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呪いは存在するのかそして私は魔女になれたのか


夏の終わりの思い出、それは20代中盤の頃。


連日の残業でキャパぱつんぱつんだったある日、同棲中の男(一回り以上年上・バツ2)が、以前振られた女の写真を後生大事に財布に閉まっているのを見つけた時、から始まる。

男は少し悪びれたがすぐに別れを口にし、私は今思えば馬鹿みたいに動揺した。

それまでの人生(今思えばたった20数年っていうね)で一番好きな人だった。
こんなタイプの人間が男のやり方に合わせよう、気に入られたいと頑張る程に好きだった。

それだけ心を捧げた相手(気持ち悪い言い方だけどこれが一番しっくりくる)、今住んでるこの部屋、この街での娯楽、買って貰った自転車、男の飼っていた猫との時間…それら全部、その瞬間特別大事にしていたもの全部を話し合い5分の後の一言で失うの、マジで⁈という納得のいかなさとか喪失感に耐えられなかった。弱いなぁ…。


本当は別れたくなかった、でも他の選択肢はなかった。




すぐ同棲を解消し、とにかく仕事に邁進して(おかげで出世した)、ひと月で4キロ痩せ、自信を失い、仕事以外で人に会うのも飲みに行くのも億劫で、眠れず、夜中に泣いて時々目がパンパンのまま出勤した。


約1ヶ月後のお盆が明けた頃、置きっ放しだった何足かの靴とお土産を渡したい、と男から連絡があった。


残暑の厳しい日に男のリクエストで鰻を食べた。
たっかいたっかい店に行ったのでここぞとばかり頼んでやったが、禄に固形物を食べられない日々が続いていたので味なんかわからなかった。


同棲当時、私に痩せろ痩せろと言っていた男は私の後ろ姿を見て「お前痩せたな…」と力なく言った。


車で来ていた男に送ろうか、と言われたので一度は車に乗ったが、すぐに降りたくなった。


私がしんどい気持ちで一杯だった間、男は平然と過ごしてさっさと切り替えて次の方を向いていて、今日会いに来たのも私から解放されたいだけで復縁するつもりなんかこれっぽっちもない、身体を気遣う言葉も口先だけでとにかく早く解散したい、ということがありありと伝わってきたから。
 

私は日本橋のあたりで車を降りた。
ギラギラの太陽とアスファルトの照り返しで体感温度40度くらいの交差点で、痩せて体力が落ちたせいか以前より酷くクラクラしながら更には大して好きでもない鰻のせいで胸焼けする中、心の底から男を呪った。


「私の心を簡単に踏みにじったあの男に、それ相応のバチが当たりますように」


呪うことで大切にしてくれなかった男に対する自分の情けない未練を断ち切りたかったのだろうか、とにかくその位、呪いはエネルギーになった。


呪いを唱えた私は、二度とこんな目に遭ってたまるかチクショー!→こんな風に扱われる位ならこっちからすぐ捨てる強さを持つんだ→自信を持って仕事しよう→仕事は裏切らない→仕事においても、人に迎合して自分を変えるようなことをしない位の強さを持て、と、既に鉄の女と呼ばれていたのが拍車がかってしまうのだが…いや正しい進化だったのだ(と信じたい)。




半年後、その年のバレンタインディには雪が降った。
スタッフと雪を見ながら渋谷駅へ向かう途中、何故だかちらっと男のことを思い出したことを覚えている。

その翌日、突然男から連絡があった。


「車で事故って廃車になった」
「お前に酷いことをしたバチが当たったと思った」



………‼︎‼︎‼︎



男の話によると、鰻を食べた日、私の痩せたお尻を見た日から、彼の中に罪悪感のようなものが芽生え始めたそうだ。


あの日、私は確かに呪い、そのタイミングから呪いはきちんと発動していたのだ。

私は魔女になれたのだ。
(勝利宣言)





……なお実はそれ以前に「浮気した彼氏を平手打ちして別れる→すぐ後に彼は耳が聞こえなくなって入院する羽目になった」っていうのもあるので、私は既に魔女だったのかもしれない。


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