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実家のトイレに吊るされたテレホンカードの謎

実家は田舎の一軒家で東京の家と比べるとだいぶ大きい。トイレもそれぞれの階にある。2階のトイレの壁にはいつもカレンダーが貼ってあった。

それを発見したのは帰省中、トイレを使用した時のことだった。カレンダーの画鋲に紐が引っかかっており、紐の先は穴の空いた使用済みのテレホンカードが結ばれていた。なんだこれは?わたしが小学生の頃は携帯がそんなに普及しておらず名札の裏に10円玉を入れていた。なのでまあ、テレホンカードも知らないわけではないがさすがに久しぶりすぎたし、まさかこんな実家のトイレでの再開は思ってもいなかった。
この携帯全盛期にトイレに使用済みテレカ。一体何事か。
父に聞いたところ、「お前トイレの鍵かけてないの?」と質問で返されさらに困惑した。
わたしはその頃一人暮らしで、トイレの鍵どころかドアすら閉めずお花を摘んでいたのでまさかそのことを言われてるのかとドキッとしたがどうやら違うらしい。

事の始まりは母だった。
家には母1人だったがいつもの癖で鍵をかけ、用を足してトイレから出ようとすると鍵が開かない。
誰か押さえてる…?家に誰もいないのに?
そんなわけない!鍵が壊れた!!!
うちのトイレは普通のサムターン錠で、つまみを回して四角い閂がガチャンとでてくるあれだ。その閂が回しても回しても戻らない。
回しても上がらない鍵、引いても押しても開かないドア。築10年以上だがさすがに頑丈な現代の住宅。丸腰でトイレの内側からできることはそんなになかったと母は語った。
まだ14時、父が帰るまで4時間はある。春の北海道、どんどん気温が下がるだろう、暖かいからと暖房を切っていたことを後悔したそうだ。携帯は手元になく、このままでは最悪トイレで死…母は逡巡した後、意を決して助けを求めることにした。
トイレには換気用の小窓があった。少ししか開かないので出ることはできないが、その窓をめいいっぱい開けて外に向かって叫んだ。
「誰か〜!助けてください〜!!だれかー!!!!」
運がいいことに外で庭いじりをていた裏のお宅のおばあちゃんに母の声が届いた。
「その声は、お隣の奥様…??どうされたの〜!?!?」
「おばあちゃん…!トイレの!2階のトイレの鍵が開かないんです!家に入って外から開けて〜!」
そう、北海道の田舎はほぼ鍵をかけない。家の鍵はかけないのにトイレの鍵はかけるんかい、とわたし思った。
しかし「山田さんいる〜!?ガラッ いないの〜?ホタテたくさんもらったから置いておくわね〜!」
が日常的に成り立つ地域だ、そういうものなのだ。
そうして2階に到着したおばあちゃん、コインで回すも鍵は開かず、母、再びの絶体絶命。
ここでおばあちゃんはおじいちゃんを召喚した。
ドアの隙間に薄いものを通して閂を上げれば…?というおじいちゃんのアイディアが功を奏しトイレに閉じ込められて1時間強、ご近所の必死の救出劇により母は救出された。

という事件がありその後しばらく我が家では、トイレに鍵かけるべからず、となったのだがみんな癖でガッチャンガッチャン鍵をかけてしまうそうで、もしかけてしまった時の脱出用としてテレホンカードが設置された。ということだった。
ホテルみたいだろ、カードキーだよ。どこか得意げな家族を前にわたしは思った、いや、鍵直せよ。

そう、一回もこのカードキーを使ってないわたしは鍵をかけていないということが公になったのだった。というか家族がトイレに鍵をかけていたことは初めて知ったんだが。昔からそうだったっけ…なんでわたしだけその習慣ないんだろう…。
これにもちゃんとした理由があった。
わたしがノックをせずにいきなりドアを開けるので鍵をかけるようになったと。
つまりはお前のせい…という空気になりかけたのでわたしは飛行機に乗ってサッと帰ってきた。

これが俺の家のトイレの話。




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