

ただここで忘れてはいけないのが「どんな最先端のツールを使って綺麗なビジュアルを駆使しても結局管理するのは人」ということだ。冒頭のグラフを再掲すると左下のカテゴリーで10月後半にあわやショート寸前まで在庫が減ってしまっている。これはコロナ禍で稼働停止となった競合他社への発注をなんとかカバーして欲しいというリクエストがある顧客から入り一時的に材料使用量が倍増、結果資材発注が追いつかず「あと1日遅れたらライン止まる」という状態に陥ったのだった。最終的に首の皮一枚で繋がったものの、これは本当に危なかった。また現場の在庫を常に自分達の目で確認するのも欠かしてはいけない。良い勉強になったと今にして思う。ちなみに最近ではコンテナ不足の影響で輸入資材の納入スケジュールがガタガタになっており在庫は厚めにしていると言い訳もしておく。

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Data Studioは基本的な機能の範囲であればコーディングやプログラミングの知識は不要というお手軽ツールとはいえ、最初コツを掴むまではとにかく手を動かして試してみるしかないし、できれば誰か詳しい人に基本的な動かし方を目の前で披露してもらうのが一番良い。自分の場合は師匠がいたので良かったのだけど、師匠のお手本抜きではツールの存在を知っても10分触って断念していたと思う。使ってみたいけど周りにできる人がいないという方はこんな僕で良ければ基本のキくらいはアドバイスできると思うのでお声掛け頂ければ。

長くなったので②の経理ツールについては別記事で。またその後僕の手を離れ若手タイ人IT担当者の手に渡ってからはもっと多くの用途に使われビジュアルも洗練されたものになっていっているのでその辺も追々紹介したい。

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