きみとバンジーは飛べない

人生ではじめて、ちゃんとした告白を受けて、ちゃんとした彼氏ができた。

すごくわたしのことを好きでいてくれて大切にしてくれて、いつでも優しいし家族を大事にしてて勉強も熱心でスポーツが好き。お酒は飲めるけど大学生っぽいのが嫌いだからサークルとかそういうのは嫌い。MARVELとかディズニーとか、ポテトサラダとかそういうのが好き。三人兄弟の末っ子、ドが付くほど長女なわたしからすると同い年だけど可愛くて仕方ないそんな彼氏。


彼に出会うまで苦い経験ばっかりだった。バイト先の先輩に1年間片思いして、結果振られに行って、自暴自棄になって遊ばれて、本気になったりを繰り返して、男とか恋愛に半ば諦めかけてた。

そんなときに、私を求めてくれた彼に、わたしは救われた。彼といれば絶対に傷つくことはないし、ずっとこのまま幸せでいられるって思えた。だからわたしは、絶対彼を大切にするって決めた。わたしは彼を絶対に傷付けたくない。


そんな矢先、卒業シーズン。営業終了後のバイト先に呼ばれた。社会人になる先輩と、同い年と、例の先輩とがいるから一緒に飲もうよと。社会人になる先輩のただ純粋なお誘いを断れず向かって、ロング缶を頂戴した。

飲みのノリで社会人になる先輩が「俺、大学生でやり残したことがある。バンジーがしたい。」と言い出すと私以外の2人が勢いよく「自分も!」と乗り出した。酔っぱらいのノリだし、と思ってわたしも「じゃあ!」と手を挙げた。

これがまさか実行に向かうなんて思ってない。

急につくられたトークルーム、どんどん話が進んでいく。わたしが告白したあいつも、わたしにお構いなく話を進めていく。

待って、わたしだめです彼が良い顔しませんでした😥ごめんなさい!

とメッセージを残して既読を待たずに退会した。勿論、彼に良い顔も悪い顔もされてない、話してない。みんなごめん、バイトの外でこの人と会う訳にはいかないんだ。それをしてしまうと、きっと思い出してしまう。この人の助手席に乗ることに憧れて、外で会うことに憧れたわたしを。


遊ぶ予定の前日も当日も、とりあえずシフトをいれた。前日、例の先輩がお店に来た。シフトは入っていない。どうやら作業をしにきたらしい。まあそんなことに構ってる暇はないくらいこっちは忙しくて、目が回るほどだったときにふと「お疲れ様です、なんか、食べたいの買ってあげるよ」と来た。どういう魂胆だと睨みつつ、もちろん後輩として喜びつつ、スイポテを買ってもらった。そして小声で「   さんにごめんなさいって伝えといてください」と言った。

そのときの顔が、わたしが告白したときのあなたの顔と全く同じに見えた。

うっすら動揺して、でもどこかで勘づいていたかのような顔。そりゃそうだよ、あなたとバンジーを飛べるわけがない。あなたの助手席に乗って、免許持ちなのにうんぬんとかいじられて笑って、バンジー飛ぶみんなを見送って、ご飯食べて家まで送ってもらう1日なんて。彼女でも、友達でもない、ただのバイトの後輩じゃん、私。


翌日、彼に電話で「先輩にバンジー誘われたけど断ったんだ」と話した。

彼は「バンジーなんて俺飛べないわ〜」と応えた。わたしは「だよねわたしも。」と笑った。もしかしたら、なんて気持ちはこっそり仕舞っておいて。

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